■「レシピ本」が流行した江戸時代

江戸時代中期は、鯛・卵・こんにゃく・大根などさまざまな食材の調理法をまとめた、今でいうレシピ本が多数出版されました。それらは『〇〇百珍』と銘打たれ、「百珍もの」と呼ばれていたそうです。


その中の一つに、豆腐の調理法を100通り記した『豆腐百珍』がありました。これは1782年に発刊されたもので、今でもレシピサイトなどで再現レシピが作られるほど、その内容は充実しています。

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豆腐百珍

ベストセラーが生まれるのには理由がありました。江戸時代中期以降は寺子屋が普及したため、庶民の間でも文字の読み書きが広まっていたのです。しかも寺子屋で勉強をする生徒の4人に1人が女の子だったといわれ、江戸をはじめとする都市部では女性の師匠も少なくなかったとか。思いのほか近代的だったんですね。


特に、豆腐と大根は、白米とあわせてその白さから「江戸三白」と呼ばれる人気の食材で、だからこそ『豆腐百珍』も庶民の間でよく読まれたのでしょう。

豆腐の調理法を100通り記した江戸時代のベストセラー『豆腐百珍』は今でも価値あるレシピ本


『豆腐百珍』の内容について、まず調理の内容ごとに分けると、煮物が55品、焼きが20品、揚げ物が16品と多く、調味料で分けると、醤油を使った料理が44品、味噌を使った料理が18品です。醤油を使って煮物を作る文化がすでに完成していたことが分かります。

■内容豊かな『豆腐百珍』

調理法や味だけではなく、豆腐料理100品を尋常品、通品、佳品、奇品、絶品の6種類に分けており、それぞれの味の評価も記載していました。

豆腐の調理法を100通り記した江戸時代のベストセラー『豆腐百珍』は今でも価値あるレシピ本


豆腐百珍(同上)

例えば、紹介されている「草の八杯豆腐」は、今で言えばおろしぶっかけ太うどんのようなものです。当時の惣菜の中では人気料理で、江戸時代後期に発表された料理番付で最高位となるようなメニューです。


また100番目に紹介されている「真のうどん豆腐」は薬味におろし大根・唐辛子粉・ネギ・陳皮(乾燥させたミカンの皮)、浅草海苔が挙げられています。なんともおいしそうですね。

豆腐の調理法を100通り記した江戸時代のベストセラー『豆腐百珍』は今でも価値あるレシピ本


豆腐百珍(同上)

『豆腐百珍』の作者は本物の料理人ではありません。文人(今でいう作家)が趣味として書いていたため、消費者としての品評も添えられていたのです。

料理人ではなく文人が品評つきで書いたという点が斬新だったので、ベストセラーになったのかも知れません。

しかも、『豆腐百珍』はこれだけでは終わりませんでした。
翌年には『豆腐百珍続編』が、そして『豆腐百珍余録』が作られています。まさに「豆腐百珍シリーズ」ですね。

江戸時代後期には、江戸の街中には料理屋がたくさんあり、今でいうミシュランガイドのようなランキング本やグルメガイドが数多く作られました。

ランキングは相撲番付と同じ形式で記されており、高級店だけではなく蕎麦屋や和菓子屋の店も紹介されました。

この『豆腐百珍』は、今も普通の書籍として購入可能です。また、人文学オープンデータ共同利用センターの日本古典籍データセットからも無料ダウンロードできます。


参考資料
豆腐百珍 – 日本古典籍データセット

日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan