公共の場で、子どものいたずらに困惑したことはありませんか? 今回は、そんなことを改めて考えさせられたバス車内での出来事をご紹介しましょう。

降車ボタンをカタカタ連打する子ども

 ある休日の午後。伊東那奈さん(仮名・32歳)は、買い物を終えて路線バスに乗っていました。


 車内は座席がほぼ埋まり、通路にも数人が立っている程度の混み具合で、買い物帰りの高齢者や親子連れ、レジャー帰りと思われる学生など、さまざまな乗客が静かに目的地へ向かっていました。

 那奈さんは中ほどの座席に座り、窓の外をぼんやり眺めながら、穏やかな時間を過ごしていたそう。

「ヤバ! ウケる!」バスの降車ボタンで遊ぶ迷惑親子。誰も止め...の画像はこちら >>
 車内に「ピンポーン」という降車ボタンの音が響き、次の停留所で誰かが降りるのだろうと思っていると、その直後も後方から「カタカタカタカタ」とボタンを何度も押す音が聞こえてきたそう。

「最初は、誰かがもうボタンを押したことに気づかず、別の人が何度も押しているのかな? と思ったんです。ふと音の方を見ると、小学校低学年ぐらいの男の子が『あはは! ウケる! ウケる!』と言いながら、降車ボタンを連打していたんですよね」

止めるどころか、一緒になって大笑いする保護者

 一度押せば十分な降車ボタンを、まるでおもちゃでも見つけたかのように夢中で押し続ける男の子。その姿だけでも驚きでしたが、那奈さんがさらに言葉を失ったのは、その隣に座る、父親らしき男性の様子でした。

「男の子の隣には、金髪にサングラス姿の父親が座っていたのですが、その父親は止めるどころか、スマホを男の子へ向けて撮影しながら『ヤバ! めっちゃウケる!』と大笑いしていて」

 周囲の迷惑など気にも留めず、まるで面白い動画を撮影しているかのようにはしゃぐ父親。その姿を見て、男の子はますます調子に乗り、笑いながらボタンを押し続けていたそう。

 乗客たちは困ったような表情で親子の様子を見つめていましたが、相手は大人です。那奈さん自身も「注意して逆上されたら……」と思うと声をかけられず、ほかの乗客からも注意する声は上がりませんでした。

「きっと男の子は、お父さんの口調やノリを真似しているだけなんでしょう。でも、大人まで一緒になってはしゃいでいる光景は異様に見えましたね」

 本来なら子どもに注意をしなければいけない立場の親が、率先して非常識な行動を面白がっている。その姿は、周囲の誰よりも幼く見えてしまったそう。


運転手さんの冷静なアナウンス

 やがてバスが次の停留所に停車すると、運転手さんが車内アナウンスで「降車ボタンは、一度押していただければ大丈夫です。ほかのお客様も安心してご利用いただけるよう、ご協力をお願いいたします」と落ち着いた口調で呼びかけました。

「ヤバ! ウケる!」バスの降車ボタンで遊ぶ迷惑親子。誰も止められない中…近くにいた小学生の“ひと言”で、父親の態度が一変
※画像はイメージです
 怒鳴るわけでも、特定の乗客を責めるわけでもありませんでしたが、その言葉は静かな車内によく響いたそう。

「それでも親子は、まだふざけながら笑い合っていて……車内には何とも言えない気まずい空気が流れていましたね」

子どもの何気ない一言が空気を変えた

 するとその直後、近くに立っていた小学校高学年ぐらいの男の子が、金髪の父親を見ながら、「ぼくだったら、そんなことしたらすぐ怒られるのにな」とポツリと呟きました。

「子どもらしい素直な一言だなと思いました。ですが、もし父親が逆ギレしたらどうしよう? とちょっとドキドキしてしまって」

 すると父親はハッとした表情になり、笑顔が一瞬で消えました。そして慌ててスマホをしまうと、男の子へ「もうやめよう」と声をかけたそう。さっきまで笑いながらボタンを押していた男の子も、すぐに手を引っ込めました。

 車内にはようやく静けさが戻り、張り詰めていた空気も少しずつ和らいでいったそう。

子どもは、大人の背中を見て育つ

「子どもって、大人が思っている以上によく見ていて、よく真似をするんだなと改めて感じました。親が楽しんでいることは『やっていいこと』だと思ってしまうんですよね。だからこそ、子どもを注意する前に、大人が見本にならなければいけないんだなとしみじみ思いました」と微笑む那奈さんなのでした。

<文・イラスト/鈴木詩子>

【鈴木詩子】
漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。
好きなプロレスラーは棚橋弘至。著書『女ヒエラルキー底辺少女』(青林工藝舎)が映画化。Twitter:@skippop
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