「元を取らなきゃ」という思いが、実はさらなる出費を招いているかもしれません。

明治大学教授・堀田秀吾氏の著書『科学的に正しい[お金が貯まる]習慣』では、私たちの合理的な判断を狂わせる「心理的な罠(わな)」とその対策について解説しています。


今回は本書から一部抜粋し、将来のお金を増やすために不可欠な「過去の執着を捨てる勇気」について紹介します。

■回収できない「埋没費用」の罠
映画館でチケットを買ったあと、「つまらない」と思いながらも「お金を払ったから」と最後まで観たり、あるいは、高い会費を払ったのに行かなくなったジムを「もったいないから」と退会しなかったりした経験はありませんか?

これらはすべて「サンクコスト(埋没費用)の誤謬」という心理的なバイアスが働いています。サンクコストとは、回収できないお金や時間のこと。

経済学的には、「その後の意思決定には関係ない」とされますが、私たちは「せっかく払ったんだから」と、損を取り戻そうとしてしまいます。ところが、この考え方が貯金を妨げることも少なくありません。

■貯金を増やす「損切り」の戦略
投資やビジネスの世界では、これを回避するために「損切り」という行動が勧められます。過去の投資額に執着せず、将来の見込みが低いと判断したら早めに手を引くという戦略です。

損切りは、株やFXだけの話ではありません。使わない会員サービスや趣味グッズ、行かなくなった習い事も一緒。思い切ってやめることで毎月の出費を減らせます。

たとえば、「去年高かったから、今年も同じブランドの服を買う」「会員制サービスをほとんど使っていないのに継続する」といった行動は、気づかないうちにお金を未来のために貯めるチャンスを奪ってしまいます。

■未来を基準に判断する習慣
サンクコストの落とし穴を避けるコツは、「過去ではなく未来を基準に判断する」こと。


たとえば、観たくない映画は途中で出てもいいし、行かないジムは退会してOK。あなたはやめたことで何かを失ったのではなく、その分、この先に広がる未来のために使えるお金や時間を得たのです……貯金口座や投資信託、あるいは本当に必要な体験に回しましょう。

「もったいない」という感情は悪者ではありませんが、向ける先を間違えるとお金が静かに流れ出していきます。未来の自分を笑顔にするために、勇気を持って「手放す」ことも貯金術のひとつなのです。

■ひとことアドバイス
損切りは「負け」ではなく「未来への勝ち筋」です。今日の小さな決断が、明日の大きな貯金をつくります。

文:堀田 秀吾(明治大学法学部教授)
法と言語科学研究所代表。専門は社会言語学、理論言語学、心理言語学、神経言語学、法言語学、コミュニケーション論。研究においては、特に法というコンテキストにおけるコミュニケーションに関して、言語学、心理学、法学、脳科学などさまざまな学術分野の知見を融合したアプローチで分析を展開している。執筆活動においては、専門書に加えて、研究活動において得られた知見を活かして、一般書・ビジネス書・語学書を多数刊行している。アイドルのプロデュースから全国放送のワイドショーのレギュラー・コメンテーターなど、研究以外においても多岐にわたる活動を見せている。
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