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現地のガソリンスタンドで給油のついでにタイヤの空気圧点検を依頼した。指定した数値は35。スタッフは手慣れた手つきで作業を終え、男性は安心して再び走り出した。しかし、その10日後、別の場所で改めて数値を測定したところ、戦慄の結果が判明した。1本が47という異常な高圧状態で、39が2本。1本だけが34という、極めて不均一な状態だったのである。依頼した数値とは似ても似つかない、あまりに杜撰な管理実態がそこにはあった。
一般的に、タイヤの空気圧が適正値を大きく逸脱することは、重大な交通事故に直結する。特に、今回のように指定値を大幅に上回る「過充填」は、タイヤのサイドウォールに過度な緊張を強いる。気温が40度近くまで上昇する東南アジアの過酷な環境下では、路面温度はさらに高温となる。熱によって膨張した空気がタイヤ内部の圧力をさらに押し上げ、走行中に突然のバースト(破裂)を引き起こす危険性は極めて高い。
さらに恐ろしいのは、4本のタイヤに生じた「数値のバラつき」である。今回報告されたケースでは、3本が高圧で1本だけが低いという、車両のバランスを著しく損なう状態になっていた。左右のタイヤで空気圧に大きな差が生じると、直進安定性が失われるだけでなく、急ブレーキをかけた際に車両が予期せぬ方向へ流れる「片効き」現象が発生する。また、タイヤの接地面積が不均一になることで、本来の制動性能が発揮されず、制動距離が大幅に伸びることも専門家によって指摘されている。
なぜ、このような事態が防げないのか。背景には、東南アジア諸国における計測機器のメンテナンスに対する意識の低さがある。ガソリンスタンドに設置された空気入れのゲージは、長年酷使され、雨風にさらされて精度が狂っていることが珍しくない。スタッフ自身も「数値さえ出ていれば問題ない」と信じ込み、その数値が正確かどうかを疑う教育を受けていないケースが散見される。利用者側からすれば、プロに任せているという安心感があるため、まさか機械そのものが壊れているとは想像しにくい。これが、回避が困難な「沈黙の罠」となっているのである。
過去には、不適切な空気圧管理が原因とみられる死亡事故も報告されている。
この「防ぎようのない危険」にどう立ち向かうべきか。唯一の解決策は、個々のドライバーが自衛の手段を持つことである。市販されている安価なポータブル式のデジタル空気圧計を常備し、スタンドでの作業直後に自ら測定し直す。あるいは、信頼できる一部の整備工場以外では空気圧を調整しないといった、慎重な姿勢が求められる。
旅先や駐在先での何気ない日常に潜む、物理的な破壊を伴うリスク。それは、私たちが技術の進歩とともに忘れかけていた「計測への疑い」という教訓を突きつけている。一見便利に見える無料のサービスが、実は死への片道切符になりかねないという冷酷な現実を、私たちは重く受け止めるべきである。10日間もの間、異常な空気圧で走り続け無事であったことは、単なる幸運に過ぎない。
昔、JICA職員から、日本人が当たり前だと思うことが出来ないのが、発展途上国の証。と言われたことが頭を過った。
【執筆:Eula】








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