様々な細胞に変化できるiPS細胞の誕生から20年となった今年、iPS由来の再生医療製品が初めて保険適用となりました。
患者からは期待が高まっていますが、病に苦しむ人たちを救う技術として普及するか。
究極の目的「広く普及させる」ためには、どのような課題が残されているのでしょうか。
iPS細胞の『これまで』と『これから』を取材しました。
万博でも注目!培養液のなかでドクドク…iPS心臓
培養液のなかでドクドクと拍動する、小さな心臓。
iPS細胞を使って作られていて、去年の大阪・関西万博で「iPS心臓」として注目を集めました。
(来場者)「なんかドキドキしてた。見てるだけで楽しかった」
山中教授が生んだ「iPS細胞」とは?患者からは高まる期待
いまから20年前、京都大学の山中伸弥教授が世界で初めて作製に成功した「iPS細胞」。
私たちの体のもとになる細胞は、神経や骨など、様々な役割を持つ細胞に「変化」することができます。しかし、一度何かの細胞に変化して役割が決まると、別の細胞に変わったり、元のまっさらな状態に戻ったりすることはできない、というのがこれまでの常識でした。
そんななか、山中教授は驚くべき発見をします。人間の皮膚などの細胞に、特定の遺伝子を組み込んで培養することで、細胞を「役割が決まる前のまっさらな状態」に戻すことに成功したのです。
こうして作られたのが「iPS細胞」で、人間の体を作るすべての細胞に変化できると言われています。山中教授はこの研究で2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。
(京都大学 山中伸弥教授)
「本当に光栄でありますが、1日も早く本当の意味の社会貢献といいますか、医学応用を実現させたい」
iPS細胞、実用化に大きな一歩
このiPS細胞を使った技術が、私たちの身近な医療として大きな一歩を踏み出しました。
万博の「iPS心臓」を作製した大阪大学発のスタートアップ企業「クオリプス」。
iPS細胞を「心臓の筋肉の細胞」に変化させ、薄いシート状に加工したもので、心臓をめぐる血液が足りず機能が落ちる「心不全」となった心臓にこのシートを直接貼り付けることで血管の再生を促し、再び元気に動くようになると期待されています。
クオリプスによりますと、心臓移植などしか治療法がなかった重症患者の新たな選択肢になる可能性があるといいます。
(クオリプス・澤芳樹最高医療科学責任者)
「少なくとも心臓移植を待っている間に亡くなるような方、もしくは少ないドナーの中で極めて過酷な重症心不全治療を強いられてる状況を少しでも改善できるようになることを期待している」
仕事中に倒れ心不全と診断 患者が感じた「絶望」
iPS細胞を使った心臓病を対象とする製品の開発はほかにも進んでいます。
東京都内に住む彦坂和人さん、おととし、仕事中に突然倒れ、その後「心不全」と診断されました。少し歩くだけでも息切れがひどかったといいます。
(彦坂和人さん)
「重い荷物を持っての仕事とかはちょっと今後厳しいかなとか、いろいろ考えましたね。絶望でしたよね」
当時の彦坂さんの心臓の様子です。
(日本大学医学部附属板橋病院 北島史啓医師)「(心臓の)収縮というのは、この幅がギュッと小さくなる。それがもうほとんど動いてない状況なので、これはもう心臓の動きが極めて悪い」
iPS細胞使った心臓病治療「心筋球」とは?
