今回は、医療・介護の現場で「この人は長く続かないかもしれない」と感じたという2人のエピソードを紹介する。
“白衣の天使”と歓迎された新人に広がった違和感
岸本かなえさん(仮名・30代)が勤める介護施設に、新卒の看護師が入職してきた。処置や投薬を担える人材の加入に、現場は歓迎ムードだったという。「介護福祉士だけではできる医療行為に限りがあるので、みんな期待していました」
人当たりもよく、第一印象はよかったそうだ。
「こんな感じのいい新人さんがいるんだという雰囲気でした。少し大げさですけど、“白衣の天使が来た”という感じでしたね」
しかし、その印象は長くは続かなかった。
「私がするんですか?」驚きの質問も…
施設では、看護師も介護士も関係なく、入浴介護や排泄介助、居室の清掃、シーツ交換などを分担で行っている。病院のように、看護補助だけに任せられる体制ではない。岸本さんが手順を説明し、モップを手渡すと、新人は目を丸くしながら「え? 私がするんですか? 床とトイレまで?」と言った。
その言葉に、岸本さんは一瞬返答に詰まった。
「最初は『まだ介護施設の仕事のイメージが湧いていないのかな?』と思ったんです。でも、その後も同じようなやり取りが何度もありました」
医療行為でも温度差…仕事を任されなくなり退職へ
違和感は日常業務のさまざまな場面で繰り返された。利用者の入浴介助の際、傷の確認を依頼したときも、新人は戸惑った様子を見せたという。岸本さんは「Aさんの臀部に気になる傷があるので、入浴介助のときに確認してください」と伝えると、新人は驚いたように「私が入浴介助に入るんですか?」と聞き返した。
さらに、血液検査と抗原検査のオーダーが入った際にも、現場の空気は重くなった。
「えー、私がやるんですか? このシリンジ(液体や気体を吸い込み、押し出すための筒状の器具)と針、使ったことないメーカーなんですよ!」
その後も理由を並べ、「高齢者が動くと危ないからやりたくない」といった発言もあった。結局、他部署の看護師が対応することになったそうだ。
「それからは、誰も仕事を頼まなくなりました。医療行為も別部署にお願いするようになって、本人は除菌作業ばかりしていました」
看護師の給与が支払われている一方で、担っている業務は看護とは言い難いものになっていった。周囲との距離も広がり、新人は入職から約1ヶ月半で退職したという。
「今思えば、“看護だけをしたい”という気持ちが強かったんだと思います。でも、この現場ではそれだけでは通用しませんでした」
「ナースコールを押しても来ない」患者の声で発覚
北本恵さん(仮名・30代)が働く、急性期病院(病気やけがの直後の容態が急激に変化する患者に対し、24時間体制で高度・集中治療や手術を行う医療機関)でも、印象に残っている新人看護師がいた。配属当初は問題なく見えていたが、しばらくすると患者から気になる声が届くようになったという。
「ナースコールを押しても来てくれないとか、『確認します』と言ったまま戻ってこないという話が出るようになりました」
同じ頃、看護師同士でも違和感が共有されていった。引き継いだ直後の患者が発熱していたり、点滴が詰まったまま放置されていたり、排泄ケアが不十分だったりと、小さなズレが重なっていたのだ。
「私は『業務量が多すぎるのかな』『一人で抱え込んでいるのかな』と思っていました」
そこで病棟ではミーティングを開き、フォロー体制を強化。他の看護師がナースコールに対応したり、ケアを一緒に行ったりすることで、新人の負担を減らそうとしたという。
「そのときは、サポートが足りていなかったのかもしれない……という反省もありました」
見えてきたのは“忙しさ”ではなく行動の優先順位
しかし、本人と話す機会をもったことで、北本さんたちの見方は変わった。「私たちが思っていたのと違って、“できない”というよりは“すぐにやらない”という印象でした」
ナースコールが鳴っても、一度止めるだけで訪室しない。患者からの問い合わせにも、「後で返事します」と伝えたまま、その場を離れることがあった。看護の現場では、予定通りに業務が進むとは限らない。患者の状態に応じて優先順位を判断し、その場で動くことが求められる。
「ベテランでもすべてを予定通りにこなすことはできません。だからこそ、“今どう動くか”が大事なんです。その感覚が合わなかったんだと思います」
新人は約1ヶ月で部署異動となり、その後まもなく退職したという。
「この経験で、業務の教え方だけではなく、その人が仕事をどう捉えているかを早い段階で把握するのも大切だと感じました」
<取材・文/chimi86>
【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。
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