直近3ヶ月で新たに創設された介護医療院は15施設

厚生労働省が最新の介護医療院の開設状況を公表

2022年6月23日、厚生労働省は介護医療院の2021年度末時点での施設数は677施設で、2022年1~3月の3ヵ月間では15施設のみの増加であったことを発表しました。

介護医療院の類型ごとに見た場合、要介護度の高い高齢者向けの「Ⅰ型」は468施設、比較的心身状態が落ち着いている高齢者向けの「Ⅱ型」が205施設、Ⅰ型とⅡ型の混合型が4施設となっています。

介護医療院の増加が想定より伸びず。介護療養型医療施設からの移...の画像はこちら >>
出典:『介護医療院の開設状況について』(厚生労働省)を基に作成 2022年07月21日更新

介護医療院は、2017年度末に廃止されて移行期間が2024年3月までと定められている介護療養型医療施設に代わる施設として創設されたものです。

移行期間内で必要な施設数を確保し、介護療養型医療施設に入居中の方の移転を速やかに行えるように、国・厚生労働省が取り組みを進めています。

しかし、ここにきて介護療養型医療施設から介護医療院への移行のペースが上がらないことが問題視されるようになってきました。

介護医療院の創設数も都道府県によってばらつきがあり、福岡県北海道ではすでに40施設以上が整備されていますが、岩手県山形県滋賀県などは県内に3施設しかない状況です(2022年3月末時点)。

介護医療院Ⅰ型とⅡ型がある

介護医療院は2018年4月に創設された高齢者向けの介護保険施設で、医療依存度が高く、重度の要介護者でも十分な医療ケアを受けながら生活できる施設です。介護老人保健施設や特別養護老人ホームと同じく、介護保険適用にて入居できます。

介護医療院にはⅠ型とⅡ型とがありますが、Ⅰ型は従来の介護療養病床に相当する施設、Ⅱ型は介護老人保健施設に相当する施設です。

Ⅰ型はさらに「療養機能強化型A」と「療養機能強化型B」とに分かれ、強化型Aの方がより心身状態が悪化した高齢者向けの施設となっています。

そして、先のグラフで見た通り現状677施設中468施設がⅠ型。多くの介護医療院は、移行期間の期限である2024年3月末で完全に廃止される介護療養型医療施設の代わりに創設された施設、という位置づけにあるわけです。

厚生労働省のデータによると、介護療養型医療施設の施設数は2021年12月末時点で442施設。

介護療養型医療施設が完全に廃止される2024年3月末までに、介護療養型医療施設の数をゼロにし、入居中の利用者をすべて介護医療院など適切な施設に移行しなければならないわけです。

介護療養型医療施設から介護医療院への移行は進んでいる?

背景にある介護療養型医療施設の廃止とその理由

介護医療院が創設された理由は、老朽化した老健に代わる施設という意味もあるものの、最大の要因はそれまで介護保険施設として利用されていた介護療養型医療施設に問題があり、それに代わる施設が必要であったという点にあります。

では、介護療養型医療施設(介護療養病床)にはどのような問題があったのでしょうか。

最も大きな問題として指摘されていたのは、介護保険の対象となる「介護療養型医療施設」と、医療保険の対象となる「療養型病院(医療療養病床)」との間にほとんど相違点がなくなっていた、という点です。

本来、病院の病床は医療ケアを必要とする人が利用すべきもの。しかし、実態としての介護療養型医療施設は病院の中に設置され、そこの病床を使用して介護を行うというサービス内容です。

そして国が行った調査の結果、緊急の医療ケアを必要としない多くの高齢者が、「介護療養型医療施設を利用する」という名目で、病院の病床を長期間にわたって利用していることが明らかとなりました。

そのため、制度を見直し、医療と介護の線引きを明確にすべきとの議論が高まったのです。

介護療養型医療施設から介護医療院への移行に遅れが

介護療養型施設にはすでに多くの入居者がおり、その入居者を引き続きケアし続けていくためには、医療機関とは別組織としての「介護医療院」を設立し、そこに移行するというプロセスが必要です。

