【その他の写真:タイ国際航空】
こうした大混乱の中で、航空業界の関係者を驚かせたのが、日本の航空会社である日本航空(JAL)と全日本空輸(ANA)の見事な運航の安定感。タイ国際航空の足元が大きく揺らぐ一方で、日本の2社が運航するバンコク便は、ほぼ大きな混乱もなく整然と運航を継続していたからである。
「タイへ行くなら、現地のフラッグキャリアであるタイ国際航空を利用するのが最も確実で安心できる」。長年にわたり多くのビジネスパーソンや旅行者に信じられてきたこの定説が、今回の洪水非常事態によって見事に覆された。一見すると、現地に広大なネットワークと巨大な設備を持つタイ国際航空が圧倒的に優位であり、遠く離れた日本の航空会社の方が非常時には不利に思える。しかし、現実には全く逆の現象が起きた。この鮮やかな逆転劇の裏側には、私たちが普段触れることのない国際航空ビジネスの構造的な仕組みと、非常時特有のリスク構造が存在している。
この逆転劇を生んだ最大の理由は、ハブ空港における運航モデルの違いにある。タイ国際航空にとって、スワンナプーム空港は世界中の都市とタイ国内を結ぶ巨大なハブ(拠点)空港である。同社は連日、膨大な数の乗り継ぎ客と、それ以上に複雑なルートを辿る大量の預け荷物を処理している。
このような巨大で複雑なネットワークは、平常時には抜群の便益をもたらすものの、一旦大豪雨などで地上スタッフが不足したり、システムに想定以上の負荷がかかったりすると、一気に致命的な弱点へと変わる。1つの遅れて到着した便や手荷物の滞留が、ドミノ倒しのように他のすべての便へと波及し、空港全体のオペレーションを麻痺させてしまうのである。
これに対し、JALやANAにとってのバンコクは「日本から出発し、現地に到着したらそのまま折り返して日本へ戻る」という単一の目的地(ポイント・ツー・ポイント)にすぎない。日本の航空会社の乗客の多くはバンコクが最終目的地であり、複雑な乗り継ぎ荷物の仕分け作業が発生しない。現地での作業手順が非常にシンプルに限定されているため、空港全体が混雑に包まれても、その悪影響を受けにくい堅牢な仕組みになっているのだ。
第二の理由は、地上業務を支えるシステムと「グランドハンドリング(地上支援業務)」の委託契約に関する真実にある。今回のスワンナプーム空港での混乱は、スタッフの不足に加え、タイ国際航空自社のハブ用手荷物仕分けシステムが処理能力を超えて過負荷を起こしたことが直接の引き金となった。
これに対し、JALやANAは地上での実際の作業(荷物の積み下ろしや機体誘導など)こそ現地の専業会社に委託しているものの、予約やチェックイン、搭乗管理を行うシステムそのものは自社の独立したシステムを運用している。そのため、現地のシステム障害に直接巻き込まれることなく、平常通りの手続きを進めることができたのである。
一部では「タイ国際航空が自社便の対応を後回しにして、委託を受けているJALやANAの運航に配慮したのではないか」という見方も浮上した。しかし、これは航空業界の現実を知らない誤解だ。
さらに見逃せないのが、日系航空会社ならではの徹底した現場管理能力である。JALやANAは、バンコクの空港に日本人のステーションマネージャー(空港所長)や自社専従のスタッフを常駐させている。彼らは現場でトラブルが発生した際も、委託先のタイ人スタッフに対して直接指示を出し、自社便の安全と定時性を確保するための厳しい監督を行っている。また、運航に遅延や変更が生じた場合でも、搭乗客に対して日本語で迅速かつ丁寧な説明やサポートが行われるため、乗客に与える安心感の差は歴然としていた。
今回の洪水災害は、渡航者が航空会社を選ぶ際の新たな視点を提示することとなった。平常時であれば、豊富な便数やタイ国内各地への乗り継ぎの良さ、柔軟な振替対応などから、タイ国際航空の優位性は揺るぎない。
【編集:af】








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