
『推しといつまでも』では、特別企画として、<読む『推しといつまでも』>というコラム企画を期間限定で実施中!様々な業界で活躍する著名人の方が、番組を放送前に見て、率直な感想をコラムとして執筆。
中山美穂編(一穂ミチ)
問・次のカギカッコ内の空欄を埋めなさい。文字数は問わない。
『中山美穂は、永遠の「 」である』
さて、何と答えますか?
アイドル。女優。スター。歌手。どれでも正解ですが、わたしが回答するなら「美しい人」でしょうか。「美人」よりも「美しい人」と呼びたくなるのです。個人の好みや流行り廃りを超越した圧倒的なルックスに甘くたおやかな声、ちょっとした所作の品のよさ。それらは彼女が年齢を重ねても褪せることなく、深みを増していく。
若かりし頃のミポリンは、指原莉乃さんが「かっわい~!」と感嘆してしまうのも納得の光り輝くダイヤモンドでした。わたしも『素敵な片思い』というトレンディドラマ(1990年放送)を毎週楽しみに観ていたものです。
もはや「ミポリン」というより「美穂さま」とお呼びしたくなる気品と落ち着きをたたえた中山美穂さんですが、ファンというわけではなく、折々に『美しい人』としての彼女を垣間見てきただけのいち視聴者にとって、驚きと発見に満ちた回でした。まず、ホストの石川さんご一家が本当に「ごく一般的なご家庭」だったこと。そういうコンセプトの番組とはいえ、さすがに中山美穂さんをお迎えするとなれば、ルーフトップバルコニーがついているとか、光るジャグジーがあるとか、芸能人の交際・結婚報道における「お相手は一般の男性」「一般の女性」を目にした時くらいの「どこがやねん」が湧き出ずる「一般」に違いない、と決めつけていました。ところが、石川さんご夫婦も息子のタクミくんも本当に素朴で親しみやすい「よきご近所さん」的ファミリーで、タクミくんの「え⁉︎ 何で選ばれたの?」というコメントにはほのぼのと笑ってしまいました。
もちろん、選ばれたのには相応の理由があります。ご夫婦のファン歴と「美穂コレクション」の充実ぶり、中山美穂さんのバスツアーがきっかけで知り合い、結婚に至ったという「推しで人生変わった」エピのガチさ。おふたりがミポリンにハマっていなければ、あるいは同担拒否のファン同士だったら、タクミくんは生まれていなかったわけです。運命の摩訶不思議さと、ひとつの生命の尊さに思いを馳せずにはいられません。
ところで、先ほどさらっと書いた「中山美穂さんのバスツアー」なる文言。びっくりしませんか。
いかにも女優然とした、ミステリアスで近寄り難い人。わたしが「中山美穂」に抱いていた何となくのイメージが次々にひっくり返っていきます。「中山美穂といえばお酒」という亜希子さんの力強いコメントも、新鮮な驚きがありました。そうなんですか? こんな「ファンにとっての当たり前」を窺い知ることができるのも、『推しといつまでも』の醍醐味ですね。
そして、おもてなし当日。待ち合わせ場所に単身&徒歩で現れた中山美穂さんにびっくり、石川さんご一家と対面した時のリアクションにびっくり......あったかい驚きの連続でした。応援、憧れ、崇拝。
かつてのミポリンがダイヤモンドなら、今の彼女はこっくりとした黄金色の琥珀。ファンは年月とともに熟成されていくお酒を愉しむように、輝き方を変える「推し」に魅了され、日々の暮らしに活力と彩りを得ることができる。ミポリンとの夢のような一日が、石川さんたちの人生をこれからも長く照らし続けるのだと思うと、何の関係もないわたしまで嬉しくなるのでした。
一穂ミチ(いちほ・みち)
2007年『雪よ林檎の香のごとく』でデビュー。『イエスかノーか半分か』などの人気シリーズを手がける。
『スモールワールズ』で第43回吉川英治文学新人賞を受賞。同作は第165回直木賞候補、2022年本屋大賞第3位となり話題をよぶ。2022年に刊行した『光のとこにいてね』が第168回直木賞候補、2023年本屋大賞第3位に。『パラソルでパラシュート』『砂嵐に星屑』『うたかたモザイク』など著作多数。