内閣府HPより


 岸田文雄首相と自民党はどうやら、安倍晋三・元首相の死によってすべての疑惑を闇に葬り去るどころか、安倍氏を神格化しようとしているらしい。言うまでもない、安倍氏の葬儀を「国葬」として実施すると閣議決定で決めようとしている件だ。

 すでに指摘されているように、「国葬令」は敗戦によって廃止されたため国葬を実施する法的根拠はない。1967年には例外として吉田茂・元首相の国葬が実施されたが、1980年代以降は首相経験者の葬儀は政府と自民党が費用を折半する「合同葬」が慣例となってきた。ところが、岸田首相は安倍元首相の「功績」と内閣府設置法を根拠にし、閣議決定をもとに全額が国費で賄われる「国葬」の実施を決定したのだ。

 全額税金で賄う以上は必要不可欠なはずの議論さえもすっ飛ばし、閣議決定という強権によって神格化を図ろうとする──。

 岸田首相はこんな反民主主義的なゴリ押しをおこなう前に、もっとやるべきことがあるのではないか。

 それはもちろん、山上徹也容疑者の犯行の動機となった統一教会(現・世界平和統一家庭連合)と安倍元首相、そして自民党との爛れた関係をきちんと検証することだ。

両者の関係はたんに選挙協力を仰いでいたというレベルではなく、その癒着が政策や行政に大きく影響を与えていたことも明らかになっている。

 来年4月に発足する「こども家庭庁」の名称問題をめぐっても、ここにきて、統一教会が関与していた疑惑が浮上している。

「こども家庭庁」の名称問題については、泉房穂・明石市長が〈『統一教会』が、自民党の議員に命令して、「子ども庁」ではなく「子ども家庭庁」に変更させたとのこと。自民党が、子どもへの責任を、家庭に押し付け、子どもに冷たい政治を続けている背景には、『統一教会』の存在が大きいとも言われている。マスコミよ、きちんと事実を報道していただきたい〉と投稿。これを「ひろゆき」こと西村博之氏が引用リツイートし、〈菅元首相が作った「こども庁」を岸田首相が「こども家庭庁」に変えた経緯に、統一教会の支援団体が関与してたことを自白してますね〉と指摘し、大きな関心を集めているのだ。

「こども家庭庁」の名称問題にも統一教会が関与していたのではないか──。安倍応援団は例のごとく陰謀論扱いしているが、これにはれっきとした根拠がある。

 たとえば、ひろゆき氏がツイート内で証拠として示したのは、統一教会の別働隊である「国際勝共連合」のHPに掲載された文章なのだが、そこではこんな記述があった。

〈心有る議員・有識者の尽力によって、子ども政策を一元化するために新しく作る組織の名称が「こども庁」から「こども家庭庁」になりました。〉

 ようするに、統一教会の別働隊が「心有る議員・有識者の尽力によって」と、わざわざ陳情の成果を強調し、報告しているのだ。

 さらに、同HPでは、たびたび安倍元首相が表紙を飾ってきたことでも知られる統一教会系雑誌「世界思想」の記事を引用し、このような主張が繰り広げられていた。

〈当初は「子ども家庭庁」という名称だったが、被虐待児にとって家庭は安全な場所ではないという理由で「家庭」の文字が削除されてしまった。
この論法は明らかにおかしい。
被虐待児にとって忌避されるべきは、虐待を生み出した歪な家庭環境であって、「家庭」そのものではない。
むしろ、彼らにとって必要なのは、親代わりとなって自らを愛情で包んでくれる新しい「家庭」だ。〉
〈日本では、増え続ける虐待や子供の貧困をひきあいに「子どもの権利」を法律に書き込んでいないことが問題だと短絡的に考えられている。
しかし、虐待が起こるのは子供の権利が法律に書き込まれていないからではない。

夫婦や三世代が一体となって子供を愛情で包み込む家庭や共同体が壊れているからだ。
子供政策は、家庭再建とセットで考えるべきである。〉

 この文章からは、「こども家庭庁」への名称変更がまさに、勝共連合=統一教会の宿願だったことがよくわかるだろう。

「こども家庭庁」への名称変更に統一教会が関与していた形跡は、そのほかにもある。

 まずあらためて振り返ると、本サイトでも既報のとおり、そもそも「こども庁」創設の構想は、菅政権時の2021年2月から自民党の山田太郎参院議員や自見はなこ参院議員ら若手有志議員がスタートさせた勉強会が起点となっている。そのときは「子ども家庭庁(仮称)」としていたのだが、第6回目の勉強会に招かれた虐待サバイバーである風間暁氏が「家庭は地獄でした」と自身の経験を語り、その言葉を受けて「こども庁」に変更。

