「世界一の投資家」といわれるウォーレン・バフェット氏。長期投資がポリシーというイメージがあるが、果たしてそれは本当なのか。

本書「バフェット解剖」(宝島社新書)のサブタイトルは、「世界一の投資家は長期投資ではなかった」という驚くべきもの。精緻なデータをもとにバフェット投資を丸裸にしている。

「バフェット解剖」(前田昌孝著)宝島社新書

著者の前田昌孝さんは、証券ジャーナリスト。1979年、日本経済新聞社に入社。証券部編集委員、日経ヴェリタス編集部編集委員、日本経済研究センター主任研究員、日本経済新聞社編集委員などを経て、2022年に独立。週刊メディアの「マーケットエッセンシャル」を創刊して主筆を務める。

著書に「株式市場の本当の話」「株式投資2023」などがある。

バークシャー社の保有銘柄、多い順に...アップル、バンク・オブ・アメリカ、アメックス

バフェット氏は会長兼最高経営責任者(CEO)として、バークシャー・ハザウェイという投資会社を経営している。年に1回、「株主への手紙」をホームページで公開している。1996年版に次のような表現があったという。

「投資家としての目的は、わかりやすい事業をしていて、5年、10年、20年後に今よりもかなり多くの利益を稼いでいるだろうと思われる企業の株式を、合理的な価格で買うことに尽きる」

当時65歳で投資家としては大ベテランだった同氏が、わざわざ当たり前のように思われることを書いたのは、いかに難しいかを身をもって知っていたからではないか、と推測している。

バークシャー社は2023年6月末現在、46銘柄を保有しているという。

1998年12月以降に保有を確認できる銘柄は199あるから、153銘柄をすでに手放したことになる。

その153銘柄について、買ってから手放すまでの期間の株価上昇率がS&P500などの市場平均を示す指数(ベンチマーク)に勝っていたかどうかを調べてみると、過半は負けていたというのだ。

前田さんは「神様といえどもこの程度の戦績にとどまるほど、株式市場で値上がり銘柄を探り当てるのは至難の業なのです。というよりも、買った銘柄がベンチマーク以上に値上がりするかどうかは確率の問題であって、投資家の能力とは無関係です」と書いている。

バークシャー社が保有している銘柄は、米証券取引委員会に報告した「フォーム13F」で開示されている。2023年6月末現在の、46銘柄の内訳から、金額と全体像を探っている。

保有金額は総額で3481億9405万ドル、保有株数は39億810万株だ。保有金額の多い順に一覧表を掲載している。1位はアップル(1775億ドル)、2位はバンク・オブ・アメリカ(296億ドル)、3位はアメリカン・エキスプレス(264億ドル)、4位はコカ・コーラ(240億ドル)となっている。

46の保有銘柄のうち、バークシャー社が20年以上持っているのは、コカ・コーラのほか、アメリカン・エキスプレスとムーディーズだけだという。しかも、ここ数年の投資収益は完全にアップル依存だから、もう長期投資家と呼ばないほうが実態を表していると見ている。

日本の商社株を大量に保有していることで知られるが、一覧表に名前はない。

米国の機関投資家が米証券取引委員会に提出する保有銘柄報告書に記載するのは、米国市場上場銘柄だけだからだ、と説明している。実際には三菱商事など大手商社の株の保有比率は軒並み8%台だと、している。

株の平均保有期間は3.8年

バークシャー社が株を保有する平均期間は3.8年で、実は「短気」投資家だと、指摘している。3分の1は1年以内で手放すとも。

バフェット氏といえば、アップルへの投資で知られる。獲得した利益は1276億9000万ドルで、元本に対する投資収益率は3.39倍になるという(配当を除く)。

ベストの投資は中国の電気自動車メーカーBYDに対するものだった、と推測している。投資収益率は一時、33.16倍にもなったという。

前田さんは過去にさかのぼってバークシャー社の資金流出入を調べ、平均売買回転率は5%弱で、普段はあまり売買しないと推測。日本の株式投信の解約額を純資産額で割った売買回転率は20~30%だそうだから、相当、低い部類だそうだ。

その投資動向を見ても、「なぜこうした判断をするのか」わからないことが多いという。医薬品大手のファイザーは3カ月しか保有せず、これからコロナのワクチン接種が世界的に本格化する矢先に手放した印象を受けたそうだ。

この流れからすると、日本の大手商社株もいつまで保有するかは何ともいえないという。「時代の先読みに務め、難しいと感じたら、電光石火のごとく売却するのではないか」と見ている。

バフェット氏は、一般の人には個別株投資を勧めていない。一般の人には銘柄選択が難しいことと、統計的にアクティブ運用がインデックス運用に勝てないのが理由だ。

運用のプロが有望だと思われる銘柄を選んで運用しているアクティブ運用投信の過半が、リターンの点でインデックスに勝てないという統計的な事実は、「人間とサルに何ら差がないと言っていることと同じ」と書いている。

とはいえ、2024年から始まる「新NISA」では個別株投資に振り向けるのも1つの手法だとも。また、1つの投資信託に積立投資を続ける「ドルコスト平均法」のリスクにも触れている。

これから投資を始めようとする初心者には格好の入門書になるだろう。「投資の神様」の真相を知ることにより、投資の世界の奥深さに触れることができるだろう。(渡辺淳悦)

「バフェット解剖」
前田昌孝著
宝島社新書
1100円(税込)