百貨店「そごう・西武」の売却問題に絡み、主力店である「西武池袋本店」が立地する東京都豊島区が混とんとしている。

同区の高野之夫区長が2022年12月初旬、家電量販大手の「ヨドバシカメラ」が出店する可能性があることに懸念を示し、同店の土地の一部を所有する西武ホールディングス(HD)に対し、同店の存続を強く求める嘆願書を提出したのだ。

西武池袋といえば、池袋の「顔」として親しまれており、市民の中には「区長の気持ちは分かる」と同調する声が少なくない。一方で、「政治介入ではないか」との批判も出ており、同店の行方次第で池袋はちょっとした騒動に発展しそうな状況だ。

海外ブランド撤退、家電量販店の競争激化などで、池袋のイメージ変わりを懸念

「そごう・西武」については、親会社である流通大手のセブン&アイHDが11月、米ファンドのフォートレス・インベストメント・グループに売却すると発表した。フォートレスは、ヨドバシカメラの持株会社であるヨドバシHDと組んで、「そごう・西武」の運営を担う方向とされ、西武池袋本店にはヨドバシカメラが出店するとの観測が強まっている。

流通業界関係者の間では、「西武池袋本店の知名度は高く、店自体は今後も残される可能性はある。ただ、低層階など目立つ場所には、ヨドバシカメラがきらびやかな店を構えるのではないか」という見方が出ている。

そうなった場合、「イメージを大事にする海外のラグジュアリーブランドは撤退するかもしれない」との指摘が、流通関係者の間で出ている。

豊島区の高野区長が懸念するのは、海外ブランドなどが撤退したり、家電量販店の競争が激化したりすることで、池袋のイメージが大きく変わることだ。

池袋はそもそも2014年、有識者会議「日本創成会議」から、このままでは将来消滅する「消滅可能性都市」だと名指しされた。

このため、豊島区は財政再建にも取り組みながら、「文化を基軸としたまちづくり」を目指してきた経緯がある。そして、池袋の「顔」であり、「セゾン文化」の伝統を引き継ぎながら、富裕層も含めた多様な人たちを呼び込んできた同店が一定の役割を担ってきたととらえている。

「家電量販店の力で、にぎわいを高めればいいのでは」との指摘も

高野区長は嘆願書で、「今まで築き上げてきた『文化』のまちの土壌が喪失してしまう」と指摘。

少なくとも1~4階の低層部へのヨドバシカメラ出店には、「断固とした立場」を貫いてほしい、と西武HDに訴えている。

池袋では近年、ヤマダ電機やビックカメラが大型店を構え、激しい競争を展開している。その一方、雑貨大手の東急ハンズや丸井グループの「池袋マルイ」が2021年に閉店するなど、街の雰囲気が徐々に変化している。

そんなこともあって、区民の間では「せめて西武池袋本店だけは、今まで通り残ってほしい」という声は根強く、高野区長の嘆願を評価する人も少なくない。

ただ、「区長は他の家電量販店には文句を言わず、ヨドバシだけに敵意を示しているようでおかしい。そもそも行政が店の運営に口を出すことは問題だ」との批判も出ている。

「百貨店がよくて、家電量販店が悪いという理由は何なのか」との指摘もある。家電量販店の力で、にぎわいを高めればいいではないか、というわけだ。

西武池袋本店の今後のあり方はまだ明らかになっていないが、行政や区民を巻き込んだ「論争」がしばらく続きそうだ。(ジャーナリスト 済田経夫)