菅義偉首相も岸田文雄首相も名称を「こども庁」としてきた。

 にもかかわらず、政府は2021年12月15日になって、自民党の会合で「こども家庭庁」に変更する修正案を示し、これを自民党が了承。同月17日におこなわれた自民党総務会でも了承され、政府は「こども家庭庁」の創設を含む子ども政策の基本方針を閣議決定したのである。

「家庭は地獄」という当事者の声を受けて変更した経緯があったというのに、わざわざ「こども家庭庁」に戻す。この裏側で起こっていたのが、安倍元首相をはじめとする自民党極右政治家たちによる圧力だったことは、いまさら説明するまでもない。

 しかし、問題は安倍元首相ら極右議員を誰が動かしたか、だ。

 じつは、「こども庁」を「こども家庭庁」に戻すというこの反動的キャンペーンでは、ある学者が先頭に立っていた。その学者とは、あの「親学」というトンデモ理論を提唱する高橋史朗氏だ。

 本サイトでは繰り返し批判してきたが、「親学」は戦前の家父長制的家族観をベースに、子育ての責任を家庭、とりわけ母親のみに過大に押し付ける考え方で、たとえば「児童の2次障害は幼児期の愛着の形成に起因する」などと主張し、“子どもを産んだら母親が傍にいて育てないと発達障害になる。だから仕事をせずに家にいろ”と科学的には何の根拠もないことを振りかざす差別的なトンデモ教育理論。提唱者の高橋氏は「生長の家」系組織で活動をおこない、現在も日本会議の中心メンバーを務めるゴリゴリの極右活動家だ。

 実際、2021年11月29日に「モロラジー道徳教育財団」のHPに掲載された高橋氏のコラムによると、高橋氏が執筆した「こども庁」の問題点をまとめた冊子について、〈安倍元総理をはじめ、自民党の幹部にコピーを手渡したところ、早速自民党の4つのプロジェクトチームの合同勉強会や内閣部会での講演依頼があった〉と記述している。

 さらに、その高橋氏に加え、安倍側近として知られる山谷えり子参院議員、有村治子参院議員ら自民党議員が顧問を務める極右団体「全国教育問題協議会」が同年11月30日に自由民主会館で役員会を開催。その席で、高橋氏は「こども庁」構想の経緯や論議について「わが国が築き上げてきた伝統文化や家族の温かい絆を破壊しかねない方向に向かっていることに深い危機感を覚える」とぶちあげ、「こども庁を蝕む『家庭』解体派に警鐘を」というタイトルの報告がHPに掲載された。

 つづいて12月8日に自民党本部で開催された青少年健全育成推進調査会においても高橋氏は講演をおこない、講演の最後には山谷氏が「こども家庭庁に改めるべき」だという高橋氏の主張を強調した、という。これらの経緯を経て、12月15日に政府は名称変更を自民党会合に提示したのである。

 こうした動きを見れば、政府が突如「こども家庭庁」への名称変更を提示した背景に、高橋氏の存在があったことは、もはや疑いようもない。

 しかし、この高橋氏には統一教会と連携しているフシが見え隠れするのだ。

 前述したように高橋氏は日本会議の中心メンバーだが、以前より統一教会系の団体で講師を務めたり、統一教会系メディアである「ビューポイント」に定期的に寄稿するなど、統一教会との接点が指摘されてきた。この「こども庁」名称問題においても、「ビューポイント」で繰り返し“こども家庭庁にすべき”と訴えていた。

 さらに、「こども家庭庁」への改称については、安倍元首相とともに、山谷えり子氏が積極的に働きかけをおこなっていたが、この山谷氏にも、統一教会と関係があるのではないかという疑惑が持ち上がっている。

 2010年の民主党政権下の参院選直前、統一教会の別働隊である勝共連合が山谷えり子氏への組織的な投票を呼びかける内部文書の存在が発覚したことがある。ジャーナリストとして統一教会を取材し、霊感商法批判の先頭に立ってきた有田芳生氏が当時、自身のブログにアップしたのだが、その文書にはこんな文言が掲載されていた。

〈さて、来る7月の参議院選挙でございますが、勝共本部A(編集部注:文書では実名)本部長より資料等届いているかと思いますが、山谷えり子先生の必勝のためにご尽力宜しくお願いいたします。〉
〈A部長の話では25万票から30万票と読んでおります。ジェンダーフリー問題、青少年問題にとってなくてはならない先生でありますし、ここで男女共同参画社会5ヵ年計画が新に内閣府から示され、民主党政権下でさらなる厳しい状況が予想されます。山谷先生、安倍先生なくして私たちのみ旨は成就できません。〉
〈山谷事務所も30万票必勝態勢で臨んでおります。〉
〈どうか教区長を先頭に名簿づくり、声がけ下さいますようお願いいたします。又一番重要なことですがくれぐれも個人名「山谷えり子」と二枚目の投票用紙に記入することを何度も何度も徹底して下さい。自民党、党名ではだめです。〉

