もし、真夏の電車で突然窓を開けられたら、あなたはどうしますか?

 今回は、そんな車内に暑い風を招き入れた女性と、それを見かねた乗客のやり取りをご紹介しましょう。

「涼しい車内」に突然入り込んできた暑さ

 ある真夏の午後。会社帰りの坂井菜穂さん(仮名・34歳)は、駅のホームで電車を待っていました。


「その日は本当に暑くて、外にいるだけで汗が止まらないような日でした。だから電車に乗った瞬間、涼しさにホッとしたんですよね」

 車内は混雑していましたが、冷房で涼みながら、乗客たちはそれぞれ静かに過ごしていたそう。

「ところが発車して数分後、私の近くに立っていた50代ぐらいの女性が、突然窓を開け始めたんですよね」

 女性は周囲の様子を気にすることもなく、開閉できる窓を大きく開け放ち「冷房が強すぎるのよ! 寒くてたまらないわ」と言いながら、窓から入ってくる生暖かな風にあたっていたそう。

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 外から一気に蒸し暑い風が車内へ流れ込みました。

「せっかく涼しかった車内が、急にムッと暑くなり不快指数が一気に上がってしまって。周りの人も汗を拭いたり、顔をしかめたりしていました」

 それでも女性は、周囲の反応を気にする様子がなく、むしろ自分が快適になったことに満足したのか、開いた窓のそばでご満悦な様子だったそう。

「嫌なら移れば?」まさかの言葉に唖然

 見かねた菜穂さんは「すみません、寒いのでしたら弱冷房車に移られた方がいいかもしれません。そうすれば、みんな気持ちよく過ごせると思います」と、できるだけ穏やかに声をかけました。

 ところが女性は振り返ると、不満そうな表情を浮かべ「はぁ? 嫌ならあなたが他の車両に移ればいいじゃない」と言い放ったそう。

 菜穂さんは思わず言葉を失いました。

「正直、驚きました。見るからに暑いと感じている人がたくさんいるのに……自分はまるで悪くないような言いっぷりで」

 しかも女性は、その後も窓を閉める気配がありません。車内には、誰も口には出さないものの、なんとも気まずい空気が流れていたそう。


70代男性のひと言が車内の空気を変えた

「その時、少し離れた席に座っていた70代くらいの男性が、読んでいた新聞から顔を上げて、その女性に『電車はみんなで乗るものですよ』と声をかけたんですよね」

 女性は「私は寒いんです」と不機嫌そうに男性を睨みつけました。

 すると男性は、責めるような口調ではなく、穏やかに「電車って、不思議ですよね。『暑い』も『寒い』もいるから、みんなが少しずつ我慢して乗っているんです」と続けました。

 女性は不貞腐れた表情で黙って聞いています。

 男性はさらに「もし一人ひとりが窓を好きなように開け閉めしたら、最後は誰も快適じゃなくなりますからね」と続けると、その言葉に車内は静まり返ったそう。

「彼女を責めるわけでも、大声で注意するわけでもなく……なぜか聞き入ってしまうような注意のしかたでしたね」

「冷房が強すぎるのよ!」真夏の電車で突然“窓を全開”にした女性。注意したら…“まさかの返し”に唖然
※画像はイメージです

窓を閉めた女性と、菜穂さんが感じたこと

 女性はしばらく黙ったまま、周囲を見回していたそう。そしてようやく、自分の行動を振り返ったのか気まずそうに窓へ手を伸ばすと、ゆっくりと窓を閉め「分かったわよ……」と小さくつぶやきました。

 その後は何事もなかったかのように女性は黙ってスマホを見ながらつり革につかまり立っていたそう。そして再び冷房が効いて空気がひんやりし始めると、車内には少しずつ安堵した空気が戻ってきました。

「電車は多くの人が利用する場です。自分にとっての快適さが、誰かにとっての不快になることもあるんだなと改めて考えさせられました」

 そして今回の出来事について、菜穂さんはこう話します。

「誰かに注意するのって勇気がいることだと感じました。でも、あの男性のように相手を責めずに伝える方法もあるんですよね。
私もこれからは、自分だけでなく周りの人のことも少し考えて行動したいと思います」

 自分だけが快適なら、それでいい。そんな考えでは、たくさんの人が利用する場所では、どうしても誰かに負担を押しつけてしまいます。

 だからこそ、少しの気遣いと譲り合いが、みんなで気持ちよく過ごせる空間を作るのかもしれません。

<文・イラスト/鈴木詩子>

【鈴木詩子】
漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。好きなプロレスラーは棚橋弘至。著書『女ヒエラルキー底辺少女』(青林工藝舎)が映画化。Twitter:@skippop
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