BPO青少年委員会は4月15日、「痛みを伴うことを笑いの対象とするバラエティー」に関する見解を発表した。この見解でBPOは、芸人に苦痛を与える“笑いの取り方”に対し警告を示している。

同委員会は見解の中で「『出演者の心身に加えられる暴力』を演出内容とするバラエティー番組」として、痛みの範囲を“心身”と定義している。

30年以上もNSC(吉本総合芸能学院)で講師を務め、かつてナインティナインにも指導していたという“伝説の講師”本多正識氏は心の痛みを伴いかねない笑いについて、どう考えるだろうか? そこでまず、“見た目イジリ”について尋ねた。

「一昔前は『チビ、デブ、ハゲ』というと何をしなくても笑いの取れる、一つの強い武器を持っているようなものでした。ですから、講師として教える際にも『その武器を全面に出して頑張りや』と言っていました。

ですが、今は顔や体の特徴をネタにして笑いをとろうとすると、『バカにしている』『人の気持ちを理解していない』などSNSで厳しい声が上がります。見た目をネタにすることで不快に思う人がいる限り、こういった笑いは社会が許容してくれない時代になってきていると思います」

本多氏は「見た目をネタにしなくても、工夫すれば笑いはいくらでもとることができます。芸人はその技やテクニックを考えてほしいですね。逆に今は“見た目以外のネタで笑わせる技を磨くチャンス”だと考えてほしいんです」と明かす。

■アインシュタインが笑いを取れるのは、愛情をもって面白がっているから

いっぽうで本多氏は、アインシュタインの稲田直樹(37)についてこう語る。

「彼がNSCに入学してきた時は、ビックリしました。髪の毛薄いし、顎がとんがっているし……。いわば、“武器をいくつも持っている”状態だったんです。ですが、はたして“それが笑いに繋がるのか”という心配もありました。

なので、『武器だと思うけど、細心の注意を払って使わないとアカンよ』と言ったのを覚えています」

そんな稲田は’19年の『よしもとブサイクランキング』で1位に輝いた際、会見で「僕はプロのブスです。だから何を言われても大丈夫ですが、間違っても一般の人に『アインシュタインの稲田に似てる』とか絶対に言わないでください」と訴えていた。本多氏は「稲田君の話したことは、名言やと思います」といい、こう続ける。

「稲田君がそう言えるようになったのは、相方の河井ゆずる君(41)の存在が大きいのではと思います。河井君のツッコミは、優しくてソフト。稲田君の顔をイジる時も、愛情のあるツッコミをするんです。

稲田君が傷つかないようにイジるので、観ている方も稲田君を容姿でバカにしなくなる。そして愛情をもって面白がる。そんな接し方が、河井君のツッコミで伝わっていったから稲田君は容姿で笑いがとれるんだと思います」

■BPOが厳しくなっても、笑いがとれないわけではない

本多氏は「これからも容姿をイジる笑いの取り方はなくならないと思います」という。そして「容姿をイジると見ている人みんなが怒るかというと、そうでもない。稲田君のように炎上しない芸人もいれば、炎上してしまう芸人もいる」とし、こう続ける。

「だから、イジり方次第だと思うんです。

本当に線引きが難しいのですが、『愛情をもって容姿をイジっているよ』と伝わるケースは、不快に思う人がまだ少ないのではないでしょうか。単にハゲだのチビだのと言ってバカにしないならば、まだまだ容姿をイジって笑いをとることは成立すると思います」

しかし本多氏は「とはいえ、何もそこまでして危険な橋を渡る必要はありません。容姿イジりに頼らなくても、他のやり方で面白いことを考えれば済むだけの話です。その方法はいくらでもありますからね」と付け加える。

最後に、本多氏は“笑いの今後”について見解を示した。

「今後いっそうBPOは厳しく警告するでしょうし、コンプライアンスも厳しくなるでしょう。ですから芸人に関していうと、人を傷つけずに笑いがとれるようなネタを作ることのできる、いわば“本当に力のある芸人”が残っていくと思います。そして、この傾向は“質”と“レベル”を上げるためにはいいことだとも思います。

BPOが厳しくなったからといっても、お笑いができないということは全くありません。他にいくらでも笑いをとる方法があり、磨くべき技もたくさんある中で、業界全体としては全くマイナスになっていないと思います。

芸人たちもテレビ局サイドもそういう風に考えて、お笑いやバラエティ番組に取り組んでいってほしいですね」

潮目が変わりそうなバラエティ業界。これからは、“愛のある笑い”が増えてくるのかもしれない。

編集部おすすめ