【増田俊也 口述クロニクル】#46
作家・増田俊也氏による新連載スタート。各界レジェンドの生涯を聞きながら一代記を紡ぐ口述クロニクル。
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増田「女性に関しては、先ほど休憩の時間に典明さんがお話しされていた『もっとリニューアルして強くなる』という話が興味深かったです」
加納「こう言うと怒られるかもしれないけど、女性はまだ“人間になりきっていない”と思うんだよ。『もっと人間になれよ』と言いたい。五分と五分の対等な関係でいこうよと。社会というリングの上で、今もなお、男女の格差は日本では根強い。海外と比べてもまだまだ大きいよね。
女性は、その美しさや気配、匂いなどでごまかすのではなく、もっと本質的な部分で対等になってほしい。まずは男としっかりと向き合って、喧嘩するくらいの覚悟で、互いにぶつかり合うことが必要だと思う」
増田「そこまで言ってしまうと、今おっしゃった『美しさ』や『気配』『匂い』といったものを失うかもしれませんね」
加納「いや、それは、女性をちゃんと見ようとしていないからだ。女性をもっと複層的に、多層的に、レイヤーとして捉えれば、いろんな可能性があると思う。まだ表に出ていない女性もたくさんいるし、もっと新しい女性像を作ることだってできる。女性は自分自身をもっと創造していっていいと思う。
例えば、日本を代表する女優として吉永小百合っていう人がいるけど、俺は正直、あまり好きじゃない。
増田「いまだに理想の女性と言われますよね。本人が望んでいるのかどうかは別として」
加納「俺は“吉永小百合”が情報として伝わってくる感じがね、嫌いなんだよ」
増田「典明さんの独特の感性ですね」
加納「俺の感覚は偏見に満ちているかもしれないし、それでいいとも思ってる。偏見がどこまで許されるかっていう考えを持っているから。俺は俺にどれだけ向き合えるか、どれだけ突き進めるか、それが大事だと思う。
現実という環境の中で選択をし、時には誤解されたり、偏見だと言われたりもする。世の中には『常識』とか『通説』があるけど、俺はそんなものに縛られるつもりはないし、できるだけ無視して生きていきたい」
増田「吉永小百合さんはその象徴のような存在だと」
加納「うん、そう思う1つの標本ですよ。日本人の悪い癖で『ザ・日本で有名な女優』として吉永さんがいるわけだけど、単なる標本じゃないのかって思う。そこに本当に“人間”がいるのか? 本当の“女”がいるのか? 彼女という人間が、吉永という存在の中にいるのか? そういうふうに思えるね」
増田「メディアの責任も大きいですよね。ご本人の問題というよりは」
加納「周りが甘いんだよ。結局、社会がもてはやしすぎる。で、本人さえもその気にさせて作り上げてしまう。
増田「じゃあ、吉永さんとは対極にある人って誰でしょうか。例えば中森明菜は?」
社会が「標本」を作ろうとするその構図が気持ち悪い
加納「別に。芸能人ってあんまりピンとこないんだよな。芸能人で言うと誰だ?」
増田「先ほど少し話題になったのは、淡路恵子さん。松坂慶子さんと3人で飲んだときの」
加納「ああ、たしかに大人の女だ。あれは色気とか、ある種の“女らしさ”のパターンとしては悪くないよね。ただ、今は極論をしてるわけだから、そこには入ってこない。あ、でも、1人すごくいい女がいた。突出していい女だった」
増田「誰ですか?」
加納「笠井紀美子です」
増田「ジャズシンガーの?」
加納「そう」
(第47回につづく=火・木曜掲載)
▽かのう・てんめい:1942年、愛知県生まれ。19歳で上京し、広告写真家・杵島隆氏に師事する。その後、フリーの写真家として広告を中心に活躍。69年に開催した個展「FUCK」で一躍脚光を浴びる。
▽ますだ・としなり:1965年、愛知県生まれ。小説家。北海道大学中退。中日新聞社時代の2006年「シャトゥーン ヒグマの森」でこのミステリーがすごい!大賞優秀賞を受賞してデビュー。12年「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で大宅壮一賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。3月に上梓した「警察官の心臓」(講談社)が発売中。現在、拓殖大学客員教授。