マルチ商法に関するトラブルがニュース等で話題に上るたびに、「うちの妹がいかにもやりそうだ」とため息をつくのは、40代の医師・宮下真子さん(仮名)。真子さんの妹も、もう何年もどっぷりマルチ商法の健康食品にハマり、たびたび家族が迷惑を被っているからだ。
妹はなぜそうなったのか? 姉の視点から、ハマった背景に目を向けてみよう。
真子さんの実家は、医者一家である。父、兄、弟、親戚一同、何かしらの医療職に従事している。
「妹は親が納得するような大学に入れる学力がなかったため、親の口利きで海外留学しました。偏差値の低い日本の大学に行くくらいなら、留学のほうがまだ外聞がいいという考えです。
入学は簡単ですが、語学力はそれなりに必要です。
学歴至上主義の犠牲に
妹は海外の大学を卒業後、いくつかの有名大学の聴講生を経て帰国した。「妹は、プライドが高い親たちの犠牲になったともいえます。だからですかね、医療を毛嫌いしているようなところがあります」
基本的に、一部のマルチ商法と反医療は親和性が高いので、妹がハマったのも納得がいく。
つい心が動く勧誘トーク
またマルチ商法は、何かしらの事情で就労できない人たちがこんなトークで勧誘されがちだ。「自分のペースで・空き時間で、稼げる」「資格も学歴もなくても、やる気次第で稼げる」
「妹はとにかくヒーリングや代替医療、民間療法に疑似科学、おまじないとかで“病気が治る!”みたいなのが大好き。要は、標準医療以外の何かです」
過去、母ががんになったときも、謎の水と磁気グッズのようなものを買いそろえてきた。
詐欺だと知った母と娘は
「一応、入院、手術、抗がん剤と治療はひととおり終わっていたので、それだけは幸いでした。母は、こういうのは妹の気持ちだから害はないだろうと言い、勧められるままに使っていました。母には妹を不憫(ふびん)に思う気持ちもあるのだと思うのですが、私たち兄妹からは、すごく甘やかしているように見えるんですよね。妹だけに、車やマンションを買い与えたり」
いちばんの心配は健康被害
しかしそれは、取り返しのつくもの(真子さん実家にとってはわずかな金)だからだろう。妹がマルチ商法にハマって以降、健康食品の過剰な摂取で母の体調が悪化したのは、真子さんにとって背筋が凍る出来事だった。マルチの健康食品で、回復不可能なほどに健康を害したら?真子さんは、妹がたびたびマルチ商法へ勧誘してくることから、ここ最近は距離を置いていたが、先日、マルチ商法トラブルのあるニュースを見たのをきっかけに「最近は何をしているんだろう」とSNSをチェックした。
すると、驚きのイメージチェンジをしていた。
「スピリチュアルビジネスをはじめていました。
妹のプロフィール写真はダンサーのようなすごいメイクで、卑弥呼のコスプレにジュエリーを盛り付けたかのような、ど派手なものに変わっていました。学歴も、ただの聴講生だったハズの有名大学を、卒業したかのように盛っています。何も知らずにこれを見たら、さぞかし海外で活躍してきた人に見えるでしょうね」
「人間関係の相談、乗ります」
SNSで確認できた妹のスピリチュアルサービスは、縄文ヒーリング、波動を調整する古代文字グッズ、チャクラ開放講座etc…… なかなかに強気の価格設定で、メニューが表示されている。一体、客はどれくらいいるのだろう。妹のスピリチュアル商売には、当然マルチの健康食品も合体されている。ヒーリングを施しつつ、セルフケアにとサプリメント等を勧めるのだ。
真子さんも過去さんざんそうされてきたように、「子どもの不調を改善するにはこの商品!」などのアドバイスが混ざりこむのも、容易に想像できてしまう。
マルチ商法の入り口にご注意を
親の支配、確執、学歴コンプレックス、もともとの気質と嗜好。セカンドキャリアを含む就業のむずかしさから、女性がマルチ商法や謎ビジネスに手を染める例は無限に存在している。真子さんの妹さんも、その典型例であるように思えた。
<取材・文/山田ノジル>
【山田ノジル】
自然派、○○ヒーリング、マルチ商法、フェムケア、妊活、〇〇育児。だいたいそんな感じのキーワード周辺に漂う、科学的根拠のない謎物件をウォッチング中。長年女性向けの美容健康情報を取材し、そこへ潜む「トンデモ」の存在を実感。愛とツッコミ精神を交え、斬り込んでいる。2018年、当連載をベースにした著書『呪われ女子に、なっていませんか?』(KKベストセラーズ)を発売。twitter:@YamadaNojiru