厚生労働省がオンライン服薬指導の新ルールについて意見を募集
オンライン服薬指導のパブリックコメントを広く募集
2022年7月14日、厚生労働省がオンライン服薬指導の新ルールを公表し、この内容についてパブリックコメントの募集を始めました。募集期間は8月12日までの約1か月間です。
新ルールとは、オンライン服薬指導を薬剤師の自宅などでも行えるようにする、というのが主な内容です。
オンライン服薬指導については、2019年に法令の改正が行われ、2020年9月から施行される予定でした。しかしその施行以前に、新型コロナウイルスの急速な感染拡大により、薬剤師が電話や情報通信機器を使った緊急の服薬指導行う必要性が生じました。
そこで特例措置として、2020年9月から正式に施行されるルールとは別のルールを持つ時限的・特例的ルールを4月10日施行。
これは別名「0410対応」とも呼ばれ、9月から施行されるはずだったルールよりも緩和された内容(例えば、もともとのルールでは初回の指導は対面が必要とされていましたが、0410対応では初回からオンラインで指導可能)になっています。
その後、コロナ禍がなかなか収まらない中で、時限的・特例的措置であった0410対応の内容を踏まえた新ルールが、今年の3月に施行されました。
ただ、2021年末に政府が策定した「当面の規制改革の実施事項」の中に、「早期に、オンライン服薬指導を薬剤師が自宅でも行えるよう検討すべき」との方針があり、それに従って今回、改めて新ルールが定められたのです。
なお、パブリックコメントとは、国の行政機関が政令や省令を定める際に、事前にその内容を公表し、国民から意見や情報を収集する制度のこと。
広く意見を募り、その内容を吟味することで、行政運営の公正さや透明性を確保しようとするのがその目的。2005年に法制化されています。
オンライン服薬指導とは?
オンライン服薬指導とは、通信機器を利用することにより、患者が薬の服用に関して自宅で薬剤師から指導を受けられるというサービスのことです。
従来の制度では、患者は医療機関で医師から処方箋を受けた場合、自ら薬局に行って薬を受けとり、そこで服薬に関する指導を受けるという規定でした。
しかし、オンライン服薬指導が制度化されたことで、処方箋を受け取った患者は薬局に行く必要がなくなります。
自宅でパソコンやスマートフォンなどの通信機器を使って薬局の薬剤師とコミュニケーションをとり、そこで服薬指導を受けることが可能となったのです。この場合、薬は薬局から患者宅に配送されます。
介護保険との関係でみると、服薬指導は「居宅療養管理指導」に該当します。
居宅療養管理指導とは、医師、薬剤師、歯科医師、歯科衛生士又は管理栄養士が、利用者の自宅を訪問して療養生活の質の向上を図る介護サービスです。ここには、薬剤師による服薬指導も含まれます。
2021年度の介護報酬改定により、薬剤師によるオンライン服薬指導が、居宅療養管理指導に対する評価の一つとして位置づけられ、介護報酬の対象となりました。指導1回につき45単位で、月1回まで算定可能です。
介護保険の居宅療養管理指導の受給者数は年々増えています。厚生労働省の「介護給付費等実態統計」によると、2010年当時は約25万人でしたが、2019年は約81万人まで増加しました。
出典:厚生労働省のデータを基に作成 2022年08月11日更新2020年からはコロナ禍がはじまり、今なお鎮静化が難しい中、オンライン服薬指導の重要性・ニーズは高まりつつあると考えられます。
メリットはあるものの、デメリットもあって普及はあまり進まず
オンライン服薬指導を導入するメリットは?
