産休や育休に入る前に、職場への挨拶として菓子を配る人も少なくないだろう。Xでは4月16日ごろから、「産休クッキー」をめぐって論争が起こっている。

注目を集めている「産休クッキー」とは、妊婦や赤ちゃんのイラストとともにメッセージが入ったクッキーだ。

騒動の発端は、とあるユーザーの投稿。産休の挨拶で職場に配る菓子だとして、赤ちゃんのイラストと「産休をいただきます」「ご迷惑をおかけします」の文字が入ったクッキーの写真を投稿していた。

すると瞬く間に拡散され、賛否が巻き起こることに。Xでは一時、「産休クッキー」がトレンド入りした。

《これはいただいた方も笑顔になります》
《可愛いな。

元気な赤ちゃんが生まれることを願いますね!》
《こんな可愛いクッキーあるんですね 産休入るのにギフトを添えてご挨拶されるの素敵です》

こうした好意的な声が多かったが、一部では不快感を示す声も散見された。

《産休クッキーのまずさはさ……職場に本当は子供欲しかったけど色々事情あって出来ない人とかさ…不妊治療頑張ってる人とかさ…考えたらあげられないよねっつー…………》
《産休クッキー、不妊への配慮とかそういうの以前に業務量ただでさえ増えんのにお前のフィーバーにこっちが付き合わされる業務まで増やすなというイライラが強い》
《こんなクッキーは幸せ自慢してるみたい》

また「産休クッキー」を配ることが炎上してしまう現象に、《何がダメなのかよくわからん!》《何でこんなに叩かれてるの?》と疑問を抱く声も多数あった。

なお「産休クッキー」の写真を投稿したユーザーは、投稿が拡散された後に“無神経に配ったのではない”“グループ内の特定の人に配った”と説明。また、クッキーについて“かわいい”と感想を呟いただけで、バッシングされてしまったことにもショックを受けていた。

さらにこのユーザーが利用したとされるメーカーは、公式サイトの商品ページを通じて「産休クッキー」について問い合わせが多く寄せられたと明かしている。その上で、製品化の意図をこう説明していた。

《産休を取得する前にお祝いして頂いた職場の方々へ、感謝の気持ちを伝えたいというお客様からの要望に応じて、イラストを作成し、産休のご挨拶に利用して頂くクッキーとして製品化いたしました。職場の方々へ配りやすいように個包装とし、皆様の気持ちを伝えて頂けるように、イラストとメッセージを食べられるインクでプリントした商品です》

■「産休クッキー」を不快に感じた人がSNSに批判コメントを書き込んでしまう心理

本来は感謝の気持ちを伝えるためのアイテムだが、なぜここまでSNSで炎上してしまうのか?そこで本誌は、産業カウンセラーの川村佳子さんに話を聞いた(以下、カッコ内は川村さん)。

「まず贈る側の気持ちとして、あえてイラストやメッセージが入ったクッキーを選ぶのには、そこに特別な気持ちがあるからではないでしょうか。特別な気持ちというのは、大前提としてお祝いをしてくれたことへの感謝の気持ちなのだと思います。

しかし同時に、『出産する私』という『自我』も感じます。例えば、結婚式の引き出物に、新郎新婦の顔写真やイニシャル入りの物を選ぶ心理と、似ているかもしれません。

そこにも同じように、『結婚する私』という自我があるのだと思うのです。要するに、感謝の気持ちよりも、お祝いして欲しい気持ちが勝っているように感じます」

そうしたコミュニケーション方法にXでは好意的な声が多かったが、一部では不快に感じるという人も。なぜ、批判的に捉えられてしまったのだろうか?

「純粋に『元気な赤ちゃんを産んでね』で終わればよいのですが、批判する人にとっては何か“違和感”があるのだと思います。この違和感は個人によって違うと思いますが、先に述べたように贈る方の『自我』を感じて、モヤモヤしてしまうからだと思います。

そしてもう1つは、嫉妬心です。女性のなかには不妊治療を受けている人や、女性特有の疾患を抱えている人もいます。

そういう方にとって産休クッキーは、非常に辛い贈り物です。また、産休や育休に入る同僚の代わりに仕事を任され、業務が増えて大変だと感じている人もいるでしょう。

ですが、だからといってそういう人たち全員がSNSで批判をしているわけではありません。わざわざSNSで批判してしまうのは、いずれにしても、自分に心のゆとりがなかったりするからではないかと感じました。

Xで『産休クッキー』の写真を投稿した人は、炎上してしまったために配った相手などの説明を余儀なくされていました。批判コメントを書き込んでいた人のなかには、“SNSが唯一自分の存在を出せる場所”だと捉えている人もいるでしょう。

SNSの普及に伴い、個人の表現が匿名で自由に活発に行われています。自分では投稿しないような内容を目にした違和感から、安全地帯が脅かされてしまったような気持ちになり、批判してしまったのかもしれません」

そもそも産休や育休は労働者の権利だが、休暇を取るにあたって職場に菓子を配る必要はあるのだろうか?休暇の取得者が気を遣う風潮がなくならないことについて、川村さんは職場環境の側面からこう指摘する。

「気軽に産休や育休を取得できることが当たり前な組織体制が理想的ですが、組織によってはまだまだ余裕がないところもあるでしょう。人材不足や産休や育休に対する理解が不足しているといった課題があり、そうすると休暇を取得する人は過剰な配慮をせざるを得ないのかもしれません。

また、日頃から職場での人間関係やコミュニケーションも関係してくると思います。互いをよく知っていて産休に入ることも話せるような間柄であれば、『産休クッキー』も喜ばれるでしょう。

ですが同じ職場でも、相手がどのような仕事をしているかわからないような関係性の人から、急に渡されると驚いてしまうかもしれません。

産休や育休に寛容になれないのは個人の問題もありますが、風通しの良い人間関係と、余裕のある組織作りで職場環境を整えいくことも大切ではないでしょうか」