「ギャグがウケるかどうかわからなくても、とりあえずやってみるようにしています。『あとは優秀な共演者がなんとかしてくれるはずだ』と。

もう丸投げですね(笑)」

そう話すのは、お笑いコンビ・ずんの飯尾和樹(53)。「ぺっこり45度」「ぱっくりピスタ~チオ」など脱力系のギャグと、どこか和むキャラクターで人気を集め、今年4月からは情報番組『ZIP!』(日本テレビ系)で水曜日のパーソナリティを務めている。

「生放送ですから、オンエア中に速報が入ってくるんです。明るい話題を扱っている横で、水卜(麻美)さんたちが真剣な表情でガーって打ち合わせをして、そのニュースをすぐに伝えていて。その切り替え力は圧巻です」

同じくこの4月から出演している『VS魂グラデーション』(フジテレビ系)では進行を担当。

「キャプテンの相葉(雅紀)君が現場を明るく盛り上げてくれています。彼が本番前にジャニーズの後輩たちに『おはよう!』って優しくあいさつしている姿は、なんだか若くて優しい経営者みたいで」

番組を進行するうえでは、アンタッチャブル山崎弘也の存在に助けられているそうだ。

「ザキちゃんは、収録中の2時間常にパワー全開。『このすき間にそのコメント入れてくるか!』っていうキレがすごくて。もう、“コメントの縦列駐車”の達人です。彼は本番前にいつも小さいえびせんを1枚かじってるだけなのに、どれだけ燃費がいいんだと(笑)」

ほかにも現在は『ノンストップ!』(フジテレビ系)内の「ワリカツ!」のコーナーでアイデア料理を披露し、映画『沈黙のパレード』(9月16日公開)に出演。オムニバスドラマ『5分後に意外な結末』(9月22日スタート・日本テレビ系)ではナビゲーターを務める。

さらに今月は最新エッセイ『師匠!いらしたんですか』(PARCO出版)を出版するなど大忙しだ。

だが、再ブレークまでの道のりは平たんなものではなかったーー。

「テレビにも出させてもらっていた26歳のとき、どうにかこの仕事で食べていけるようになったと思っていたのですが、徐々に仕事が減って、当時組んでいたコンビを解散することになったんです。

そのタイミングで、ギャラが給料制から歩合制に変わって。仕事といえば、同じ事務所で大先輩の関根(勤)さんの舞台と、当時ブレーク中のキャイ~ンのラジオだけ。苦しかったですね」

’00年、現在の相方・やすと「ずん」を結成。大きなチャンスがめぐってきたのは、32歳のときだ。

「舞台『カンコンキンシアター』で、僕と関根さんが絡むシーンが多かったんです。関根さんが巧みに僕をいじってくれるからウケてもらえて。その様子をフジテレビのスタッフさんが見てくれていて、『飯尾君を『いいとも』に出してみませんか?』と声がかかったんです」

単発の出演かと思っていたが、マネージャーから「隔週レギュラー」と伝えられ、耳を疑ったという。出演開始直後は、視聴者のお便りコーナーで「あの方(飯尾)は誰なんですか?」という質問も。

「その話をアナウンサーの方にふられたとき、僕はいまの池上彰さんよりしみじみと『いい質問ですねぇ』って言いましたもん(笑)」

■「心の中には“発煙筒”を常備してます(笑)」

『いいとも』の影響力もあり、徐々に街中で声をかけられたり、握手を求められることが増えていった。

そこから順調に仕事を増やしていったが、40歳を前に、またも苦しい時期に直面していた。

「12月の給料日の前日に、財布に50円しかなかったんですよ。でも、やすと僕は危機感がなくて『10円で石油の権利を買う』とか、『それじゃ命を狙われて危ないから不死身の体を10円で』とか、バカなことを言ってたんです」

そんなとき、飯尾の同期であるウド鈴木からの電話で、自分たちが置かれている状況に気づく。

「ウドと忘年会をやる予定だったんですが、彼は特番の収録があって遅れると。それを聞いて『年末の芸人が忙しい時期に、俺たちは何してんだ!』と、ハッとしました」

2人は即座に緊急会議を開催。

「『次からは、MCに振られたら、スベってもいいから前に出て答えよう』『何も思いつかなかったら、好きな食べ物でもなんでもさけべばいい』と話して。必死でした」

すると、少しずつ状況が好転していく。やすが『とんねるずのみなさんのおかげでした』(フジテレビ系)の「細かすぎて伝わらないモノマネ選手権」で優勝。飯尾はおなじみの「平日の昼間から、ゴロゴロ~」の現実逃避ネタで人気を集めた。

「同時にそのころ気づいたのは、『苦手なことはできないんだから、誰かに甘えるしかない』ということ。たとえ相手の年齢が下であっても同じです。振り返ってみれば、たくさんの人に助けられてきました。

ピンチのときは助けを求めればいい。僕は心の中に発煙筒を10個は常備してますから(笑)」

バラエティ番組でのロケでは、とにかく“好きにやる”ことを心がけた。スタジオにいる芸人が何とかしてくれるだろう、と。そして訪れた、長きにわたる再ブレーク。冒頭のように、共演陣の優れたところに、素直に甘えるという彼のモットーが“自然体”のキャラとして、お茶の間に受け入れられているのかもしれない。

「今も思ってますよ。『おやじがトム・クルーズだったらなぁ』って。『トップガン マーヴェリック』や、その続編の権利ビジネスで生活できたらなんていいんだろう(笑)」

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