命の危険もあるような状態、そこでiPS細胞の技術を使ったある製品の治験に参加しました。
その製品が、慶応義塾大学発のスタートアップ企業「Heartseed(ハートシード)」が開発した「心筋球(しんきんきゅう)」です。
(Heartseed・福田恵一社長)「これが心筋細胞の塊。バラバラではなくこのように塊を作ることが大事なんです」
「心筋球」今後は体の負担が少ないカテーテルでの治療法確立へ
「心筋球」はiPS細胞由来の心筋細胞を直径0.15ミリほどの球状の塊に加工したものです。
弱った心臓の筋肉に直接注射して心筋細胞を増やすことで、機能の回復が期待できるといいます。今は胸を大きく開く手術が必要ですが、将来的には体の負担を減らせるカテーテルを使った治療法の確立を目指しています。
(Heartseed・福田恵一社長)「治験の結果が私どもが想像していた以上に良い結果でしたので、心不全の患者さんに直接1日でも早くお届けしたい」
“絶望”感じていた患者「問題なく生活できるように」
彦坂さんは血液の流れを良くするバイパス手術と合わせて心筋球を心臓に注射しました。
すると・・・
(日本大学医学部附属板橋病院 北島史啓医師)
「これが手術後半年(の彦坂さんの心臓)ですね。ここがギュッと手術前よりは収縮してるような動きがあるかな」
見比べてみると、手術後の心臓は手術前と比較して動きが大きくなったように見えます。手術から3か月後には息切れはほとんどなくなったといいます。
(彦坂和人さん)「本当にどん底だったものが、今はもう普通に全く問題なく生活してますので、すごい。すごいことですよね、本当に」
「心筋球」治験 参加者10人全員が症状改善・維持という結果に
心不全は一度発症すると徐々に病状が進行します。しかし、Heartseed(ハートシード)によりますと、10人に「心筋球」の治験を行ったところ、全員の重症度が治験前と比べて改善または維持されたということです。
(日本大学医学部附属板橋病院 北島史啓医師)
「(iPS細胞によるものは)いずれはできてくるだろうなという治療ではあったんですけど、ここまで早く進んでいるというのはかなり実感している。今後もさらに発展していろんな病気に対する治療法になってくるのではないかなと思う」
「アムシェプリ」10月に1例目の移植手術へ
様々な細胞に変化できるiPS細胞を使った製品の開発は、まだ根本的な治療法がない難病でも進んでいます。
住友ファーマが開発した「アムシェプリ」。iPS細胞を「脳の神経細胞」に変化させた製品です。
脳の中で体の動きをスムーズにコントロールする「ドーパミン」という物質を作り出してくれます。これにより、手足が震えたり動きが鈍くなったりする指定難病「パーキンソン病」の治療に効果があると期待されています。
(研究員)「神経細胞から神経突起が伸びてきているもの。先端の方からドーパミンという神経伝達物質を放出して、周りに信号を伝えていくという働きがある」
今年5月に保険適用され、10月には1例目の移植手術が実施される予定です。
(住友ファーマ 木村徹社長)
「我々が先頭を切って、承認までこぎつけたというようなことについては、ある種満足感もありますけど、広く普及させることが究極の目的なので、それにはまだまだ道のりは長い」
誕生から20年が経ち、いよいよ実用化が始まったiPS細胞。どのような医療の未来につながっていくのでしょうか。
iPS細胞の実用化 まだまだ続く正念場
これまでにiPS細胞由来の再生医療等製品として、「リハート」「アムシェプリ」の2つが公的保険の対象となりました。
ただ、いずれの製品についても製造販売は条件・期限付きで認められたいわば「仮免許」の段階です。ここから本承認を経て、医療として広く普及させるためには、7年以内に有効性を証明するためのデータを集める必要があり、まだ正念場が続いているような状況です。
一方、この2製品が本承認を取得すれば、ほかの企業もiPS細胞を使った再生医療への取り組みに弾みがつくとの見方もあり、患者や医療関係者からの期待が高まっています。
これに対しiPS細胞の生みの親である山中伸弥教授は、今後の課題について、①「資金や人材が途切れ、開発が止まる『死の谷』をどう乗り越えるか」、②「安定して大量に製造する技術の確立とコストの削減」の2点を指摘。
このうち「死の谷」の克服について、山中教授が理事長を務めるiPS財団も後押しをしたいと話していました。
iPS細胞の誕生から20年。時を経たいま、iPS細胞を活用した新たな治療法の開発は、糖尿病や脊髄損傷などさまざまな疾患で進んでいます。
患者の期待に応えることができるのか。日本発、関西発の技術への注目が集まっています。
(2026年9月24日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」内『特集』より)

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