自民党の総裁選に出馬した高市早苗・前経済安保相(64)の発言が、「排外主義を煽る」と物議を醸している。


 問題の発言が飛び出したのは、22日に行われた総裁選の所見発表の演説会。


「皆さま、こんにちは。高市早苗、奈良の女です」と切り出した高市氏は、「奈良の鹿を足で蹴り上げるとんでもない人がいます。殴って怖がらせる人がいます。外国から観光に来て、日本人が大切にしているものをわざと痛めつけようとする人がいるとすれば、なにかが行き過ぎている、そう思われませんか。SNSでも目にしますよね」「日本の伝統を守るために体を張ります」と、外国人政策に取り組むと訴えた。


 強硬な外国人対策を掲げることで、右寄りの党員から支持を得ようとしたのだろう。SNSでは「奈良公園のシカ暴行」というワードがトレンド入りしている。


 ところが、県奈良公園室の担当者によると、「毎日2回公園を巡回しているが、観光客による殴る蹴るといった暴力行為は日常的に確認されておらず、通報もない」という。「東京新聞」(23日付)の取材に答えている。外国人の暴行が横行していることはない、というのだ。


 奈良公園の担当者は、「弁護士JPニュース」(6月23日配信)に対しても、「鹿に対する日常的な暴力行為があったとは把握していません」と明言している。


 たしかに、過去には奈良の鹿を傷つける事件は起きてはいるが、2010年にボーガンで矢を放って鹿を死なせた男も、21年に鹿をオノで叩いて殺した男も、いずれも日本人だった。


 外国人差別を助長しかねない高市発言に対しては、さすがに野党から批判が噴出している。


「外国人問題には感情的にならず、データ、ファクトに基づいて議論するのが重要だ」(日本維新の会・藤田共同代表)


「排外主義的な議論を煽るのは、大きな問題があるのでは」(共産党・小池書記局長)


 奈良公園の担当者は、「鹿への暴行」を否定しているが、高市氏はどこから「暴行情報」を仕入れたのだろうか。



迷惑系ユーチューバーに感化されたのか

ネット上では、迷惑系ユーチューバーだった、へずまりゅうとの関連が取り沙汰されている。逮捕後、社会復帰したへずまりゅうは、昨年7月から「奈良の鹿を守る」パトロールを開始し、その様子をSNSに投稿。


 今年7月20日に投開票された奈良市議選に「外国人から鹿さんと市民を守ります」と訴えて出馬し、初当選している。


 ネットでは、高市発言に対して「へずまに乗っかったって見方もあるな」「へずまりゅうに擦り寄ってまで総理になりたいか、高市早苗」「へずまさんと兄弟の盃を交わして“へずま早苗”に改名すればいい」といった声が飛び交っている。


 どこまで「鹿暴行発言」に根拠があるのか不明だが、外国人排斥を煽る発言だったのは間違いないのではないか。


 法大名誉教授の五十嵐仁氏(政治学)はこう言う。


「いま、日本でも差別と分断が急速に広がりつつあります。だからこそ政治家は、その風潮に歯止めをかける必要があるはずです。排外主義は、日本社会にとってプラスにならないでしょう。外国人を追い出して、はたして日本社会が成り立つでしょうか。

国力が落ちた日本は、むしろ外国人から選ばれなくなるリスクを心配するべきでしょう」


 高市氏の発想は、米トランプ大統領とほとんど変わらない。


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 自民党総裁選をめぐる高市早苗氏の動向は【もっと読む】【さらに読む】で詳しく報じている。


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