しかし、現状では介護療養型医療施設から介護医療院への移行に遅れが生じています。

厚生労働省のデータによると、介護療養型医療施設の施設数は2019年10月が833、2020年10月は556、2021年12月442です。2019年~2020年は280件近くも減少していましたが、2020年~2021年は110件程度の減少にとどまっています。

介護医療院の増加が想定より伸びず。介護療養型医療施設からの移行スピードはなぜ落ちた?
介護療養型医療施設の施設数
出典:『令和2年介護サービス施設・事業所調査の概況』、『介護医療院におけるサービス提供実態等に関する調査研究事業結果概要』(厚生労働省)を基に作成 2022年07月21日更新

2021年12月時点で、まだ400件以上の介護療養型医療施設が残っているわけです。そして冒頭で見た通り、2022年1月~3月の介護医療院の増加数は15施設のみ。

これらのデータからは、介護療養型医療施設から介護医療院への移行速度が落ちていることを読み取れます。なぜこのような状況が生じているのでしょうか。

介護療養型医療施設から介護医療院への移行時に直面する問題とは?

現在ある介護療養型医療施設のうち、「移行予定は未定」が約3割

厚生労働省が2021年12月に行った調査によると、全国の介護療養型医療施設に対して「2024年4月1日時点での病床の移行予定」について質問したところ(回答回収135施設)、「未定」と回答した施設の割合は27.1%に上りました。

約3割の施設が、介護医療院に移行に関しては何ら計画が定まっていないわけです。

回答割合としては「Ⅰ型介護医療院への移行予定」が26.6%、「Ⅱ型介護医療院への移行予定」が18.5%となっていましたが、回答の中では「未定」の割合が最も高くなっていました。

すでに多くの施設が介護医療院への移行を実現していますが、2021年12月時点でも介護療養型医療施設として運営している施設では、今なお判断を決めかねている状況が多く生じているわけです。

介護療養型医療施設は、寝たきりの方など要介護度の重い方が多く入居しています。直前になってから別の施設への移行の必要性が生じても、その転居は大変です。早めに入居者が対応できるようにするためにも、行政による移行促進策が必要といえます。

介護医療院への移行にあたっての最大の壁は「工事の必要性」

先述の昨年12月に行われた厚生労働省の調査によると、介護療養型医療施設に対して「移行すると仮定した場合の課題」について質問したところ(複数回答)、「移行するにあたり工事が必要である」(40.9%)が最多回答となりました。

介護医療院を開設する上で必要となる工事が、移行において大きな壁になっているわけです。

また、「利用者の生活の場となるようなケアの配慮が難しい」(25.0%)、「移行した場合、十分な数の介護職員を雇用できない」(23.5%)、「施設経営の見通しが立たない」「地域で医療機関としての機能を残すことにニーズがある」(どちらも21.2%)「介護医療院のイメージが湧かない」(16.7%)などの回答割合も高くなっています。

介護医療院の増加が想定より伸びず。介護療養型医療施設からの移行スピードはなぜ落ちた?
介護医療院に移行する場合の課題
出典:『令和2年介護サービス施設・事業所調査の概況』、『介護医療院におけるサービス提供実態等に関する調査研究事業結果概要』(厚生労働省)を基に作成 2022年07月21日更新

介護医療院への移行促進を図るためには、国・自治体による課題に応じた支援策を強化することが必要とも考えられます。

移行にあたって工事の実施が大きな壁となっているなら、移行に伴う助成金制度のさらなる強化と、制度の周知を図ることが有効策として考えられるでしょう。

また、福祉医療機構が昨年まとめた『介護医療院の開設状況および運営実態について』によると、調査対象32施設のうち、介護療養病床から移行した介護医療院の25施設(78.1%)が事業利益率を向上させたことがわかっています。

こうした成功モデルの周知を図ることも、移行促進につながるのではないでしょうか。

今回は介護療養型医療施設から介護医療院への移行速度が落ちている現状について考えてきました。2024年3月末まで介護療養型医療施設はゼロとなるのか、今後の動きにも注目が集まりそうです。

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