人間の耳は魚のエラから進化したもの。その証拠となる化石が発見される
 私たちが音を聴く上で重要な働きを果たしているのが外耳と内耳の間にある「中耳」だ。ここには小さな3本の骨があり、振動することで音を内耳に伝え、神経シグナルに変換される。


 化石の研究によって、中耳の起源は魚のエラ穴(呼吸孔)であろうことは知られていた。だが大きな謎だったのは、最初に呼吸孔を進化させた脊椎動物は何だったのかだ。

 20世紀の研究者は、初期の脊椎動物には、下顎と舌弓の間に完全なエラを持っていたに違いないと、100年以上にわたってその痕跡を探し続けてきたが、今の今まで見つけられなかった。

 しかし今回、その謎を解く手がかりが発見されたそうだ。それは過去20年の調査で発掘されたアゴのない魚「ガレアスピス」の化石だ。

 この研究は『Frontiers in Ecology and Evolution』(2022年5月19日付)に掲載された。


エラに由来することを示す初の証拠
 耳の謎を解く手がかりは、浙江省長興県と雲南省曲靖で発見された4億3800万年前の絶滅した頭甲綱スユ(ガレアスピス目)」と4億1900万年前の「ガレアスピス」の化石だ。

 これらの「鰓室(さいしつ:エラの付属器官で、外部から入った粒子を除去してエラを正常に保つ)」には、「鰓糸(さいし)」が完全に保存されていた。

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アゴのない魚、スユの頭蓋の化石 /Credit: IVPP/Credit: IVPP

 中国科学院古脊椎動物古人類学研究所のガイ・ジクン教授は、「解剖学的にも化石的にも、脊椎動物の呼吸孔が魚のエラに由来することを示す初めての証拠」と説明する。

 シンクロトロンX線放射断層撮影顕微鏡で、指の爪ほどのスユの頭蓋骨の3Dモデルを作成し、5つの脳区分・感覚器・脳神経・血管の通り道など、内部構造を細部まで再現することにも成功したという。

 こうした分析によって、歯・アゴ・中耳など、人間にある多くの重要な構造をスユにまで遡ることができた。

 中国科学アカデミーのジュ・ミン氏は、「古生物学者の仕事は、魚から人間へいたる進化のミッシングリンクを見つけること。
スユは、始祖鳥、イクチオステガ、ティクターリクと並び、重要なミッシングリンクとみなされてきた」と語る。

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スユの頭蓋の構造を示す3Dモデル/Credit: IVPPエラから耳への進化の物語 魚の呼吸孔は、目の後ろに開いている小さな穴で、種によっては口に向かって開いているものもある。

 一部のサメやエイは、この穴から水を取り込み、エラから排出する。また堆積物に埋もれて生きる種などでは、呼吸孔が上に向かって開いていることも多い。

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4億1900万年前のガレアスピスの化石。鰓糸をはっきりと確認できる/Credit: IVPP
 もっとも原始的とされる現生の硬骨魚「ポリプテルス」では、呼吸孔は呼吸のために使われる。
しかし魚以外の動物のほとんどでは、呼吸孔による呼吸から、やがて鼻や口からの呼吸に進化した。

 では呼吸孔はどうなったかというと、耳へと進化した。

 初期の四肢動物では、まず呼吸孔が耳切痕(Otic notch)に発達。この時はまだ呼吸のためのもので、音を感じることはできなかった。

 だがさらに最近の四肢動物になると、耳骨を介して音を脳に伝えるための器官、すなわち耳へと進化した。もちろん私たちもお世話になっている器官だ。


 スウェーデン、ウプサラ大学のペル・E・アールベリ教授は、「今回の発見は、呼吸孔開口部の全歴史をつなぐもの。無顎類の化石の鰓嚢からはじまり、最初期の有顎脊椎動物の呼吸孔を経て、四肢動物の中耳になるまで、驚くべき進化の物語を伝えてくれる」と語っている。

References:Chinese fossils show human middle ear evolved from fish gills / written by hiroching / edited by / parumo

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