「これまで仕事や家事に追われるなかで暮らしやすかった家が、今後もずっと暮らしやすいとは限りません。子どもの独立や定年退職などによって変化するライフスタイルに合わせて、住まいを見直すことも必要です」
こう語るのは『理想の暮らしをかなえる50代からのリフォーム』(大和書房)などの著書がある一級建築士事務所アトリエサラの水越美枝子さんだ。
人生100年時代の折り返し点である50~60代は、今後の人生を楽しく快適に過ごすための“リノベーション(以下、リノベ)適齢期”。また、マイホームのほころびも見え始めるころで、実際にリノベを行う人も多いそう。
リノベとは、老朽化した部分を修理し元に戻すだけでなく、これからの生活スタイルに合わせて自由にアレンジし、より便利なものに作り変えることをいう。
リノベ需要の高まりは、コロナ禍もきっかけのひとつだ。
「在宅時間が長くなり、家への興味関心が高まりました。SNSなどでおしゃれなインテリアを目にする機会も増えて、うちも……と考え始めた人が多いようです」
そう話すのは、おしゃれな建具のネット販売やリノベ業者のマッチングなどを行うHAGSの代表、中田寿さんだ。中田さん自身も、昨年、トイレをリノベしたという。
「妻の希望で、タンクレストイレに替え、手洗いを設置しました。掃除しやすい床にしたこともあり、きれいな状態を楽にキープできると喜んでいます」(中田さん)
家事が楽になるだけでなく、リノベにはさまざまな効果があるという。
「定年退職によってこれまでより長い時間、夫婦が家で一緒に過ごすようになります。逆説的ですが、仲よく暮らすために、それぞれが一人になって落ち着ける空間を求める人が多いんです。余った子ども部屋を書斎にしたり、それぞれの寝室にしたり。
古い住宅では多い暑さ・寒さ対策をとったり、段差をなくすことで、健康寿命も延びる。
「暑さ、寒さは年を重ねるごとに厳しく感じます。まずは二重サッシにするなど、窓のリノベから始めてみては。短期間で施工できて、費用も家全体で数十万円程度。費用対効果が高く、断熱効果は翌日から実感できます」(水越さん)
また、住宅によっては10万円台から設置できる浴室暖房乾燥機を設置すれば、高齢者の命を脅かすヒートショックも予防できるのだ。
「限りある予算の中で、生活が確実に快適になるのが“価値あるリノベ”です。私たちは常に、それを目指しています」(水越さん)
目的別に低コストからできる魅力的なプチリノベのアイデアを見ていこう。
■暑さ・寒さ対策で長生き&節約がかなう!
高齢になるほど、暑さ寒さがこたえるもの。特に浴室はヒートショック対策を。高齢者の暮らしを想定したリノベが◎だが、手すりなど介護保険が使えるものは必要に迫られてからに。
【浴室をユニットバスに】費用:100万円
タイル張りの浴室は寒いので、壁・天井・床・浴槽が一体化したユニットバスがおすすめ。気密性がすぐれ暖かく、バリアフリー設計で安心。
【キッチンを自動水栓化】費用:10万~15万円
コロナ禍もあり、感染症対策に人気の自動水栓。汚れた手で触らなくてよいので、衛生的。ただし電源が必要で、別途費用がかかる場合も。
【浴室暖房乾燥機を設置】費用:10万~20万円
現在ユニットバスなら、浴室暖房乾燥機の後付けが可能。ヒートショック予防のほか、梅雨時期でも洗濯機の近くで乾燥でき、家事が楽に。
【洗面台の下を空ける】費用:20万~30万円
歯磨きや化粧などを座ってできると楽。いすが置けるように洗面台の下はオープンに。掃除も簡単だし、車いすを利用する場合も使いやすい。
【段差をなくす】費用:20万~30万円
高齢者はわずかな段差が命取りに。敷居を取り除き、周りの床と同じ高さの木を埋め込む方法などがある。ドアと一緒に取り換えることも。
【玄関にいすを置く】費用:数千円~
履き物の脱ぎ履きにいすがあると楽。
■夫婦の仲がよくなるリノベは「一人になれる空間」がポイント
「余った子ども部屋をどう活用するかがポイントです」(水越さん)。それぞれの寝室や趣味部屋にするのも手。夫婦仲よく暮らすために、ときには一人になれる空間を大事にしたい。
【寝室を合体させ引き戸で仕切る】費用:100万円~
夫婦で寝室を完全に分けてしまうと互いの体調の異変に気づきにくいので、開閉できる引き戸がおすすめ。ゆとりを確保するには、2部屋の間の壁を撤去し引き戸に変える。
【寝室の隣の部屋を書斎とウオークインクローゼットに】費用:約50万円
寝室の隣室を大きめの本棚で仕切って、夫の書斎とウオークインクローゼットに。寝室の壁に2カ所の出入り口をつくるだけなので費用を抑えることができる。
【キッチンの近くに妻用のスペースを】費用:2万~10万円
妻専用の机と間仕切りを置くだけでもOK。家事の合間にひと息つけるキッチンの近くがおすすめ。収納の下半分や勝手口をつぶしスペースを作るのも手。
※費用は編集部調べ。