女子SPA!で2024年2月に公開された記事のなかから、ランキングトップ5入りした記事を紹介します。(初公開日は2024年2月8日 記事は取材時の状況)

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 2024年の大河ドラマ『光る君へ』(NHK総合で毎週日曜日よる8時放送)が、久しぶりに平安時代ということでテンションが上がる。
何せ町田啓太が平安を代表する名歌人を演じるのだか、なおさらのこと。

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 町田扮する藤原公任はさっそく評判のよう。藤原道長(柄本佑)らと構成するイケメン4人衆が話題を提供し続けているのだ。

「イケメンとドラマ」をこよなく愛するコラムニスト・加賀谷健が、本作の町田啓太に導かれながら、“光る町田君”へと改題することをすすめる。

大納言公任はただただすごい?

 寺山修司らとともに前衛短歌の一時代を築いた塚本邦雄の著書『新撰 小倉百人一首』にこんな一説が。

「必ずしも歌人としての才能に、特に恵まれていたとは考えられない」

 これが平安中期を代表する屈指の歌人・藤原公任に対する評価なのだから驚く。古文の授業では、百人一首の大納言公任はただただすごいと教わるばかりで、こんな視点全然なかったじゃない。


 こういう視点って、例えば正岡子規が実は『古今和歌集』は「くだらぬ集」と一刀両断したように後世の偉大な文化人の力技なわけで。ドスが利いた塚本の鋭さに、ブスッと一突きされた感覚になる。

エリート一族の超ボンボン

 塚本によるこの評価に、公任好きの筆者はどうにか公任にかわって一矢報いたく……。なんてたって、今や公任様はぼくらにとってのアイドルなのだから。

『光る君へ』で公任を演じるのが、町田啓太である。関白の息子にして中宮(天皇の后)の弟。出世が約束されたエリート一族の超ボンボン。
そんなきらきら平安貴族役ほど、町田に似合うものはない。

 町田君が演じる公任は、SNS上ではすぐに評判になっていた。主人公・紫式部(吉高由里子)が、後に藤原道長の援助によって書き上げる大作『源氏物語』の光源氏は、町田啓太で決まりだという投稿を見た。

町田啓太扮する公任最強説

 あるいは、公任を筆頭に、道長、藤原斉信(金田哲)、藤原行成(渡辺大知)のイケメン4人衆がまるで、“平安のF4”という見方まで成立してしまっている。

 歴史絵巻がこうして現代の視聴者によって自由に読み解かれ、解釈されることは興味深い。

 公任の初登場は、第3回。道長と斉信が囲碁を打つ傍ら、床に左手をついてゆるりとしているのが公任。
なんという余裕。まるでこの寝殿造りの室内が町田の左手にフィットするように設計されているのかしら。

 そんな感じだから、女子からの恋文を読んで、「歌はうまいが、顔がまずい」と平然と言ってのける。

 この公任役に導かれながら、さらなる妄想が豊かに広がる。公任と町田、両者のファンである筆者は、町田扮する公任こそが、大河ドラマ史上最強なのだという説を唱えたくなった。

 よし、勢いづいた。
こうなればチャンス到来。今こそ、一矢報いることができようぞ。さまざまな和歌集で名歌が紹介されている公任だが、例えば、『新古今和歌集』に収められたこの一首はどうだろう?

公任がモテる秘密

「ほどもなく覚めぬる夢のうちなれどそのよに似たる花の色かな」

 これは藤原兼家(段田安則)の策略で、在位2年の短期政権に終わった花山天皇(本郷奏多)のことを歌った一首。まるで夢のような政権だったけれど……と、その治世と天皇に対する同情を込めている。

 人の心を叙情的に表現する公任がもし作詞家だったならこの令和でもきっとミリオンヒットを飛ばすに違いない。公任が編纂した『和漢朗詠集』はさながらベストヒット歌謡アルバムみたいな感じか。しかも公任、作詞ばかりか管弦の才にも優れた楽器奏者だった。


 当時は、漢詩(からうた)をリズムに合わせて歌う朗詠が、歌謡として流行っていた。この朗詠の音楽的感覚が公任の和歌に流れ、それが何よりモテる秘密。広く人々の琴線にふれる公任の歌に共感した多くの女性たちが、こぞって恋文をしたためたのだ。

『光る町田君へ』と改題

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町田啓太ファースト写真集「BASIC」(光文社)
 ただやっぱり、こうした公任の音楽的感覚ですら、塚本の批評眼の前では、「それ以上の面白みはない」という評価になってしまう。ならば、公任その人を語るのではなく、町田啓太フィルターをかけた公任を徹底的に見つめることに方向転換しようと思う。

 平安貴族がほんとうに町田のようなイケメンだったかはよくわからないが、すくなくとも本作の公任役には町田しか考えられない。
今や劇団EXILEの代表的な俳優だが、もともとはGENERATIONSのメンバー候補でもあった。

 同グループ時代に磨いたダンスや音楽(管弦)、『漫画家イエナガの複雑社会を超定義』(NHK総合)での博学な超解説ぶり(知識人)、天性のモテをにじませるつややかさは、うまい歌を詠めなければモテなかった平安貴族の必須能力も軽やかにクリアする。

 平安貴族が持つべき素養や才能が、令和を生きる町田にもそのまま備わっているのだ。町田が演じることで公任の完全無欠さが強調される。まさに最強説が強化。

 光源氏役に適役だと評判なわけだし、本作のタイトルをもはや「光る町田君へ」と改題したらどうだろう?

<文/加賀谷健>

【加賀谷健】
音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu