日本テレビ『スッキリ』3月25日放送より


 ようやく延期が決まった東京五輪。世界中のコロナの感染拡大の状況を見れば延期は当然の話だが、「1年程度の延期」という期間は、安倍首相が世界中の人々の健康と安全よりも、自身の首相在任中開催を優先したためではないかともいわれる。

 ここに至っても、東京五輪を政治利用することしか考えていないとはほとほと呆れるが、さらなる五輪の私物化が発覚した。あの安倍首相の“お友だち”アパホテルをめぐる五輪利権が浮上したのだ。

 明らかになったのは、きのう25日放送の『スッキリ』(日本テレビ)でのこと。東京五輪延期決定を受け、コロナ感染拡大で収益の減っている東京のホテル業界がさらに大打撃を受けるというレポートが放送された。

 番組によると、2013年9月の東京五輪決定以降、東京23区内のホテルは急増しており、2017年12月以降でも1000軒以上増え、2019年末には2645軒にまで増えているという。

 アパホテルもそうした拡大路線をとってきたホテルのひとつ。

外国人観光客の獲得を目指し、東京五輪決定以降全国で53棟ものオープンを計画してきたのだという。

 番組ではコロナの影響で都内のアパホテルの3月の稼働率が52%と厳しい状況にあることを紹介したうえで、さらに東京五輪延期決定の影響として、こんなことを明かした。

「実はアパホテルは、大会組織員会からの依頼を受け、関係者用の部屋を用意していました。」

 アパホテルの元谷芙美子社長も登場し、阿部祐二レポーターのインタビューに答え、こう語った。

「組織委員会のほうからも、ちゃんとオリンピックに向けて、私たちは3万6000泊以上のホテルの提供ができるように、万全の体制を取ってまいりました。」

 なんと、アパホテルは3万6000泊以上も、組織委員会から大量予約されているいるというのだ。これは、ホテルにしてみればとても大きい利益だ。

 番組では「仮に1泊1万円として計算してみると、3万6000室分の宿泊料は、3億6000万円」と試算し、これが五輪延期となったことでキャンセルされることに同情してみせる。

 キャンセル料はどうするのかと聞かれた元谷社長は事も無げに、
「(キャンセル料は)そんなものは頂かないと思います」
「何があっても、乗り越えていかなくては、一度事業を起こしたからには乗り越えていかないと、ちゃんと国のためにも、自分たちのためにも、がんばっていかなきゃならないんで。ピンチをチャンスにできるようにがんばります」
 などと語り、アパホテル太っ腹という印象でこの特集は締めくくられた。

 まあキャンセル料も何も、一般の宿泊客とちがって、組織委員会からの発注ということなら、延期された2021年の開催期間中に、同規模で使用するだろうから、日程がずれるだけで完全にゼロになるわけではないのだから、そこまで心配する必要もないだろう。というか、その前にちょっと待って欲しい。

 大会組織員会から3万6000泊以上依頼しているということは、『スッキリ』も試算していたように、アパホテルには少なく見積もっても3億円以上が入ることになる。

 正式な契約金額は一体いくらなのか。

そして、これは競争入札か何かで公正に決められたものなのだろうか。
 
 ここで思い出すのが、やはり安倍首相の“お友だち”企業であるパソナと東京五輪の関係だ。

 本サイトでは、五輪の無償ボランティアと同じ仕事内容を、組織委がパソナを通じて有償アルバイトを募集していることが発覚した際に、パソナとの契約について組織委に問い合わせた【https://lite-ra.com/2019/11/post-5118.html】。すると、契約金額は明かさず競争入札についてもオフィシャルスポンサーだからという理由で競争入札は行っていないとの回答だった。

 もし競争入札でなかったとしたら、アパホテルはオフィシャルスポンサーにはなっていないので、安倍首相と関係の深い企業だということが、この選定の判断に影響していないのだろうか。

 2018年にはアパホテルを傘下とするアパグループの元谷外志雄代表が創設した「公益財団法人アパ日本再興財団」の顕彰制度を、内閣府が公益目的事業として認定するという事件があったが、このときも森友・加計と同じく安倍首相との深い関係を忖度したのではないかといわれていた。

 いや、仮に競争入札など公正な手続きを取っていたとして、そもそもアパホテルに、「平和の祭典」を標榜する五輪・パラリンピックのような国際的イベントで宿舎を提供する資格があるのだろうか。

