《通い始めの頃は仕事をしていない時期だったし、ちゃんとやりたかったので週5で1回20~30分》
《産後は何ヵ月か休んで、今は週3で通っています》

『VOGUE JAPAN』7月号でこう語ったのは宇多田ヒカル(39)。宇多田は9年近く精神分析を受け続けているというのだ。

「宇多田さんは’10年から’16年4月まで『人間活動』と称して活動休止していました。20代後半から自分を見つめ直す時間をなによりも大事にしていたのだと思います」(音楽関係者)

休止期間中は「ほぼ6年間、歌っていませんでした」と活動再開直後の『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)で語っていたこともある。ところが、今年は精力的に音楽活動をしており、2月には新作『BADモード』をリリース。

4月にはアメリカで開催された世界最大級の音楽フェス「コーチェラ・フェスティバル」に出演。音楽フェスに参加するのは24年にもわたる彼女のキャリアで、初めての試みだった。

前出の『VOGUE JAPAN』で《精神分析を長くやることによって、セルフセラピーの意味合いが顕著にでてくるようになった》と語っているが、どんな効果があるのだろうか。

東京精神分析クリニックの精神分析家・小笠原晋也氏は「精神分析は心理カウンセリングと混同されやすいが、別のもの」と言い、こう続ける。

「カウンセリングは“現在の悩み”を尋ねますが、精神分析は無意識の領域を扱います。その場で頭に浮かんできたことを何でも話してもらいます。フロイトが使った用語で自由連想といいます。それに分析家が解釈を添えます」

そうしてその人の苦悩の核心に迫るというのだ。

「自由連想というのは、どこから始めてもいちばん重要なところに話がつながっていきます。

生きづらさを感じている人に最も効果があるのです。精神分析にはさまざまな学派があります。宇多田さんは毎回30分程度と話しているのでラカン派だと思います」

■「精神分析を受ける女性は、母親との関係に悩んでいる方が非常に多い」

宇多田は「人間活動期」の’12年、イギリスに移住。そして現地で出会ったイタリア人男性と再婚。その後、出産と離婚も経験した。移住してからすでに10年。

そして、精神分析に取り組むようになったのも移住してすぐのことだ。

実は宇多田が精神分析にのめり込む背景に、’13年8月に急死した母・藤圭子さん(享年62)が強く影響していた――。

「生前の藤さんは長らく、精神の病いに苦しんでいました。感情や行動のコントロールが利かなかったこともあり、ヒカルさんは幼少期から悩んでいたといいます」(前出・音楽関係者)

一時期は連絡が途絶えていた藤さんから、急に連絡が来る機会が増えたのは10年前ごろだったという。自身のカウンセリングの必要性を感じた宇多田だが、受けに行ったカウンセリング当日に藤さんは急逝。そのカウンセリングに違和感を抱いていたこともあり、宇多田は読み始めた心理学の本を契機に、精神分析に多大なる興味を持つようになったという。

前出の小笠原氏はこう語る。

「精神分析を受ける女性は、母親との関係に悩んでいる方が非常に多いんです。精神的に母親からの支配を受けていて自由になれないというケースをよく目にしますね。そして、このコントロールは母親が亡くなっても続くのです。宇多田さんも藤さんとの関係を“いかに清算していくか”ということが、治療の焦点になっていたんだろうと思います」

宇多田は『VOGUE JAPAN』で“誰の期待を裏切ることが一番ハードだったか”という質問にこう答えている。

《私に歌を歌ったり、ミュージシャンになったりしてほしいと思っていた母親の期待ですかね》
《今になって振り返ると、母は私に音楽をやってほしかったんだなって感じます。

彼女のことを理解できる人間になってほしかったんだと思います》

■「あらゆる現象に母が見えてしまった時期があった」

母の期待を肌で感じ、呪縛にとらわれていた宇多田。しかし、精神分析が“解放”に向けてうまく作用しているようだ。

「宇多田さんは’16年9月の音楽番組で『あらゆる現象に母が見えてしまった時期があった』と話していました。しかし、『自分の原点は母なんだから当たり前』と少しずつ心を整理できるようになっていったそうです。その結果、藤さんへの思いを歌った作品『Fantome』を発表。さらに昨年6月にはインスタグラムで『母の写真がやっと飾れるようになった。

私の中で母との関係が変わった』と話していました」(前出・音楽関係者)

また宇多田にとって精神分析は、母娘関係のことのみならず、日々の暮らしのなかでも大きな支えとなっているようだ。

「お父さんの照實さんは日本に住んでいますし、もともとお互い放任主義。ですから、イギリス生活のなかで、宇多田さんが心を開くほど親しくしている人は親友一人だけだったようです。いまでは日常生活において精神分析の先生のサポートは欠かせないといいます」(別の音楽関係者)

『VOGUE JAPAN』で、《母親になることもすごく怖かったし、私は親になるべきじゃないってずっと思っていました》と回想していた宇多田だが、前出の小笠原氏はこう続ける。

「彼女の場合、おそらく精神分析をしていなかったら、自分の子供を産む選択もできなかったかもしれません。言動などを見る限り、宇多田さんは精神分析を通して藤さんとの関係を大変なものだったと理解し、最近になって、そこから解放されることができたのだと思います。安定した精神状態でいま、仕事や育児に打ち込めているのは9年間の精神分析の効果でしょう」

母の呪縛9年を乗り越え、宇多田は次のステージへ向かっている。