【連載】八村塁がレイカーズに残した足跡とクリッパーズの現在地...の画像はこちら >>

連載:八村塁の新たな挑戦「Road to 2028」

ロサンゼルス・クリッパーズで2026-27シーズンをスタートさせた八村塁。今季でNBA8年目、2026年夏には2年ぶりに日本代表としてもプレーし、2年後のロサンゼルス五輪への強い意欲を示すなど、キャリアのなかでも新たなステージを迎えている。

果たして八村はどのような進化を遂げていくのか。

その過程を追い続けていく今連載。第1回は、開幕直後に早くも実現した古巣レイカーズとの対戦でのエピソードから、クリッパーズで求められる立場について紹介する。

【古巣レイカーズとの直接対決で】

 この夏、ロサンゼルス・クリッパーズに移籍した八村塁は、8月にNBAのスケジュールが発表された時に、どの試合を最初にチェックしたのか? やはり古巣ロサンゼルス・レイカーズとの対戦だろうか? それが気になったのは、レイカーズとの対戦が開幕直後の2試合目に組まれていたからだ。

 しかし、本人に聞いてみると答えはあまりに普通で、肩透かしを食らった気分だった。

「最初の試合っていうのが一番大事なので。(開幕戦のサクラメント・)キングスの試合と、この試合(レイカーズ戦)とっていう(ふうに最初から見ました)。僕は1試合、1試合ずつ見るので」

 無関心に聞こえるかもしれないが、それでも、昨季まで3シーズン半を過ごしたレイカーズとの試合は間違いなく気になっていたし、楽しみな試合だった。

「レイカーズ(との対戦)がそんなに早く来ると思ってなかったので。去年(まで)やってきたチームと、こうやってすぐパってシーズン(序盤)でやれるってことはよかったと思います」と八村は続けた。

 レイカーズとの最初の対戦は10月23日(日本時間24日)、慣れ親しんだクリプトドットコム・アリーナで行なわれた。八村は試合前のシューティングでコートに出てくると、レイカーズのコーチ陣、メディカルやセキュリティのスタッフに挨拶し、仲のいいオースティン・リーブスやルカ・ドンチッチとは、まるで何年も離れていた親友に会った時のように、うれしそうにジャレ合い、固くハグしていた。ドンチッチは、試合中に笑顔でトラッシュトークを投げかけてもいた。

「彼はトラッシュトークをしようとしていたけれど、僕はそういうのはどうでもいいんで。レイカーズに一緒にいた2年間、彼とはいい時間を過ごしましたし、会えてうれしかったです」と試合後に八村が言うと、ドンチッチも「ルイのことは好きじゃないんだけど(笑)」と冗談を言ったあと、「彼は僕の仲間だ。会えてうれしかった」とコメントした。

 リーブスも、「ルイがレイカーズに入ってきた時、チャーター機で隣に座ってもひと言も発さなかったので英語を話せないと思っていたのに、慣れてきたら喋りっぱなしで黙らせることができなくなった」と、これまで何度も話してきた鉄板の八村ネタを披露。続けて、「ルイはいつも機嫌よくて、ここにいることが楽しいという感じで、努力し続けていた。彼が幸せで、成功して、人生を楽しんでいる姿を見ることができてうれしい」と、楽しそうに語った。

 八村は、チームメイトたちとの再会だけでなく、ホームコートだったアリーナを訪れ、レイカーズ・ファンの前でプレーすることも楽しみにしていた。

【ロサンゼルス拠点2チームのライバル関係の変遷】

 クリッパーズのヘッドコーチ(HC)、ティロン・ルーは現役時代、ルーキーから3シーズンをレイカーズで過ごしたあと、ワシントン・ウィザーズに移籍して初めてステープルズ・センター(現クリプトドットコム・アリーナ)に戻ってきた時について、次のように思い返していた。

「ベンチも、ロッカールームもいつもと反対側だし、本当に変な感じだった。選手として育ててくれた人たちと対戦することになって、奇妙な感じだった」

 しかし八村は、"いつもと反対"という状況さえ楽しんでいるように見えた。アリーナに到着した時には、カメラに撮られているのをわかっていて、間違えてレイカーズのロッカールームに入るふりをして、おどけてみせた。

