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赤坂ACTシアターでミュージカル「ファントム」を観た。
苦手なミュージカルだが、観に行って本当に良かった。
当然ながら、ウェバー版とは音楽も違う。「オペラ座の怪人」といえばの、あの曲は演奏されない。ちなみに原作は、推理小説でも知られるガストン・ルルー。「黄色い部屋の謎」は面白かった。「オペラ座の怪人」を見ていない人には感動的かもしれないが、驚きを感じる筋立てでもない。
しかし、若い演者たちが凄く良かった。若さの弱さをみせるファントムとヒロインの恋愛は、より悲劇的だ。そういう意味では全くの別物である。城田優は身体が大きく舞台映えする。しかも声量があって歌が上手い。もともとシンガー・ソングライターでデビューしたとは知らなかった。
ミュージカルが天職かもしれない。マルシアが嫌味なコメディリリーフを生き生きキレキレで好演。歌手であるだけに歌も上手いし、ミュージカル界の野際陽子の存在感。吉田栄作も舞台映えするプロポーションと演技力で、城田とのシーンは迫力があった。もっと歌うシーンがあっても良かった。
なんと言っても儲けものは、山下リオ。透明感ある歌声で、初々しいヒロイン・クリスティーヌを好演。オーディションで選ばれたそうだが、声楽でもやっていたかのような発声で、Aスタジオ(TBS)の鶴瓶さんのアシスタントと同一人物とは思わなかった。
薬師丸ひろ子、松たか子、柴咲コウのラインになる可能性がある。まさにスター誕生だ。あらかたストーリーが読める「ファントム」だが、スター・ヒロインの登竜門、つかこうへい作の「飛龍伝」のように、オーソドックスで秀れた戯曲は、再演で次々と新しいスターを生み出す役割があることを、改めて示した。
もちろん、商業性を最優先した再演も目につく。しかし「ファントム」は両方を兼ね備えている。満席なのは同慶の至りだが、セットが豪華なのが気掛かりだ。演劇の算盤勘定は門外漢だが、最近の商業演劇はセットに金をかけすぎのような気がする。城田、山下、マルシア、栄作なら充分に見せきる配役だ。余計なお世話か。
「ファントム」が示す可能性は、歌が上手いミュージカルスターが演じるのではなく、芝居のできる俳優が歌唱力もあるミュージカルであることだ。日本発のミュージカルは、コミック原作や子供向けのものが多い。三谷幸喜さんの「オケピ」は、ミュージカルというよりは演劇寄りだった。
日本人の脚本と音楽と演出とキャストで、洋モノではない国産本格ミュージカルの下地はできている。「本能寺の変」や「赤穂浪士」を桑田佳祐や宇多田ヒカルの音楽でドーンとやって欲しいもんだ。時代劇ではない小説でミュージカルになる原作はないものか。
「オペラ座の怪人」は小説→映画→ミュージカルの道をたどっている。映画のヒット作で、悲劇であればミュージカルの目があるのか。薬師丸ひろ子主演映画「Wの悲劇」とか?特に、赤坂ACTシアターの関係者の方々、国産ミュージカル制作をよろしくお願いします。
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