 アパホテルといえば、元谷外志雄・アパグループ代表は、「安倍首相のビッグサポーター」(by片山さつき)であり、田母神俊雄氏や自民党の杉田水脈衆院議員らを輩出した「真の近代史観」懸賞論文の主催で知られる“極右界隈のタニマチ”ともいわれる人物。その極右思想・歴史修正主義が国際的に大問題になったこともある。

 しかも、アパホテルの客室には〈南京事件も慰安婦強制連行もなかった〉などと歴史修正を記述した元谷代表の著作が、まるで聖書のように設置されているのだ。

 2017年1月、海外からの宿泊客がこの歴史修正本の存在に気づき、その内容をSNSに投稿したことから、当時国際的な問題に発展。当然ながら海外メディアは批判的に報じた。

元谷代表はほかにも、歴史学者からトンデモ論として総スカンを食らっているコミンテルン・ユダヤ陰謀史観をこれでもかと展開している。

 しかも当時アパはユダヤ陰謀論の一部こそ、ユダヤ系コミュニティからの抗議を受けて問題箇所を削除修正、釈明コメントを出したが、「南京事件はなかった」という歴史修正言辞については「言論の自由」だと強弁し、撤去しないと断言。あろうことか、海外からの宿泊客増加が予想される2020年東京五輪開催時でも、客室の歴史修正本を撤去しない考えを示していたのである。

 言っておくが、海外とりわけ欧州では、ホロコースト否定論がナチスの戦争犯罪を肯定するものとして厳しく批判、制限されるほど、歴史修正の問題に敏感だ。もちろん日本軍による南京虐殺や従軍慰安婦問題についても例外ではない。

 当然、五輪開催時にアパの本が目にとまれば、ホスト国である日本全体が歴史修正主義を容認していると受け取られかねない。

 こんなホテルを、東京五輪組織委員会が公式に用意したとなったら、それこそ国際的に大問題だろう。

 『スッキリ』では首相官邸や国会議事堂にほど近い永田町に昨年3月オープンした「アパホテルプライド国会議事堂前」と思しきロビーや客室を紹介。日本語だけでなく、英語・中国語・韓国語仕様もあるなど、外国人客にも対応していると宣伝していた。

 しかし、本サイトは、昨年3月の「アパホテルプライド国会議事堂前」の開業時に潜入その様子をレポートしているが【 https://lite-ra.com/2019/03/post-4622.html】、そのときロビーや客室には、上述のような元谷代表の歴史修正主義思想を喧伝するものがあふれていた。

 たとえば、ロビーのど真ん中にしつらえられた大きな台のうえに、例の元谷代表が「南京虐殺はなかった」という主張をした「藤誠志」名義の著書『理論近現代史学』シリーズが、ズラリと陳列。まるで宿泊客を出迎えるようかのように存在感を発揮していたこれらの本は、フロントに確認すると誰でも購入可能だった。

 客室も同様だ。記者の泊まった「スタンダードルーム」にも、例の『理論近現代史学』シリーズがやはりあった。しかも引き出しの中などでなくサイドデスクのうえに、歴史修正本がむき出しで置かれていたのである。

 しかも、よくみると、2017年からラインナップが更新。『理論近現代史学』は機関誌「Apple Town」の連載をまとめたものでシリーズ化されており、“南京事件や従軍慰安婦は捏造だ”とする内容が海外で問題視されたのはシリーズのII。だが、「アパホテルプライド国会議事堂前」の客室には、2017年の問題発覚以降に刊行されたIIIとIVが置いてあった。

 この取材は2019年3月のオープン時のことなので、もしかしたら現在は撤去、あるいはさすがに五輪期間時のみ撤去する可能性もなくはないが、そういう問題ではないだろう。

 このように歴史修正主義を喧伝してきた企業が、なんら反省もないまま、オリンピック・パラリンピックという世界中の人が参加する公共のイベントに関わるなど、許されないことだ。それこそ、五輪組織委や日本政府、ひいては日本社会全体がこうした歴史修正主義や差別排外主義を許容していることになる。

 契約の経緯や歴史修正主義本の問題については、あらためて組織委やアパホテルに取材したいが、組織委が旭日旗持ち込みを認めた問題にしろ、このままでは東京五輪が日本の極右思想・歴史修正主義を世界に露呈する場となるのではないか。