 クリッパーズの選手紹介で最後に八村の名前が呼び上げられると、それまでほかの選手にはブーイングしていたレイカーズ・ファンも歓声で八村を迎え、タイムアウト中に「お帰りなさい」の言葉とともにレイカーズ時代の八村の動画が流れると喝采が起きていた。

 その時のことについて聞かれると、「(動画に)気づかなかったので(最後のほうだけ)見たんですけど、歓声も聞こえて。

クリプトに戻って、レイカーズのファンの前でまたプレーができてすごくうれしかったです」と笑顔を見せた。

 普通、NBA選手が移籍したあとに古巣について思い出すのは、こうして対戦する時くらいだろう。しかし、八村のようにレイカーズからクリッパーズへの移籍の場合は少し特殊だ。

 何しろ、同じロサンゼルスを拠点とする2チームで、街にはレイカーズのロゴがあふれている。レイカーズがNBA優勝17回の名門チームなのに対して、クリッパーズはNBAファイナルに進出したこともなく、歴史が違う。人気でもクリッパーズはずっとレイカーズを追いかけてきたのだ。ロサンゼルスのなかでの存在感は今でも圧倒的にレイカーズのほうが大きく、クリッパーズの一員になっても、日々の生活のなかでレイカーズの存在から離れることはない。

 2014年にスティーブ・バルマーがクリッパーズのオーナーになったあとは、クリッパーズも補強に力を入れ、実力では肩を並べるどころか、優位に立つようになった。2014-15シーズンからの直近12シーズンで比べるとレギュラーシーズンの勝率ではクリッパーズが59.6%でレイカーズが47.4%、直接対戦はクリッパーズの33勝14敗と、優勝回数(レイカーズ1回)以外はクリッパーズのほうが上回っている。それだけにお互いに負けられないというライバル心も強く、八村も次のように明かしていた。

「クリッパーズとレイカーズのライバル関係は本物。僕が反対側(レイカーズ)にいた時も、いつも(クリッパーズ戦前に)『この試合には勝たなくてはいけない』と言い合っていた」

 それだけ意識し合う関係だけに、宿敵クリッパーズに行った八村に対して、あれだけの喝采が起こったことに意味がある。

それだけレイカーズのファンから愛されていた選手だったのだ。

【クリッパーズで求められる八村の役割】

 八村にとって、クリッパーズでプレーすることは、新しいチャレンジだ。レイカーズでは、スーパースターを擁し、優勝しなければ失敗と言われる名門で、自分の役割を遂行することが求められた。一方、シーズン途中のトレードも含めてスーパースターの選手が去り、若返りを図るクリッパーズでは、単なるスポットアップシューターではなく、幅広いプレーで大きな役割を担うことが期待されている。開幕前から主力に故障者が相次いでいることもあり、今は当初の想定以上に得点源としての働きが必要とされている。

 10月23日のレイカーズ戦で、八村は16得点、6リバウンドを記録した。前半にはフィールドゴール8本中4本、3ポイントを2本とも沈め、12得点をあげたものの、後半はフィールドゴール6本中1本と苦戦。チームとしても前半はリードする時間が長かったが、同点でハーフタイムを迎えると後半に逆転され、117対125で敗れた。八村自身の新しい役割へのアジャストも、スーパースターがいないなかでのクリッパーズの戦いも、簡単ではないことが浮き彫りになった。

 それでも、ルーHCが掲げる今季の目標はプレーオフ進出。八村も「自分としても、今、4年連続で(プレーオフに)出ているので、その記録は続けていきたいと思います」と、その目標を共有している。

 レイカーズ戦のあと、八村は自分やチームの現在地について、こう語った。

「僕がオールスターやスーパースターではないことはわかっている。だからこそ、大事なのは、お互いにどう助け合えるか。そうすれば、僕にとっても彼ら(チームメイト)にとってもプレーが楽になる。タイ(ルーHC)はそういったチームを築こうとしている。シーズンはまだ長い。僕は多くのことを改善するためにここにいる。試合の映像を見て、練習に集中し、自分のプレーのレベルを上げようとしている。僕にとって重要なシーズンになると思う」

 若手を中心に新しい時代を築き、いつか人気でもレイカーズに肩を並べようとするクリッパーズと、新天地で役割を広げ、さらなる成長を求める八村。ともに高みを目指すシーズンが、今、始まった。

宮地陽子●取材・文 text by Yoko Miyaji

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