「前川孝雄の『上司力(R)』トレーニング~ケーススタディで考える現場マネジメントのコツ」では、現場で起こるさまざまなケースを取り上げながら、「上司力を鍛える」テクニック、スキルについて解説していきます。

今回の「CASE31」では、「このままでは自分の将来が見えません!」と、会社でのキャリアに不安を持ち始めた若手部下へのアドバイスに悩むケースを取り上げます。

「自分のキャリアなんて、考えたこともない!」
【A課長】今期から始まった部下への「キャリア面談制度」、君の所はうまくいってるか?
【B課長(同期の同僚)】いや~、実はスタートから頭抱えてるとこだよ~。
【A課長】やっぱりそうか...。で、どんな様子だ?
【B課長】さっそく、若手部下と面談したんだが、本人が「今の仕事、自分にとって本当に意味があるのか不安です。このままでは将来が見えません」って言うんだ。
【A課長】たしかに、それは放置できないな。で、どう応えたんだ?
【B課長】「気持ちはわかるよ。
でも、20代の頃は誰でも今後の選択肢に迷うものだし、仕事での成長実感がわかず不安に感じるものだよ。もう少し経験を積めば、自分なりのキャリアにつながると思える瞬間がくるはずだから」と励ましたんだ。
【A課長】いいじゃないか! 管理職研修で習ったとおりの、共感的なアドバイスだ。
【B課長】ところがね、「では参考までに、課長がご自身のキャリアにつながった瞬間のこと、教えてください」って言われてさ...。実は自分自身のキャリアなんて、真面目に考えたこともなかっただろ。想定外の質問に慌てたよ。
「この道一筋30年。気づいたら他の道は考えられなくなっていた」なんてホントのこと話したら興覚めするだろ。だから思わず「それはね..."キャリャア~!"と、ひと言呪文を唱えたら一発で降りてきたよ!」と明るく返したら、場がしらけちゃってさ...。
【A課長】そこはジョーク言う場面じゃないだろ!?(...しかしたしかに、我々の世代はキャリアなんて考えること、なかったからな...)
社員一人ひとりのキャリア形成を会社が真剣に考えなければならない時代

部下が仕事を通じて成長していくためには、部下自身が自らの成長意欲の源となるキャリア観を持つことが大切です。

変化の激しい現代を生きる今の若手社員にとっては、働くモチベーションを支える重要なテーマといえるでしょう。しかし、企業側や上司側にこの点に応える準備ができているかといえば、十分とは言えないのが現状ではないでしょうか。

特に、歴史のある企業や大企業においては、これまでキャリアについてあまり重視されてきませんでした。それは、一度「就社」すれば終身雇用が前提で、会社の求めに応じて異動や転勤を繰り返しながら昇進し、定年まで働くことが暗黙的に保障されていたからです。働く人たちの多くも、それを信じていたといえるでしょう。

しかし、現代の若手はそのようには考えておらず、自分自身が「人生100年時代」を生きるうえで、終身雇用を前提にしてはいません。

会社での仕事を通してプロフェッショナルとなり、ちゃんと食べていける人生設計の見通しを持ちたいと考えています。必定、現在の職場での仕事が自分のキャリアにとってどのような位置づけになるのか、意味づけながら働くことを望んでいるのです。

社会・経済のグローバル化、第4次産業革命、DXとAIやロボティクスへの仕事の代替化、さらにコロナ禍によるパンデミック、戦争、災害の多発化等々...。時代の大転換のなかにあることの影響が大きいのは、言うまでもありません。

したがって企業側にも、社員に対し、あらためて自社におけるキャリア形成の考え方や見通しを提示していくことが求められます。上司には、この状況を理解し、部下のキャリア形成を支援する役割を担うことが求められるのです。

キャリア自律への支援に重要な内発的動機づけ...「内的キャリア」が大切な意味を持つ

部下のキャリア形成には、部下自身の内発的動機づけによる主体的なキャリアづくりへの支援が重要になります。しかし一方、当然ながら部下には組織貢献のための役割を担うことが期待されています。

したがって、組織の論理と個人の論理をつなぎ、OJTなどを通して本人のキャリアアップを進めていくことが必要です。

部下のキャリア形成への支援を行うためには、上司自身がキャリアとは何かを理解し、自身のキャリア観(「なぜ働くのか」+「自身のこれまでの仕事の意味づけと将来展望」)を持ち、部下と共有する準備をしておくことが不可欠です。

「キャリア」の意味を辞書で調べると、おおむね「仕事や職業上の経験や経歴」とあります。また、キャリアの語源はラテン語の「carrus(車輪の付いた乗り物)」であると言われ、車輪の通った跡の轍(わだち)を意味するとも言われています。

キャリアを考えるうえで大切なことは、「外的キャリア」と「内的キャリア」に留意することです。外的キャリアが履歴書に記入するような客観的な業種、職種や仕事名であるのに対し、内的キャリアは本人にとって大切な「働きがい」や「生きがい」としての仕事の経験・経歴です。

そして、部下と一緒に創っていくキャリアにおいては、この外的キャリアと内的キャリアがしっかり結びついていくことが大事なのです。

では、特に早期離職が課題とされる若手社員のキャリア支援にあたって、上司はどのようなキャリア観に基づきアドバイスを試みることが有効か。<「このままでは自分の将来が見えません!」会社でのキャリアに不安を持ち始めた若手部下...どうアドバイスする?【上司力を鍛えるケーススタディ CASE31後編)】(前川孝雄)>で、さらに解説していきましょう。

※「上司力」マネジメントの考え方と実践手法についてより詳しく知りたい方は、拙著『部下全員が活躍する上司力 5つのステップ』(FeelWorks、2023年3月)をご参照ください。

※「上司力」は株式会社FeelWorksの登録商標です。

【プロフィール】
前川 孝雄(まえかわ・たかお)
株式会社FeelWorks代表取締役
青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授

人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業FeelWorksを創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ パワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、一般社団法人 企業研究会 研究協力委員、一般社団法人 ウーマンエンパワー協会 理事なども兼職。連載や講演活動も多数。
著書は『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『コロナ氷河期』(扶桑社)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『本物の上司力~「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく』(大和出版)、『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks)、『50歳からの人生が変わる 痛快! 「学び」戦略』(PHP研究所)等30冊以上。最新刊は『部下全員が活躍する上司力 5つのステップ』(FeelWorks、2023年3月)。