(台北中央社)権威主義体制下で行われた政治弾圧や人権侵害の真相究明を目指す「移行期の正義」で、内政部(内務省)が先日、権威主義の象徴を排除する取り組みの一環として台湾各地の「中正路」の改称を進める方針を打ち出し、野党・国民党や無所属の各県市首長から反発が起きている。劉世芳(りゅうせいほう)内政部長(内相)は4日、「(改称を)推進しないわけにはいかない」と述べ、改称の実現に向け強い意志を示した。


「中正路」はかつて一党独裁政権を敷いた国民党の蒋介石(しょうかいせき)=台湾では「蒋中正」とも呼ばれる=元総統にちなんで名付けられた道路。内政部によると、「中正」の名が付く道路は台湾全土に計311本ある。

中正路の改称を巡っては、道路の命名が地方政府の管轄である他、地域住民の戸籍や個人情報にも影響が及ぶことから、内政部は先月18日、関連政策策定のため、研究を委託したと発表していた。

これに対し、北部・新北市の侯友宜(こうゆうぎ)市長は同28日、道路の名称を変更すれば、住所プレートや身分証、法人登記、道路標識など全て変更せねばならず、多くの費用が必要だと指摘。政府は権威主義体制の象徴の排除には補助金を支給している一方で、主に福祉や教育などに使われる地方向けの一般補助金を削減する方針であることに触れ、「(改称は)本当につまらないことだ」と批判した。

中部・台中市の盧秀燕(ろしゅうえん)市長や中部・苗栗県の鍾東錦(しょうとうきん)県長らも、改称は住民の負担が大きく、コストがかかりすぎるなどと問題点を指摘。台北市の蒋万安(しょうばんあん)市長は2日、「中央政府が政治的駆け引きだけをして、やるべきことをやらないのは見たくない」と非難した。

一部の県市長からの反発に対し、劉氏は4日の立法院(国会)内政委員会で、内政部は立法院で2017年に可決された「移行期の正義促進条例」に基づいて行っているとし、処理しないのは怠慢だと言及。移行期の正義は本来は常に処理しなければならない人権問題であり、一種の価値の選択だと述べた。

また、内政委員会出席前に報道陣の取材に対し、権威主義体制の象徴を排除していく過程において社会の対立が生まれることを望まないとの考えを示した。その上で、「だが意思疎通を行わなければならない。推進しないわけにはいかない」と述べ、これが内政部の立場であり、変更はないと強調した。


(陳俊華、王鴻国、郝雪卿、管瑞平、楊淑閔/編集:名切千絵)
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