ストーカーといえば「つきまとい行為」という印象を持っている方が多いと思います。
つきまとい行為があれば「ストーカー行為等の規制等に関する法律(ストーカー規制法)」で取締できると思いがちですが、実はできるものとできないものがあります。

「非恋愛型ストーカー」と呼ばれるタイプのストーカーの場合、被害に遭ってもストーカー規制法では取締できません。これはストーカー規制法の内容に関係しています。
この「非恋愛型ストーカー」の被害にあったら何の対策も採りようがないの?と思うかもしれませんが、そんなことはなく、対処法があります。今回は「非恋愛型ストーカー」とは何なのか、被害に遭ったらどうすれば良いのか、などの疑問について解説します。
現行法では罰せられない「非恋愛型ストーカー」とは…対応策を弁...の画像はこちら >>

●ストーカー被害と規制の現在と「非恋愛型ストーカー」について
「ストーカー被害」は現代特有のものではなく、DV被害同様従来からあったものですが、「ストーカー殺人」等の事件をきっかけにストーカー規制法が制定され、法規制・取締の対象とされるようになりました。
しかし、ストーカー規制法は、その対象となる「つきまとい」の目的(構成要件)として、「特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的」を規定していることから、「単なる怨恨・逆恨み・嫌がらせ・好奇心」といった「非恋愛型の目的」によってつきまといやストーカー行為を行う場合は、同法の規制対象外となります。

この点、「ストーカー被害は恋愛や好意が端緒とは限らないのに不公平ではないか?」という疑問はあり得るところです。
しかしながら、憲法31条の適正手続及び刑法・刑事訴訟法の拠って立つ「罪刑法定主義」の観点からして、規制対象や犯罪の「類型・構成要件」を超える「類推適用」は厳に慎むことが人権保障上重要でもあるのです。

●「非恋愛型ストーカー」への対処法について
では、ストーカー規制法の適用がない以上、所謂「非恋愛型ストーカー」被害は、規制や救済の対象となり得ないのでしょうか?
この点、まず、「ストーカー行為の目的」は、被害者からすれば「恋愛や好意に起因するのか、単なる逆恨みや好奇心か?」一概に特定できるものでもないでしょうから、警察に相談して、対処を促すことはできるでしょうし、警察も、窓口レベルで「恋愛に起因する目的ではない」と断定して相談や対処を拒否する権限や立場はないはずです。
また、いかなる「つきまとい・ストーカー行為」が行われるのかにもよりますが、例えば、ネット上や書簡、或いは、近隣への張り紙で「害悪の告知」を行ったり、「不特定・特定多数人に被害者に関する誹謗中傷を流布する」行為が行われたとすれば、刑法上の脅迫罪(刑法222条)や名誉毀損罪(刑法230条)・侮辱罪(刑法231条)に問える場合もあります。
そして、加害者の誹謗中傷等が被害者の信用を毀損したり、その仕事を妨害する場合には信用毀損罪(刑法233条)や威力業務妨害罪(刑法234条)を構成する場合もあります。また、加害者が被害者宛の書簡を勝手に開封するなどすれば信書開封罪(刑法123条)に問われる場合もあり得ます。

更に、しつこい電話やメールや尾行などにより被害者の心身が疾病に罹患した場合には傷害罪(刑法204条)が成立し得ます。
このように、ストーカー規制法の規制対象ではない場合であっても、別の刑法犯が成立する場合は十分あり得るのです。

●被害を受けた場合の心構えについて
よって、被害を受けたら、「法律ではどうすることもできないのだ」と諦めることなく、早期に警察等の行政機関や弁護士に相談することをお薦め致します。
特に、「弁護士はお金がかかるし、すぐに動いてくれるとは限らない(それ自体は一定事実だったりもしますが)」からと「警察に相談したけど、相手にされなかった」という経験をお持ちの方、警察署や警察官にもよりますが、「民間人同士の面倒事には介入したくない(民事不介入)」と門前払いを食わせる窓口も結構ありますから、「如何に酷い被害を受けて、どれほど困っているか?」を証拠となるメールやネットの記載や電話の録音、被害を日時・場所入りで記録したノート等を持参するなどして、きちんとした対応をして貰うよう促しましょう。
*著者:弁護士 寒竹里江(弥生共同法律事務所。弥生共同法律事務所所属。
水戸障がい者虐待事件、東京商銀代表訴訟担当。刑事事件も多く再審事件も。)