【増田俊也 口述クロニクル】#44


 作家・増田俊也氏による新連載スタート。各界レジェンドの生涯を聞きながら一代記を紡ぐ口述クロニクル。

第1弾は写真家の加納典明氏です。


  ◇  ◇  ◇ 


増田「撮影中に女性がOKの気分になってるっていうのはわかるんですか」


加納「ていうか、その気がないのにその気にさせてナンボでしょ。撮影をしてる間にいかにその気にさせるか」


増田「それは野村克也みたいですね(笑)。キャッチャーとしてずっとバッターに囁いてたという」


加納「そうだね。似てるかもな(笑)」


増田「典明さんも少しずつ上がって、興奮して」


加納「でももちろん仕事が先。撮り切らなきゃいけないから、まずはそれが最初だよね。でも、そのうちにアプローチしていいかなとか湧いてくるわけです」


増田「それで、続いた人たちも結構いるんですか? 付き合うということですが」


加納「なくはないけど、あんまりないですね。2回か3回はテストで。その後10回続く人もいれば、1回や2回で終わる人もいる」


増田「なるほど」


加納「だから少々付き合った子はいますよ。誰がどうだったかもう覚えてないけど。なんせ数が半端じゃないから」


増田「先日、1晩で4人廻っていたと仰ってましたね。それは全員に1回は出すんですか?」


加納「します。

全員に。相手によっては1回じゃ済まないこともあるわけだから1晩でかなりの回数をこなしてました」


増田「途中で空砲にならないんですか」


加納「いや。ならないね」


増田「そんなにたっぷりあったわけですか、睾丸に」


加納「ありましたね」


増田「それぞれの女性は、自分以外にこれからさらに4人廻るとか5人廻るとか分かってない?」


加納「基本的にわかってないですね。うん」


増田「女性は自分だけだと思ってるから2回3回と求めてくる人もいたと」


加納「で、忙しい時は彼女のうちのアパート行って、玄関で『今日は忙しいから』ってそのまま脱がして入れて。俺帰るぞって(笑)」


増田「立ちバックになっちゃうと」



「まあ、男子としては幸せな方だったね」

加納「そうです」


増田「すごいですね」


加納「いや自分でもね、4人目から5人目とか行くときなんか、鏡を見たりするすることがあって『お前もよくやるよな』と自分に言ってた。でも、なおかつ、やりたいんですよ」


増田「その4人、5人っていうのは撮影した相手ばかりですか?」


加納「みんながみんなではないですよ」


増田「でももちろん有名人ですよね?」


加納「ポッシブル(可能)ならね」


増田「すごいな……」


加納「褒められたことじゃないけど、あの頃は自分でもね、いろいろ考えたよ。誰でもあれができるとは思わない」


増田「車に乗って廻ったんですか?」


加納「そう」


増田「夜の東京を」


加納「そう」


増田「信じられない世界ですね……」


加納「自分の中から湧いてくる欲望に俺は正直なわけ。自分で自分の体ぐらいついてこさせますよ」


増田「その時代が終わった後も多少年齢がいっても2人3人はいたわけですよね」


加納「もちろん」


増田「だとすると毎日ですね。最低1回は」


加納「そうですね」


増田「そういったペースの女遊びというか、本気の恋もあったのでしょうが、50歳くらいまで続いたんですか」


加納「50歳だったか何歳だったかは憶えてないですが、まあ、私は男子としては幸せな方だったでしょうね」


(第45回につづく=火・木曜掲載)


▽かのう・てんめい:1942年、愛知県生まれ。19歳で上京し、広告写真家・杵島隆氏に師事する。その後、フリーの写真家として広告を中心に活躍。69年に開催した個展「FUCK」で一躍脚光を浴びる。

グラビア撮影では過激ヌードの巨匠として名を馳せる一方、タレント活動やムツゴロウ王国への移住など写真家の枠を超えたパフォーマンスでも話題に。日宣美賞、APA賞、朝日広告賞、毎日広告賞など受賞多数。


▽ますだ・としなり:1965年、愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が発売中。現在、拓殖大学客員教授。


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