ホラーゲームというものは、爆音とともに現れる化け物でプレイヤーを驚かせるだけのジャンルではありません。
今回は、良質なシナリオが楽しめる5作品をピックアップ。日本の山村を舞台にした伝奇ホラーから、アイデンティティクライシスを中心に置いたSFホラーまで、単に怖いだけでは終わらないタイトルを紹介します。
◆『SIREN』――複数の視点から浮かび上がる、絶望の村の真実
国産ホラーを語るうえで欠かせない作品のひとつが、2003年に発売された『SIREN』です。物語の舞台となるのは、異変に包まれた山間の集落・羽生蛇村。赤い水に囲まれた村では、人間が「屍人」と呼ばれる存在へと変貌し、生き残った人々は逃げ場のない恐怖にさらされます。
「視界ジャック」という独自のゲームシステムにより、屍人がどこにいるのかを予測しながら逃げ延びるゲーム性が面白く、ドキドキしながら遊びました。
本作の特徴は、ひとりの主人公を中心に物語が進むのではなく、さまざまな境遇の人物たちの視点から事件を描いていることです。それぞれの行動や体験は断片的ですが、複数の視点を行き来することで、村で何が起きているのかが少しずつ明らかになっていきます。
物語を追うほどに浮かび上がるのは、何百年にも及ぶ呪いに満ちた村の歴史と、そこに住まう人々の過酷な境遇です。オカルトのなかに民俗学や伝奇の要素も混ぜた、重厚なシナリオをご堪能ください。
『SIREN』PlayStation Store
◆『サイレントヒル2』――怪物が映し出す、人間の心の闇
サイコロジカルホラーの代表作として知られる『サイレントヒル2』。
主人公のジェイムスは、亡くなったはずの妻メアリーから届いた手紙をきっかけに、かつてふたりで過ごした街を訪れます。そこで彼は、妻と瓜二つの女性マリアや、心にトラウマを抱えた人物たちと出会うことになります。
霧に包まれた街を徘徊する怪物たちは、プレイヤーを恐怖させる存在であると同時に、物語を読み解くための重要なカギでもあります。なぜこの街に奇妙な怪物が現れるのか。なぜジェイムスは、亡き妻の面影を追い続けるのか。探索を進めるうちに、プレイヤーは主人公の過去と向き合うことになります。
霧深い保養所でジェイムスが向き合うのは、怪物によって生み出された惨劇ではありません。静かなトーンで語られる哀しみの物語を、ゆっくりとお楽しみください。
◆『Mouthwashing』――閉ざされた宇宙船で暴かれる、人間の醜さ
宇宙空間を航行する貨物船、タルパ号。事故によって遭難した船内では、5人の乗組員たちが救助の見込みもないまま、なす術もなくうなだれています。いよいよ困り果て、大事な貨物を開けることにした5人が見つけたのは……。
『Mouthwashing』は、そんな極限状態に置かれた人間たちを描く一人称視点のホラーゲームです。
頼りの船長カーリーは、事故によって重傷を負い、言葉を発することも自由に動くこともできなくなっており、残りの4人は窮地を脱するべく策を弄します。
食料や資源の不足、孤立への恐怖、そして互いに対する不信感に苦しめられていき、彼らは次第に幻覚を見ることに。
閉ざされた環境で露わになる人間の身勝手さや、責任から逃れようとする姿勢こそが、物語に重苦しい空気をもたらしています。
また、本作は時系列に沿ってすべてを説明するのではなく、時間も場面もバラバラの断片的なカットを次々と見せていく方式。
プレイヤーは彼らの言動や船内の様子から情報を拾い集め、何が起きたのかを理解していくことになります。
ザッピングされたシナリオを組み上げていくことで、徐々に見えてくる彼らの罪……短い物語のなかに、人間の醜さや倫理的な問題を凝縮した本作は、プレイ後にも重たい問いを残してくれる作品です。包帯のあいだから彼らを覗くカーリーの瞳を、プレイヤーは忘れることはできないでしょう。
◆『SOMA』――自分が自分であるために必要なものとは?
2015年に発売された『SOMA』は、深海にある施設を舞台にしたSFホラーゲームです。主人公のサイモンは、事故による脳の傷害を治すために最新の治療を受けますが、次の瞬間には遙か未来の海底施設PATHOS-IIで目を覚まします。そこでは人間のように振る舞う機械や、異形の存在が徘徊しています。
サイモンは施設内を探索しながら、そこで何が起きたのかを調べていくうちに、ARKというプロジェクトの主任だったキャサリンと出会い、ここで何が起きたのかを語ってくれます。
しかし、掘り下げられるのは、施設の異変や怪物の正体だけではありません。人間の意識とは何か、自分という存在を自分たらしめるものは何なのか、という根本的な問題です。
仮に人間の意識や記憶を機械に複製できたとして、その存在は本人と同じ人間なのでしょうか。意識を複製したとき、元の自分と複製された自分のどちらが本物なのでしょうか?
本作は、こうした問いを単なる会話や哲学的な説明だけで提示するのではなく、プレイヤーが実際に物語を体験するなかで考えさせます。登場人物たちの選択や、施設で目にする光景が、抽象的な問題を切実なものへと変えていくのです。
SFとホラーを融合させた本作は、恐怖を通して人間の存在そのものに迫る作品です。AIの意識という問題が騒がれている昨今、本作のテーマはよりいっそう切実に受け取れるのではないでしょうか。
◆『返校 -Detention-』――白色テロが引き起こした悲劇の連鎖
台湾のゲーム開発会社Red Candle Gamesが手がけた『返校 -Detention-』は、1960年代の台湾を背景にしたホラーアドベンチャーゲームです。舞台となるのは、人気のない学校。プレイヤーは不気味な校舎を探索しながら、そこに隠された秘密を探っていきます。
本作には、台湾の宗教や伝統的な風習を取り入れた独特の怪異が登場しますが、物語を進めるにつれて見えてくるのは、登場人物たちの過去や、彼らが生きる社会の厳しい現実です。
物語の背景にあるのは、白色テロによる戒厳令下の台湾で起きたとある悲劇です。
ホラーという形式を通じて、血塗られた歴史や人間の弱さを描き出した、とてもやるせない物語です。
恐怖のなかで描かれる人間の弱さや悲しみ、そして物語に隠された真実は、プレイを終えたあとも心に残り続けます。
ジャンプスケアの先にある悲痛なドラマにこそ、ホラーゲームの魅力は詰まっています。


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