皆さんは、子供のころ何の職業に就きたかったですか?

最近では「YouTuber(ユーチューバー)になりたい!」なんて子もいるそうですが、男の子が選ぶ職業としては「プロスポーツ選手」「消防士」「警察官」あたりが昔から人気を集めています。

どれもカッコよくて華があり、女性にモテる(であろう)というのも人気の理由らしく、その心情は江戸時代も同じだったようでした。


かつて「江戸の三男(さんおとこ)」と呼ばれた江戸のモテ職業ベスト3も、これらの職業が独占していたのです。

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江戸の2/3男、力士と火消。

一、力士
一、火消し
一、与力(よりき)

力士はそのどっしりとした貫禄はもちろん、川柳に「一年を 二十日で暮らす よい男」と詠まれた通り、江戸の本場所20日間(春・秋10日ずつ)相撲をとれば、その報酬で食べていけたため、カネも時間もたっぷりあったのでモテたそうです。

火消しはその名の通り、いざ火災となればいち早く現場に駆けつけ、燃えさかる炎を恐れずみんなを守るヒーローとして尊敬されていました。古来「火事と喧嘩は江戸の華」と言わるとおり、活躍の機会には恵まれていたことでしょう。

さて、ここまで見て来たところで、最後の与力って何でしょうか。
歴史の授業を覚えておいでの方なら「そう言えば、大塩平八郎(おおしお へいはちろう)が与力だったような……」など、ピンと来るかも知れません。

女湯に入る特権つき?江戸時代のモテ職業ベスト3「江戸の三男(さんおとこ)」の一つ・与力とは?


大塩平八郎。叛乱のイメージが強いが、与力としても活躍していた。

と言っても、大塩平八郎が叛乱を起こす前に、彼が与力としてどんな仕事をしていたのか(そもそも与力とは何なのか)と訊かれると、そこまでは習ってor覚えていない方も少なくないでしょう。

そこで今回は「江戸の三男」の一人・与力とはどういう仕事で、なぜモテたのか?ついて紹介したいと思います。

■力を与え、与(くみ)する「寄騎」に由来

与力と言うと、お江戸が舞台の時代劇によく似合うイメージですが、役職としてはともかく、与力の存在自体は中世(平安時代~戦国時代)からありました。


元々はただ「戦さなどに加勢する者」つまり「力を与え、与(くみ)する者」という意味で、「寄騎」とも書かれたように、颯爽と助太刀に駆けつける騎馬武者の頼もしい姿が想起されたことでしょう。

戦国時代になると在地の土豪を指すことが多くなり、大名たちは彼らを直接雇い入れて有力な家臣に派遣して寄親(よりおや)・寄子(よりこ)関係を結ばせ、軍事力を有効に活用しつつ、謀叛を起こさせぬよう監視させる役割もあったようです。

やがて戦乱の世も遠く過ぎ去り、天下泰平となった江戸時代においても与力≒騎兵扱いという感覚は残り、馬に乗ることを前提として袴を着用し、歩兵扱いの同心(どうしん)よりも上位として、共に奉行など上官の補佐に当たりました。

女湯に入る特権つき?江戸時代のモテ職業ベスト3「江戸の三男(さんおとこ)」の一つ・与力とは?


「またもめごとか?任せとけ!」張り切る与力(イメージ)。

具体的には同心たちを指揮・監督して奉行所一帯の治安を維持し、また奉行に上げるまでもない些細なもめごと(民事・刑事)を取りさばくこともあり、現代で言うなら警察官と裁判官を合わせたような役職です。

そういう事情から、いざもめごとに際して何かと便宜を図ってもらえるよう、武家や商家など多くの人々から付け届け(役得?)を貰えることが多く、元から俸給も悪くない(※)ため、裕福な者が多かったと言います。
また、役宅(官舎)として八丁堀(現:東京都中央区)に300坪ほどもある広い屋敷を与えられました。

(※)中には200石以上の俸禄を持つ者もおり、下手な旗本よりも羽振りがよかったと言います。ただし、罪人を取り扱う不浄の役職として将軍への謁見はもとより江戸城へ登ることは許されませんでした。

広大なお屋敷に住むお金持ち……これだけでもモテそうですが、与力はその役職を示す独自の髷を結っており、またそれに似合う粋な身なりを揃えるお金があったことも、人気の理由だったそうです。

■女湯に入る特権!?

そんな与力の面白い話として、彼らには「女湯に入る特権」が与えられていました。と言っても、そばに女性たちをはべらせていた訳ではなく、女性たちが利用しない朝の時間帯、誰もいない風呂に入れたのですが、これも職務の内なのです。


女湯に入る特権つき?江戸時代のモテ職業ベスト3「江戸の三男(さんおとこ)」の一つ・与力とは?


与力、職務中(イメージ)。

八丁堀に限らず、朝っぱらから銭湯に来るような手合いは、カネとヒマを持て余した有閑階級か、あるいはロクに働きもしない穀潰し(ごくつぶし)のどちらか……古来「小人閑居して不善をなす」と言うように、悪事をたくらむのは大抵ヒマ人。という訳で、男湯で交わされる噂話や密談に耳を傾け、盗ty、もとい情報収集に努めていたと言います。

「どうして、女湯に刀掛けがあるんだい?」

よもや銭湯の番台さんも「与力様が秘密捜査でご利用になるからさ」とは言えず、苦笑いするよりなかったでしょう。

また、捕まって欲しくない「お得意さん」には、こっそりと「今日は『八丁堀(に屋敷を構えている与力を指す隠語)』ですよ」などと耳打ちし、会話が盗聴されていることを教えたのかも知れません。

強大な権力を持っているがゆえに周囲からチヤホヤされる反面、どこか油断できない存在として、敬遠されていたことが察せられます。


■終わりに

さて、お江戸のモテ職業ベスト3「江戸の三男」、こと与力について紹介して来ましたが、どんな華やかな仕事にも必ず舞台裏での苦労や下積みがあり、またどんな地味に見える仕事でも、必ず人に喜ばれたり、輝いたりする瞬間があるものです。

女湯に入る特権つき?江戸時代のモテ職業ベスト3「江戸の三男(さんおとこ)」の一つ・与力とは?


精進なくして、大成なし(イメージ)。

古来「職業に貴賎なし」とはよく言ったもので、これからも色んな仕事の魅力を発掘していきたいと思います。

※参考文献:
ミニマル+BLOCKBUSTER『イラストでよくわかる 江戸時代の本』彩図社、2020年9月
朝尾直弘ら編『角川新版日本史辞典』角川書店、1996年11月
国史大辞典編集委員会『国史大辞典 14やーわ』吉川弘文館、1993年3月

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