スパイクチュンソフトが放つ、ニンテンドースイッチソフト『なつもん! 20世紀の夏休み』(以下、なつもん!)がこのたび発売されました。本作は、主人公である少年の視点を通じて、懐かしい時代の“ひと夏”を体験できる、ユニークなアクションADVです。


ひと夏の体験と聞くと、00年代に活躍した『ぼくのなつやすみ』(以下、ぼくなつ)シリーズを思い出す人も少なくないはず。田舎町や北国、瀬戸内海を舞台に、小学生の「ボク」と一緒に過ごした“あの夏”を味わった方の中には、あの記憶がまだ色鮮やかに残っていることでしょう。

残念ながら『ぼくなつ』シリーズは、『ぼくのなつやすみポータブル2 ナゾナゾ姉妹と沈没船の秘密!』を最後にしばらく沈黙が続いています。そのため、一連のシリーズを好んでいたファンたちは、『ぼくなつ』ロスの状態にあります。

そんなゲーム業界に登場した『なつもん!』は、『ぼくなつ』シリーズを彷彿とさせる雰囲気を持ち合わせていました。それもそのはず、『ぼくなつ』シリーズの中心人物である綾部和氏が、この『なつもん!』の原作や脚本、ゲームデザインを務めているため、どこか近しい空気感を感じさせてくれます。


ただし、『なつもん!』はあくまで独立した作品で、『ぼくなつ』シリーズには含まれてはいません。『ぼくなつ』ファンが求める次の夏休み体験が、果たしてこの『なつもん!』で味わえるのか。綾部氏が提案する“新たなひと夏の体験”は、どのような刺激に満ちているのか。共通する部分や新要素を通して、『なつもん!』の魅力へと迫ります。

■『なつもん!』には、『ぼくなつ』で味わった“夏”がいっぱい!
『なつもん!』を遊んでみると、『ぼくなつ』シリーズと共通する要素をいくつも見つけられます。どちらも、小学生の視点で過ごす夏休みが題材なので、体験に重なる点が多いのはむしろ当然の話です。


本作のゲーム内時間は、夏休みの1ヶ月間。ごく一部の強制的なイベントを除き、プレイ時間の大半はプレイヤーが自由気ままに過ごすことができます。

野山を駆け巡る探検、地元の子供たちや住民との増えあい、そこから始まる様々なイベントや関係性の発展など、いずれも『ぼくなつ』で味わったものばかり。もちろんその内容は全く異なるので、『ぼくなつ』ファンも新鮮な気持ちで“新しくも懐かしい夏”を味わえます。

また、小学生の夏休みには欠かせない、「昆虫採集」や「魚釣り」もしっかり楽しめます。用意されている種類はかなり多く、魚は20種類ほど。
そして昆虫は、なんと200種類も! 中には「セミの抜け殻」など、ちょっと驚きの昆虫(?)も含まれています。

寝坊しなければ、朝はラジオ体操から始まり(行かないことも可能)、みんなで一緒に朝食を囲みます。その後は、日が暮れるまでずっと自由に行動でき、誰と会うか、どこに出かけるか、何をして遊ぶか、その全てをプレイヤーが自分で決められます。

どれだけ遠くに出かけても、時間が来ればお迎えが来て、家(本作では明日葉荘)に戻って晩御飯。そこで、今日体験した出来事を話し、美味しい食事に舌鼓を打ちます。

夕食を済ませても、まだ一日は終わりません。
日が落ちた夏の夜も、子どもにとっては特別な時間。近場なら周辺に出かけることもでき、昼とはちょっと違う顔を見せる夏の夜も、自由気ままに楽しめます。ただし、夜更かしをし過ぎると翌日寝過ごしてしまい、ラジオ体操に間に合わなくなるので要注意!

