雲を人工的に操作する気候変動対策は予想以上に効果的であることが明らかに
 ハワイの火山を利用した天然の実験によると、雲を人工的に操作し、気候変動による地球温暖化を抑制する「クラウド・エンジニアリング」は、予想以上に地球を冷すのに効果的であることが明らかになったという。

 『Nature Geoscience』(2024年4月11日付)に掲載された研究で、英国バーミンガム大学をはじめとする研究チームが、海上の雲にエアロゾルを混ぜて雲の量を増やせば、想像以上の冷却効果が得られる可能性を示している。


地球温暖化を食い止めるため、雲を操作する技術 クラウド・エンジニアリングとは、ジオ・エンジニアリング(気候工学)の一種で、クラウド(雲)を人工的に操作する技術だ。

 そして最近、クラウド・エンジニアリングの中でも地球温暖化対策として注目を集めているのが、マリン・クラウド・ブライトニング(Marine Cloud Brightning:MCB)だ。

 MCBは、主に雲量を増やすことで機能し、海上の雲にエアロゾル(微粒子が広がった状態の物質)を混ぜて雲を明るくする技術のことだ。これによって地球の反射率が高まるので、宇宙から降り注ぐ太陽光をより多く跳ね返し、その熱による温暖化を抑制することができるという。

 こうしたクラウド・エンジニアリングへの関心は世界的に高まっており、各地で研究が行われているところだ。

 一例を挙げるなら、オーストラリアでグレート・バリア・リーフの白化を防ぐためにクラウド・エンジニアリングの実験が行われているし、英国ではMCBなどの太陽放射管理法に関する研究プログラムが発足している。


 だが、MCBの本当の冷却効果や、雲とエアロゾルとの反応などは、気候によって影響を受ける部分もあるので、まだ不確かなところも多かった。

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photo by Pixabayマリン・クラウド・ブライトニングに予想以上の冷却効果 そこで英国バーミンガム大学をはじめとする研究チームは、ハワイ、キラウエア火山の噴火によって放出されたエアロゾルを観察するという”天然の実験”を通じて、エアロゾル・雲・気候の関係を調べてみることにした。

 さらに機械学習と過去の衛星・気象データを用いて、火山が活動していない期間に雲がどのように振る舞うかを示す予測モデルを作成した。

 これを利用することで、火山エアロゾルが雲に直接与えた影響をはっきりと特定することができた。

 そして明らかになったのは、火山の活動中に雲が最大50%増えて、その地域に1m2あたり10ワット(-10W m2)の冷却効果をもたらしたことだ。

 参考までに言うと、二酸化炭素が2倍になった場合、世界平均でプラス3.7W m2の温暖化効果がもたらされる。


 この結果によるなら、雲を増やして明るくすることによる冷却効果は、これまで考えられていたより強力で、効果的な温暖化対策ということになる。

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photo by PixabayMCBは根本的な問題を解決するわけではない ただし、MCBは根本的に地球温暖化の進行を食い止めるものではない。

 確かに局地的には冷却効果をもたらすものの、地球温暖化の根本的な原因、すなわち人間の活動によって発生した温室効果ガスを減らすものではない。

 MCBはいわば一時的に痛みを止める”鎮痛剤”のようなものなのだ。人類は今後も脱炭素化に前向きに取り組まねばならない。

 また過去には、農作物への被害など冷却効果の副作用を指摘した研究もある。


 予想外の事態が生じた時、知らなかったでは済まないので、専門家には慎重に技術の検証をしてもらいたいところだ。

References:Cloud engineering could be more effective ‘pa | EurekAlert! / written by hiroching / edited by / parumo

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