【芸能界クロスロード】


 TBSが中継した「世界陸上」。世界各国の選手の活躍と同時に、改めて見直されたのがスペシャルアンバサダーを務めた織田裕二の存在感だった。

2年前のブダペスト大会でいったん退いたが、今回は復活。


 生放送の段取りなど織田には通用しない。お約束のハイテンショントークに衰えなし。「相変わらず熱いな」と笑う人もいれば、不快に感じた人もいたはずだ。確かに、「選手に失礼」と思える失言もあり、織田の起用は賛否両論があったが、善きにつけ悪しきにつけ話題になるのは注目されている証し。織田の健在ぶりは十分にアピールできた。


 織田の独り舞台のような中継に、アンバサダーを務めた今田美桜は口を挟む余地はなく、「はい」と合いの手を入れるのが精いっぱい。学生時代に陸上経験のある今田も何のために出演していたのか、「番組の花」で終わった感もある。


 スポーツ番組に芸能人起用はすでに定番だが、「なんで出ているのか、邪魔」と言う人も少なくない。それが織田の出現で見直された。織田の陸上に対する熱い思いに釘付けになる視聴者もいたほど。今回、織田が規則正しく静かにアンバサダーを務めていたら、中継も盛り上がらなかっただろう。


 芸能界には俳優とタレントなど二刀流が普通にいるが、織田の場合、「踊る大捜査線」の青島刑事と「世界陸上」の熱い男の二刀流を貫く稀有な俳優だ。


 正しく言えば、変則の二刀流になってしまったのか。


 19歳の時、オーディションで銀幕デビューした織田。ドラマ「東京ラブストーリー」の永尾完治役でブレーク。フジの“月9”ブームの立役者になった。その後、各局で主演を張るなか、1997年スタートの「踊る大捜査線」が大ヒット。熱血刑事・青島俊作が見事にハマり、シリーズ化に加え劇場版、スピンオフまで人気作品になった。


「踊る大捜査線THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」の興行成績は173.5億円と歴代1位を記録。「レインボーブリッジ封鎖」の言葉は流行語のように使われた。この金字塔も上映中の「国宝」が抜きそうな勢いだが、映画史に残る作品として語り継がれる。


 織田は役のイメージが付くことを嫌うように青島刑事を卒業。「椿三十郎」など時代劇にも挑戦したが、「他の役だと織田の魅力が半減する」とヒット作は生まれなかった。


 渥美清がシリアスな映画に出演しても「寅さんだ!」と笑ってしまうように、織田から熱血漢を取れば、気の抜けたビールのように味気ないものだった。


 役が生んだ織田の“熱血感”を有効利用したのがTBS。「世界陸上」のメインキャスターに起用して見事に成功した。


 織田は中・高とテニス部に所属。陸上経験はないが、陸上を熱く語る姿勢は好感が持たれた。青島刑事が上司に「事件は現場で起きている!」と言うのと似ている。


 フジが俳優として育て、TBSが異色のキャスターとして熟成させた織田。


 2年後の北京大会については「これで卒業」と出演しないと明言した。


 気の早いメディアは武井壮鈴木亮平が有力候補と予想しているが、織田あっての世界陸上。寅さんに代役がいないように、織田の代わりを務められる人もいない。TBSが改めてオファーを出すのは必定。後は織田の返事次第だ。


 来年は劇場版「踊る──」も復活する織田。期せずして誕生した熱血刑事とキャスターの二刀流は円熟期を迎えている。


(二田一比古/ジャーナリスト)


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