オンライン服薬指導を利用するメリットの1つが、自宅で療養しなければならない利用者の負担を減らせるという点です。
現在では医療面でもオンライン診察の導入が勧められ、診療と服薬指導の両方をオンライン化できれば、自宅に居ながらにして医師による診察~薬の処方までを行えます。
特に介護度の高い方・寝たきりの方の場合、家族介護者がつきっきりになることも多く、保険調剤薬局まで行くことが大変になることも多いです。
また、在宅医療の業務効率化を図れるという点も大きな利点です。
従来の制度では、在宅医療を受けているという利用者に対しては、服薬指導は薬剤師が直接利用者宅を訪問し、対面での指導が必要でした。オンライン服薬指導が可能となることで訪問の必要がなくなり、薬剤師の業務効率化を図ることができます。
さらに、薬局内での感染を防げることも大きなメリット。特に現在、新型コロナウイルスが猛威を振るっているため、外出することには一定の感染リスクを伴います。
オンライン服薬指導により、薬局に行く必要がなくなるため、感染のリスクをそれだけ減らすことができるわけです。
デメリットもあり、現状普及は進んでいない
便利な点が多いオンライン服薬指導ですが、デメリットもあります。最も大きな難点は、オンラインでのコミュニケーションでは限界があるという点です。
厚生労働省の研究事業で行われた全国の薬局を対象としたアンケート調査(回答数1万3,868、2020年11~12月実施)によれば、利用2回目以降の患者に対してオンライン服薬指導を実施している薬局の割合は39.3%でした(初回から行っていた薬局の割合は12.6%)。
つまり、オンライン服薬指導の経験がある薬局は、2020年時点で4割程度であるわけです。

では、実際にオンライン服薬指導を行った薬局ではスムーズに指導できたのでしょうか。
今回の調査によると、「対面と同等にできたか」という質問に対して、「対面と同等には難しかった」との回答は、初回から行った薬局では49.1%、2回目以降の利用において行った薬局でも42.0%に上っていました。
さらに同等にできなかった理由を尋ねたところ、「患者に情報が正確に伝えられたかの判断が難しい」との回答が、「初回から実施」「2回目以降の利用で実施」のどちらにおいても7割を超え、「患者の情報を得ることが困難」も約6割に達していました。
オンライン服薬指導における患者・利用者とのコミュニケーションが難しい実情が、これら調査結果から読み取れます。
オンライン服薬指導の今後のあり方とは
利用者側からみた利用したくない理由とは
栃木県が県民に対して行ったアンケート調査(回答数435、2021年7月30日~8月12日実施)によると、オンライン服薬指導を「利用したい」と回答した人の割合は7割以上いましたが、「利用したくない」との回答も約2割ありました。
そして、利用したくないと回答した人にその理由を尋ねると(複数回答)、「オンラインでなくても、病院や診療所の近くで薬をもらえばよいから」が56.7%で最多回答。「直接指導を受けたいから」(48.5%)、「セキュリティ上の不安があるから」(22.7%)などの回答も多くなっていました。

アンケート調査の結果をみると、オンライン服薬指導を利用したくない理由としては、無理に利用しなくても良い、との回答割合が多いです。オンライン服薬指導の便利さを理解することで、利用への意欲がより高まるとも考えられます。
オンライン服薬指導に対する今後の展望
オンライン服薬指導のあり方について考える場合、まずは直面している課題や懸念点の解消について検討する必要があるでしょう。
薬局を対象に行われたアンケートでは、オンラインではコミュニケーションが不足するとの回答・懸念が多く見られました。
そのため、今後さらに普及を進める上では、オンライン服薬指導を受けた利用者に薬剤師の意図がきちんと伝わったのか、後でチェックできるようなルール・体制づくりも必要なのではないでしょうか。
また、利用者側に対して、オンライン服薬指導のメリットを周知することが有効になると考えられます。さらに、セキュリティ面への不安を解消するための対策を十分に行い、安全性が高いことを訴えることも重要と言えるでしょう。
今回は、薬剤師がオンライン服薬指導を自宅に行えるようになる新ルール制定の話題をきっかけとして、オンライン服薬指導の実態と今後について考えてきました。
コロナ禍の波が繰り返し生じる中、オンライン服薬指導のルール作りにおいて国・厚生労働省がどのような動きを見せるのか、今後も注目を集めそうです。