世界の雇用市場では、AIやデジタル技術の普及によって、仕事に必要な能力が短期間で変わり始めている。世界経済フォーラムの「Future of Jobs Report 2025」は、2030年までに働く人の主要スキルの39%が変化すると見込む。
一度学んだ知識だけで働き続けるのではなく、現場で生まれる新しい知見を取り入れる力が、個人にも企業にも求められる時代となった。

その他の写真:失敗と原体験を教育事業へ変えてきた迫佑樹代表

変化の速い領域ほど、実務家が持つ経験には価値がある。AIの活用方法、広告運用、営業、店舗のリピート率を高めた接客など、成果へ至る細かな判断は、一般化された教科書になるまで時間がかかる。一方、良い知識を持つ人が販売や集客を得意とは限らず、学ぶ側も購入前に内容の質を判断しにくい。知識を持つ人と必要とする人の間には、流通と評価という二つの壁が残っていた。

この空白に仕組みを持ち込んだのが、株式会社ブレインの知識共有プラットフォーム「Brain」である。専門家や経営者、個人事業主などが、自らの知識やノウハウを有料で公開し、購入者のレビューを通じて良質なコンテンツを見つけやすくする。公式サイトが掲げる「良い知識には、価値がある」という考えを、個人同士で知識が流通する市場へ変えた。

公式サイト掲載値では、Brainの登録者数は 2026-08-28 時点で40万人を突破し、年間流通額は10億円を超える。Hacksシリーズの累計受講生数も3万7000人を超えた。集計時点の確認は必要だが、個人の経験へ対価を払って学ぶ行動が広がっていることは読み取れる。

Brainの着想は、迫佑樹代表が先に運営していたプログラミングスクールから生まれた。
友人紹介が成立した際に報酬を支払う制度を設けたところ、口コミによる受講が増え、売上は本人の説明で約1.5倍になったという。良い商品に「紹介したくなる理由」が加われば、販売力や知名度が十分でなくても価値は広がる。その手応えが、知識にレビューと紹介機能を組み合わせる発想へつながった。

開発リーダーを任されたのは、同スクールで学んだ卒業生だった。教えた相手をサービスづくりの側へ迎えたことは、迫氏の教育観を象徴する。取材によると、公開時には約30人の発信者へ参加を依頼し、開始初日に旧Twitterの国内トレンド4位へ入った。販売側と学ぶ側の双方に潜在需要があったことを示す反応だった。

開始時の注目を知識の流通へ変えたのが、レビューと紹介の機能である。購入者の評価によって内容を比較しやすくし、納得した紹介者には報酬が入る。販売者だけが広告する構造ではないため、発信力が大きくなくても、購入者と紹介者の反応によって価値が広がる可能性がある。自ら集客することが難しい専門家へ販路を開いた点に、Brainの役割が表れている。

もっとも、紹介報酬のある市場では、売れた量と内容の質が常に一致するとは限らない。
レビューの信頼性、誇大表現への対応、購入後の満足度を守れるかが、プラットフォームの信用を左右する。規模が大きくなるほど、流通額だけでなく、学ぶ側が安心して選べる運営を磨き続ける必要がある。

選びやすい市場を整えても、知識を買っただけで人生や事業が変わるわけではない。そこで同社は、Skill Hacks、Brain、コミット、SACOIN、TigerFundingを通じ、知識を選び、身につけ、行動し、次の機会へつなげるまでを一つの教育事業として組み立てようとしている。

「コミット」が担うのは、教材を増やすことではない。公式説明では、成功者の基準と姿勢を学び、方向を定め、必要な知識を選び、実践と継続を管理する「限界突破プログラム」とされる。参加条件は「超人になりたい方」。Brainが「何を学ぶか」の選択肢を広げるのに対し、コミットは「どうやり切るか」を支える。知識が増えた時代だからこそ、学ぶ内容を絞り、行動を続ける環境が必要になった。

学習の先には、育てた人材への出資や共同事業も構想する。Brainの開発を卒業生が担い、別の卒業生とはYouTubeチャンネルを立ち上げた。知識販売、学習、伴走、事業経験、出資までがつながれば、教育の成果を資格や就職だけでなく、実際の事業でも確かめられる。


Brainの強みはコンテンツ数だけではない。知識を市場へ出し、選べるようにし、行動と事業経験まで支えようとしている。「知識を売る場所」から教育インフラへ進めるかは、今後の継続率や事業化実績によって、より客観的に確かめられるだろう。

取材を通じ、迫氏の教育事業は、知識を増やすこと自体ではなく、その知識を使って人生の選択肢を広げるところまで責任を持とうとしていると感じた。Brainで始まった学びが、コミットや共同事業を通じてどれだけ多くの実践者を育てるのか。教育インフラとしての次の進化に期待したい。
【取材/執筆:Y.U】
編集部おすすめ