 統一教会サイドはこの文書について「捏造」だと言っているようだが、その内容はかなりリアルで、統一教会が山谷えり子事務所と一体になって、票読みから名簿づくり、投票の呼びかけまで、徹底しておこなっていたことが伝わってくる。そして、〈山谷先生、安倍先生なくして私たちのみ旨は成就できません〉という記述からは、安倍元首相、山谷氏が統一教会にとって、ほかの政治家とは別格の、重要な存在だったことも浮き彫りになる。

 また、この内部文書には、勝共連合本部のA本部長(文書では実名)の名前がしばしば出てくるが、A本部長は江利川安栄・第7代統一教会会長の側近だったと言われている実力者。

 ところが、A本部長は一方で、山谷えり子、有村治子ら自民党議員が顧問を務め、「こども家庭庁」への名称変更を迫っていた、前述の「全国教育問題協議会」の事務局員を務めていたのだ。くだんの文書には、こんな文言がある。

〈資料等足りない場合は本部A部長(編集部注:文書では実名)まで連絡下さい。対策上直接山谷事務所に連絡することはやめて下さい。又Aさんも自民党の先生方を集めた全国教育問題協議会の事務をしている関係上名前を変えています。勝共のAは使っていません。本部に連絡して選挙と言って下さい。A部長に必ず伝わります。〉

  A本部長は、統一教会=勝共連合の人間だという素性を隠して、山谷氏の選挙運動で重要な役割を担っていたらしいのだ。ちなみに、全国教育問題協議会のホームページにある役員名簿を覗くと、いまもこのA氏の名前がはっきり記されていた。

 同団体は、日本会議と密接な関係にある極右団体であることは周知の事実だが、まさか、統一教会系団体の幹部が入っていたとは……。

 しかも、繰り返すが、「全国教育問題協議会」は、高橋氏が「こども庁」の問題を指摘し、それを受けた顧問の山谷氏らが「こども家庭庁」への変更働きかけ運動の拠点のひとつにしていた場所だ。その「全国教育問題協議会」に、男女平等を敵対視し、抑圧的な家族観を押し付けようとする統一教会系団体幹部が入っていたとすれば、同団体が名称変更に影響を与えた可能性はおおいにあるだろう。

 いすれにしても、「こども庁」から「こども家庭庁」への名称変更に、日本会議などに加えて、統一教会も協力・連携していたことは間違いない。

 そして、こうした宗教右派の“悪魔合体”によって政策が歪められているのは、子どもの問題にかぎったものではない。安倍元首相や山谷氏を筆頭にした統一教会および日本会議といった団体と近い自民党極右議員は、ジェンダーフリーバッシングをはじめ、選択的夫婦別姓制度の導入やLGBT法案などでも反対派の急先鋒となってきたが、そこにはこうした統一教会など宗教右派が有する保守的家族観の影響があるのだ。

 実際、「全国教育問題協議会」は「こども庁」問題が取り上げられた役員会と同じ日に、小渕優子・自民党組織運動本部長に対して、憲法改正や選択的夫婦別姓反対を求めるとともに、「こども庁」について〈山積みする虐待、いじめ、貧困を国をあげて取り組む機会を利用して、フェミニズムなどのイデオロギーを再び教育界に浸透させてはならない〉などとする要望書を手渡している。

 さらに、この役員会では終盤に「同性愛者は母親との母子関係が険悪で、幼少期に同性による性的いたずらなどをされたのに先天的だと思い込んでいるケースが圧倒的に多い。親子関係を意図的に排除し、性の自己決定が親子や家族関係を無視して家庭崩壊を優先させたい性解放派の刷り込み、洗脳ではないのか」などというとんでもない質問まで飛び出したという。

 統一教会にしろ、日本会議にしろ、はたまた同性愛差別で問題になった神道政治連盟にしろ、こうした宗教右派と自民党議員の関係が、一向に議論が進まない選択的夫婦別姓の導入や LGBTQの差別解消、同性婚などといった法整備の問題に大きな影響を与えている可能性は非常に高い。つまり、政治と宗教右派の関係が、差別を助長したり国民の不利益に繋がっているのである。

 安倍氏の事件をきっかけに統一教会と政治家の関係にようやくスポットが当たるいま、「こども家庭庁」の名称変更をはじめとして、あらためて検証されるべき問題は山のようにある。だが、こうした重要な問題が、安倍元首相の「国葬」実施によって糊塗されようとしているのだ。このような動きを阻止しなくては、いつまで経っても政治から宗教右派の影響を取り除くことはできず、この国は「人権後進国」に成り下がっていくだろう。