磁気で脳を集中的に刺激することで、重いうつ病を治療することに成功
 アメリカ、スタンフォード大学の研究グループは、磁気で脳を集中的に刺激することで、自殺につながりかねない重度のうつ病を寛解(かんかい)させることに成功したそうだ。

 だがこれは普通の磁気刺激ではない。
通常、6週間かけて行われる治療を、たった5日間に圧縮してしまう集中治療だ。

 この治療により、治療困難で薬が効かない難治性のうつ病の患者のほぼ80%が寛解したという。

45年間も大うつ病を患っていた患者の症状に大きな変化 この実験の参加者の1人、トミー・ヴァン・ブロックリン氏は、治療前の状態を次のように語っている。
もう限界でした。とにかくムシャクシャして、いつ気分が良くなるとも、悪くなるとも知れない。どうにもなりませんでした。
しばらく調子いいときがあっても、またすぐに戻ってしまうんです」
 45年も大うつ病を患ってきたヴァン・ブロックリン氏は、姉の勧めでこの実験に参加したという。

 まずMRI検査で、脳の「実行機能」領域を特定する。ここは問題を解決したり、ムダな反応を抑えてくれたりする領域で、磁気刺激のターゲットになる。

 それから5日間、1日10回、各10分の集中的な磁気刺激セッションを開始。

 最初は特に違いを感じなかったというヴァン・ブロックリン氏だが、2日目になると感情的な変化があらわれ、3日目には効果を実感できるようになった。
3日目にギアが入った感じで、どんどん良くなっていきました。
犬の散歩とかギターとか、日常の些細なことにも喜びがあるんだと、教えられたかのようです


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難治性のうつ病に効果のある集中的な磁気刺激療法「SAINT」 彼が受けた治療は「SAINT」と呼ばれている。頭痛やパーキンソン病などの治療にも使われる「経頭蓋磁気刺激(TMS)」を、集中的かつ個人に合わせて行うものだ。

 今回の実験に参加したのは、22歳から80歳までの重いうつ病を抱えた29名の患者だ。平均すると9年のうつ病歴があり、どの人も薬による治療ではなかなか効果が得られていなかった。

 実際にSAINTを受けたのは半数の14名(残りは、比較のためにSAINTに似たプラセボ治療を受けた)。その結果、14名中12名に効果があり、標準的な基準に照らすなら、もはやうつ病とは診断されなかった。
それでいて副作用は、一時的な疲労と頭痛だけだった。

 対象人数は少ないものの約80%の人が寛解したのだ。

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早期治療の重要性 スタンフォード大学のノーラン・ウィリアムズ博士は、心がピンチな人々を素早く助けるべく、この研究を行っている。

 同博士によると、ある人が自殺するかどうかを示す最大の危険サインは「過去の自殺未遂歴」で、次が「その試みの前の入院」であるという。

 しかし、こうした自殺願望を抱えるうつ病患者のほとんどは、心がピンチのとき適切な治療を受けられていない。

 TMSならば、うつ患者の半数に改善が見られ、3分の1の人は寛解する。
ところが、従来の方法は6週間かけて治療を行うために、長期間入院できない人にとってはほとんど役に立たないのだ。

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短期間で集中的に治療を行える だがSAINTならばずっと早く治療できる。

 「私たちは、6週間かかるTMSを1日に圧縮する方法を考案しました。おかげで、5倍もの刺激を与えられるようになりました。」

 またSAINTには、MRIと組み合わせることで、個人にぴったりな治療を行えるという特徴がある。

 「とてもよく効くのは、その人に十分な治療を、その人に合わせた方法で行えるからでしょう」とウィリアムズ博士は言う。

自分を取り戻したかのよう
 元気な状態を維持できれば、学校や仕事にも復帰して、また人生をやり直すことができる。
これは、うつ病で苦しむ人たちにとって心からの願いだろう。

 「気分はいいです。自分を取り戻したかのようです。まだ効果は続いています」と、9月上旬に治療を受けたヴァン・ブロックリン氏は語る。

 この研究は『American Journal of Psychiatry』(21年10月29日付)に掲載された。

References:Stanford researchers devise treatment that relieved depression in 90% of participants in small study | News Center | Stanford Medicine / written by hiroching / edited by parumo

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