企業の人事・教育担当者を対象に「人的資本経営」が進んでいると感じる日本企業を聞いたところ、第3位はカゴメとサントリーホールディングス、第2位にファーストリテイリング。そして、第1位には花王が選ばれたことがわかった。

産業能率大学総合研究所(東京都世田谷区)が自由記述で246人から回答を得たところ、日本企業として75社の名前があがった。2023年9月14日に発表

ここ数年来、人材を企業の「資本」と捉え、その価値を最大限に引き出すことで中長期的な企業価値の向上へと繋げていく「人的資本経営」の手法が注目されている。

その背景には、企業経営に求められている多様な人材、多様な働き方からの要請。そして、投資家をはじめとするステークホルダーからの視点、グローバル企業の動向やデジタル化時代の経営戦略から見た要請があり、企業の将来性を判断するための情報開示として求められるようになったことがある。

「花王」が第1位のワケは?

企業が「人的資本経営」に取り組むメリットには、人材育成を通して従業員の知識やスキルを可視化できることがある。

このほか、本来のパフォーマンスが発揮できる人材配置が可能になったり、業務の生産性が向上したりすることや、「自分たちの成長に投資を惜しまない職場」との認識が高まり、従業員のモチベーションの維持・向上が期待でき、離職率の低下などにもつながることがある。

また、企業のブランディングや投資家に注目されやすくなるといったメリットも見込める。

産業能率大学総合研究所の調査によると、「人的資本経営」が進んでいる企業の第1位には、「花王」が選出された。20人が投票した。【下の表参照】

選出理由について、同研究所は、花王は経済産業省が公開している人的資本経営「実践事例集」の中に、「社員の活力の最大化に向けた事例」が紹介されており、「それらを見聞きした人事担当者が投票したほか、製品イメージや環境への取り組み、コンプライアンス機能の充実など、企業経営の姿勢が評価されたようです」としている。

自由回答で寄せられた声には、

「人的資本、法務機能・コンプライアンス機能等が充実している」
「人財戦略をESG経営の重要な戦略として据えている」
「取り組みが地球環境をかなり意識している」
「10年以上前から、人を活かし、大切にしている企業である」
「メディアやベストプラクティスの情報活動を拝見して事例を見聞きしたことがあるため」
「製品のイメージから」

などがあがった。

第2位は、19票で「ファーストリテイリング」が選ばれた。理由として、

「同社の柳井正会長兼社長が『日本の賃金はあまりに低すぎる』として、2023年3月から国内従業員の年収を最大約40%引き上げるとした発言に対する影響が大きかったようです。多くの人事担当者が『賃上げ』を選出理由にあげていました。その他にも同社のグローバル経営や採用戦略の成功も理由にあがっていました」(産業能率大学総合研究所)

という。また、下記のような声も寄せられた。

「賃上げを率先して行い、従業員のモチベーション向上に努めている」
「賃上げ宣言は衝撃的。
日本全体として好循環なサイクルをリードしている」
「社員化、賃上げなど明確に発信し、採用ブランディングにも成功している」
「小売業としての人材活用術に優れている」
「国内企業に気を遣うことなくグローバルにあるべき姿を遂行している」
サントリーHDは「ダイバーシティ推進やESGへの取り組み」が評価

第3位に選ばれたのは、カゴメとサントリーホールディングス。いずれも、15票だった。

カゴメが選ばれた理由には、「常務執行役員CHO(最高人事責任者)の有沢正人氏の存在が大きいようです」と、産能大総合研究所はいう。

「有沢氏は同社の人事制度改革をけん引し、その成功事例を多くのメディアを通じて発信しており、それらを見聞きした人事担当者が投票されていました。CHOとしての仕事ぶりや先進的な取り組み事例が票を集めたようです」(産業能率大学総合研究所)

寄せられた声には、

「人的資本経営ブーム前から、経営戦略とリンクした人材戦略を進めている」
「人材育成や評価制度がしっかりしている」
「人事施策が上から下まで浸透していて、目標管理が公開されている」
「人事担当役員がさまざまなセミナーなどに登壇し情報開示に積極的なため」
「戦略人事とサステナブル人事を両立させ、人的資本経営を実現しきたから」

などがあがった。

サントリーHDの選定理由は、ダイバーシティ推進やESGへの取り組みが評価されたほか、新浪剛史社長の「45歳定年制」のインパクトある発言や経営者としてのリーダーシップなどが良い印象をもたらしたとみている。

以下が、寄せられた声だ。

「人的資本に対し発想転換をトップ自らが発信、先進的企業というイメージ」
「早期定年制の提言など驚かされる」
「人事部のダイバーシティ推進の方の取り組みが先進的」
「ESGなどの取り組みを積極的に行っている印象がある」
「多様な働き方を実現できる制度が整備されている印象があるため」

第5位は、14票の「伊藤忠商事」がランクイン。選んだ理由をみると、

「人的資本経営に関連する記事でよく名前を拝見する」
「学生の就職ランキングで常に上位、優秀な人材を輩出しているイメージ」
「働きやすさをトップダウンで実行している」
「経営基盤がしっかりしているから」

といった声があがった。

10位はトヨタ「あらゆる面でよく構想が練られており手本となる」

第6位には、「サイバーエージェント」(13票)が選ばれた。

「人事制度や組織体制も従業員が主体的に意思決定できる制度設計」
「フレキシブルに労働条件を認め、労働環境を整備しているイメージがある」
「新規事業が続々生み出されており、人が育つ仕組みがある」
「IT業界は人材次第。だから人事施策に対して力を入れていたと思う」

第7位は、「旭化成」(10票)。

「仕事上で会う人がそれぞれ自社のことを考え真摯に変革に取り組んでいる」
「人的資本経営に積極的なイメージがある」
「経営基盤がしっかりしているから」

第8位は、「丸井グループ」(9票)。

「データに基づく先進的な取り組みを行っている」
「トップのウェルビーイング経営に共感」
「課題を明確にし、解決に向けたストーリーがわかりやすく開示されている」

第9位は、8票で「SOMPOホールディングス」が入った。

「パーパス経営が徹底され、従業員の行動変容が生まれていると考える」
「情報の開示と賃上げの実績」
「人的資本経営の事例をよく見るため」

第10位は、トヨタ自動車(7票)だった。

「企業努力をしっかりしており、社員が一丸となって向き合っているイメージ」
「あらゆる面でよく構想が練られており手本となる」
「毎年、日本企業ナンバー1である」

こういった声が寄せられた。

なお、調査は国内企業の人事部、人材育成担当者・責任者を対象に、2023年5月22日~6月13日にインターネットで実施した。有効回答者数は、246人。