カンブリア紀のペニスワームはヤドカリのように貝を隠れ家に使っていた
credit:Prof Zhang Xiguang, Yunnan University
 生物種が爆発的に増加した「カンブリア紀」、この時代に生きたペニスワーム(プリアプルス:鰓曳動物)は、ヤドカリがあのスタイルを考案する5億年も前に、貝の中に潜り込み、外敵から身を守っていたという。

 いわばヤドカリスタイルの元祖なのかもしれない。


※このコンテンツは教育および情報提供のみを目的としています。小さいながらもカンブリア紀の主要な捕食者だったペニスワーム 絶滅の危機を乗り越え、現在も存在するペニスワームは蠕虫(ぜんちゅう)状の海産無脊椎動物で古生代に繁栄した。

 5億4200万年前から5億3000万年前に起きた「カンブリア爆発」では、さまざまな種が爆発的に誕生し、現在見られる動物の祖先がほぼ出そろったと考えられているが、その中でもとりわけ恐れられていた捕食者が体長1~2センチほどのペニスワームである。

 「鰓曳動物」や「プリアプルス類」(「小さな陰茎」の意。ギリシャ神話に登場する生殖の神プリアポースにちなむ)に分類され、その名の通り、その姿はイチモツそっくりだ。

 現生する子孫は、主に海底の泥の中で暮らしており、たまに姿を現しては漁師たちをギョッとさせるだけだ。


 だが、カンブリア紀の彼らは違う。小さいながら鋭い歯が並んだ伸縮するその口で、太古の生物を貪り食う恐るべき存在だったのだ。

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先史時代の鰓曳動物のイメージ図 / image credit:PaleoEquii / WIKI commons貝殻の中に身を潜めて外敵から身を守っていた 太古のペニスワームは貪欲なだけでなく、狡猾でもあったようだ。

 『Current Biology』(21年11月8日付)に掲載された研究によると、ヤドカリのように貝類の殻を隠れ蓑にしていたという。

 中国、雲南大学などの研究チームが、「関山動物群」の化石を調べていたところ、円錐状の貝殻に収まったペニスワームの化石が4点発見された。

 化石が発掘された雲南省の地層は、初期カンブリア紀(約5億2500万年前)のもので、歯や貝殻といった硬い部分だけでなく、珍しい軟組織の化石が見つかることで知られている。


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ヒトリテスの殻の中から発見されたペニスワーム/ image credit:Prof Zhang Xiguang, Yunnan University

 この貝殻は、円錐形の殻を持つ、すでに絶滅した古生代の動物「ヒオリテス」のものだ。4点とも同じタイプの貝殻で、そこに収まっていた姿勢も同じだった。

 また、貝殻のサイズもぴったりだったことから、一次的な避難場所というよりは、ずっと使うプロテクターだったと推測される。

 さらに、同じ地層からいくつもの空の貝殻が見つかっているにもかかわらず、裸のままのペニスワームは見つかっていない。研究グループによると、偶然貝殻を身にまとっていたわけではないという。

 現代のヤドカリが貝殻を住処にする何億年も前に、ペニスワームは貝殻で防御力を高めるアイデアを考案していたと考えられるそうだ。


 捕食者とは言え体の小さいペニスワームには外敵も多かった。泥砂に身を隠すだけでは十分ではないため、強力な防具が欲しかったのだろう。

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image credit:Prof Zhang Xiguang, Yunnan University貝で身を守っていたのは古生代のペニスワームのみ こうしたヤドカリライフを送る生物は、既知のペニスワームでは知られておらず、中生代(2億5000万年前~6500万年前)以前の種でも例がない。

 5億年前に生物多様性が劇的に増えた直後に、このような複雑な行動が出現したことに「度肝を抜かれた」と、研究グループのマーティン・スミス氏(英ダラム大学)はコメントする。

 恐るべき存在だったペニスワームといえども、クリエイティブでなければ太古の海を生きられなかったようだ。

References:A ‘hermit’ shell-dwelling lifestyle in a Cambrian priapulan worm: Current Biology / Ancient Penis Worms Invented the “Hermit Crab” Lifestyle 500 Million Years Ago / written by hiroching / edited by parumo

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