柴川淳一[郷土史家]

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2015年9月9日放送の日本テレビ「花咲舞が黙ってない」の第10話を見た。ここのところ数回の「花咲舞」は、支店長の悪事という話が続いている。


第10回の今回は「融資予約」をやった豊洲支店の三枝支店長(津田寛治)の悪事を暴く。

「融資予約」だが、決裁権のない人が具体的に融資の条件まで口にしてしまえば非は免れないところだろう。豊洲支店の三枝支店長(津田寛治)の支店長融資権限がどういう風に設定されているか不明だが、返済後再融資の手順とレートまで口にしているから、これは紛れもなく「融資予約」である。

背信的悪意に彩られた「貸しはがし」、「詐欺行為」、「犯罪行為」である。真藤常務には申し訳ないが銀行内部の「査問委員会」等と悠長なことを言っている場合ではない。「司直に告発」、「懲戒解雇」が妥当だ。何しろ、被害者企業は倒産し、代表者は死亡し、従業員は路頭に迷っている。

筆者は、学生のころ、人間の性は善だと信じて疑わなかったが、銀行に勤め始めてから、どうも人間の性は悪でないかと思い直すようになった。今回のドラマのような事例を現実に見過ぎたせいだ。

「融資予約」は銀行としての結論の出ていない段階で一個人の銀行員が顧客に融資を約束するのであるから、こんなに無責任な話はない。しかし優柔不断が原因の全く悪意のないケースがある。

けれども、決して許されて良い訳ではない。
若年行員の中には、債務者企業に同情し、何とか融資したいと思いながら、融資に否定的な上司との板ばさみになり、いたずらに時が過ぎ、顧客に、

 「融資は大丈夫だろうな?当てにして良いんだろうね?」

と督促されて思わず「はい。」と答えるケースがあるやに聞く。

「融資謝絶(否決、お断り)こそ速やかに行うべし。」という融資係の鉄則がある。それは勿論、債務者に時間的余裕を与えて資金手当てをしていただく為だ。たいてい融資が不可能な案件のときほど「謝絶」をせず、回答をせずにグズグズと対応する。

結果、融資予約的な言葉を口にする。それこそが『悪』なのだ。

津田寛治という役者の演技は秀逸だった。終始、身勝手で立身出世主義に凝り固まり、おのれの保身の為なら、顧客の命や財産は踏みつけにする、平気で嘘をつくという悪党支店長役をこなした。舞たちと初対面の温厚さと仮面を脱ぎ捨てた後の悪人づらのギャップは見事だった。

そして最後に花咲舞の「お言葉を返すようですが!」の決め台詞に切って捨てられ、

 「私は間違っていない。すべて銀行の為に行ったことだ!」

と過呼吸気味に身もだえし、泣き喚き悔しがる。

その様は、「半沢直樹」シリーズ(TBS系)の伝説のラストシーンを彷彿とさせた。
名優香川照之が膝から崩れ落ち、唇を強く噛み、血をにじませ、歯軋りする謝罪の演技である。

杏は、相変わらずのはまり役を無難にこなした。上川隆也も名演技だった。大和田獏は安心して見られた。生瀬勝久は少しずつ演技を進化させているように思えた。

このシリーズは池井戸潤の原作の続く限り、シーズン3もシーズン4も続いて欲しい。期待して待ちたい。

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