ゲームを進めていくと、冒険の指針や目標などが次々と見つかりますが、どれをいつ進めるかはプレイヤーの任意。進めずに放っておくこともできます。ここにあるのは、懐かしくも新しい夏。その舞台をどうやって楽しむかは、全てプレイヤー次第です。


表現の形や演出こそ違いますが、『ぼくなつ』で味わった要素の多くが、この『なつもん!』にも盛り込まれており、あの頃に味わった“毎日が楽しいひと夏”を存分に味わわせてくれます。

■『ぼくなつ』とはちょっと違う『なつもん!』の“夏”
共通する体験が多い一方で、『なつもん!』と『ぼくなつ』で明確に異なる点もいくつかあります。まず主人公ですが、『ぼくなつ』シリーズでは「ボク」でした。しかし『なつもん!』の場合、「サトル」が主人公を務めます。

「ボク」も家庭の事情や周囲との関係性が明確に描かれており、その点では「サトル」と大きな違いはありませんが、名前があることで没入感が削がれるタイプのプレイヤーは注意が必要かもしれません。

そして、最も大きな違いはその見た目でしょう。
登場人物のグラフィックも方向性が変わり、『なつもん!』はアニメ調なデザインに。また世界の描写も、『ぼくなつ』はリアルなテイストでしたが、『なつもん!』はキャラと同様にアニメチックなビジュアルに統一されています。

また、フィールドのあり方も一変しており、『なつもん!』は舞台をオープンワールドで表現。『ぼくなつ』のようなカメラ視点が固定されるタイプではなく、360度自由に見渡し、そして移動することが可能です。

移動が可能というのは、平地に限った話ではありません。主人公は、家の壁やテント、柵に崖まで、ほぼあらゆる場所を登ることができます。民家の屋根や商店街の屋上なども、主人公の行動範囲です。

スタミナに限りがあるので、序盤はすぐに力尽きてしまうものの、色々な冒険を達成するとスタミナも向上。ジャンプ力も強化されるので、ひと夏の体験を積めば積むほど、オープンワールドの世界を縦横無尽に存分に駆け巡れます。

カメラ固定型の『ぼくなつ』は、プレイヤーの視点を固定できるので、演出しやすい利点があります。また、プレイヤー同士も同じ景色を共有しやすくなります。ですが、オープンワールドの『なつもん!』は、見渡せる全てが冒険の舞台。そのワクワク感は、本作ならではの魅力と言ってもいいほどです。

オープンワールドになったため、ゲーム内時間の経過もリアルタイムに進行。秘密基地はありませんが、子どもたちが集まる「探偵事務所」があり、この町に起きる不思議な出来事を調査できます。

また、花火大会や夏祭りといった定番の夏要素に加え、サーカスも開催されます。しかも、主人公の父親が団長を務めている関係から、その興行の一部に関わることも。こうした部分も、『なつもん!』ならではの体験でしょう。

オープンワールドなので、ロード時間や画面の切り替えなどを挟まず、シームレスな移動を実現。しかも屋外の簡易トイレを使うと、明日葉荘にワープするといったユニークな要素もあります。

ですが、“小学生の立場で楽しむ、懐かしいひと夏”という体験や、そこから生まれる思い出の数々は、『なつもん!』と『ぼくなつ』に共通する大事な核。「明日は何をして遊ぼうかな」「あそこまで行ってみよう」と考えながら眠るひとときは、当時も今も変わりません。

『ぼくなつ』で、ひと夏の体験に想いを馳せた経験を持つ方は、この『なつもん!』を試す価値も十分あり! 本作を一足先にプレイしたいちファンとして、お勧めさせていただきます。

なお綾部氏は、「『ぼくなつシリーズ』を作ることを、もうやめたわけではありません。なので数年後に、仕返しをするかもしれません(笑」と、自身のTwitterアカウントにて発言しています。

実際に動き出すのかどうかはまだ未定ながら、『ぼくなつ』の火はまだ途絶えていません。まずは発売された『なつもん!』を楽しみながら、『ぼくなつ』の続報を心待ちにしてはいかがでしょうか。