複数の在宅サービスを組み合わせる形での新サービス

新サービスは2024年度に創設予定

2022年11月14日、2024年度の介護保険制度改正に向けて議論を進めている厚生労働省の社会保障審議会・介護保険部会の場で、新サービスを創設する案が提案され、了承されました。

その新サービスとは、複数の在宅サービスを組み合わせて提供可能とするもので、例えば、デイサービス事業所が訪問介護を提供したり、デイサービス事業所と訪問介護事業所が連携してサービス提供したりする形態になる見込みです。

介護保険サービスに新サービスが追加されるのは、2010年以来12年振りのこと。

2024年度の制度改正・介護報酬の改定において、最大の注目ポイントの一つとなるのは間違いありません。

介護報酬の単位数や新サービスの具体的な内容については、2023年中に取り決めを進めるとしています。

また、今回の次期改定に向けた介護保険サービスに関する議論の中では、「看護小規模多機能型居宅介護」のサービスを、現行の「地域密着型サービス」から在宅療養者を広く支える「居宅サービス」にも位置づける案も検討されています。

次期改定では介護サービスに大きな変化が生じる予定で、介護関係者からの注目度も高まっています。

複数の在宅サービスを組み合わせる意味とは?

在宅サービスを複数組み合わせるというとき、主に想定されているのは利用者が特に多い「訪問介護」と「通所介護(デイサービス)」です。

訪問介護事業所が通所介護を、通所介護事業所が訪問介護も提供できるようになれば、各事業所が保有する介護資源(人材、設備、ノウハウなど)をより有効に活用できます。

現行制度では、訪問介護事業所は訪問介護、通所介護事業所は通所介護にのみ取り組むのが基本です。この場合、訪問介護事業所に地域内でも指折りの優秀な介護人材がいたとしても、提供できるのは訪問介護のみ。他の介護サービスの現場では作業を行えません。

しかし、今回議論されている新制度の導入により、事業所の枠を超えて、訪問介護から通所介護へと横断的な人材活用が可能となるわけです。

訪問介護、通所介護ともにニーズは高いです。厚生労働省のデータによると、利用者1人あたりの利用回数(1ヶ月あたり)は、訪問介護では2015年で18.4回、2020年は20.1回、通所介護では2015年で8.7回、2020年で9.4回となっています。

通所介護と訪問介護の複合型の新たな介護サービスが登場⁉202...の画像はこちら >>
出典:『介護保険事業状況報告』(厚生労働省)を基に作成 2022年12月22日更新

高齢化が進み、要介護認定者が増えている中、訪問介護と通所介護は一人ひとりの要介護者の利用頻度が高まりつつあり、地域内における効率的なサービス提供体制が求められているといえます。

新たなサービス形態の必要性が生じた背景

背景にある人材不足という要因

提案・了承された新サービス創設の目的は、地域内にある介護資源の有効活用にありますが、そこで想定されている「資源」として最も重要視されているのが「人材」です。

高齢化が進展し、ケアを必要とする高齢者が増えつつある現在、介護業界では介護人材の不足が顕著になりつつあります。

厚生労働省は2022年7月9日、各都道府県が推算した介護職員の必要数の合計値を公表しています。

それによると、介護人材の数は2019年の時点で約211万人。これを基準とすると、2023年度ではプラス22万人、2025年度にはプラス32万人、2040年度にはプラス69万人が必要になると試算されています。

通所介護と訪問介護の複合型の新たな介護サービスが登場⁉2024年度にも創設予定
将来的に必要となる介護人材数
出典:厚生労働省のホームページを基に作成 2022年12月22日更新

少子化が進み、現役世代の人口数が減りつつある中、新規の介護人材を新卒者・転職者の確保を通して増やしていくことに加えて、既存人材の有効活用という視点も必要になっているのが実情といえます。

現場からの声としての区分支給限度額、人員配置基準の問題

厚生労働省は今回の新サービス創設にあたり、参考資料として現場からの声を取り上げています。紹介されているのは奈良県大和郡山市千葉県市川市の事業所です。

大和郡山市の事業所からの声として、通所介護と訪問介護など複数の在宅サービスを併用している利用者の場合、すぐに区分支給限度額を超えてしまうとの意見が紹介されています。

区分支給限度額とは、要介護認定の段階に応じて定められている、1ヶ月あたりに支給される介護費用の限度額のことです。限度額を超えて介護保険サービスを利用すると保険適用はされなくなり、10割負担となってしまいます。

介護度が上がるほど支給限度額は高額にはなるものの、それ以上に訪問介護・通所介護の利用回数も増えてくるため、限度額を超過してしまうケースもあるわけです。

一方、千葉県市川市の事業所からは、通所介護において利用者が帰宅後、一部職員が待機して時間を有効に活用できていないとの報告があり、この時間に時間の空いた職員を訪問介護などに回すなど検討したいが、現行制度では難しいとの声が紹介されています。

現行制度では通所介護と訪問介護では人員配置基準の取り決めが異なるためサービス提供は行えません。

市川市の事業所は、この点をもどかしく感じているわけです。

厚生労働省側としては、これら現場から指摘されている課題・意見に対し、新サービスの導入により解決を図ろうという考えです。

具体的な新サービスの料金設定や人員配置基準は今後取り決めていくとしていますが、上記の問題を解決できるような内容になると考えられます。

新サービス導入によるメリットと課題

利用者のサービス利用の選択肢の幅が広がる

介護人材数が限られている現状、各サービスの人材配置基準を緩和できれば、時間の空いた職員を別の在宅サービスに充てることができます。これが実現できれば、地域内の介護人材の有効活用につながるのは間違いありません。

特に規模の大きな法人の場合、保有する介護資源・人材は豊富なので、有効活用により得られる恩恵は事業者側、利用者側ともに大きいといえます。

また、利用者のサービス利用の選択肢の幅が広がる点もメリットです。訪問介護、通所介護を頻繁に利用する人にとっては、区分支給限度額基準をオーバーせずに利用できるようになれば、介護費用の負担を減らせます。

介護度が低めの間は訪問介護、通所介護の利用頻度も少なめなので、それぞれ必要に応じて単体で利用した方がニーズに合うことは考えられます。

しかし、介護度が上昇して訪問介護・通所介護の利用回数が増えてくると、そのままでは区分支給限度額をオーバーするケースも生じるでしょう。

その際、新サービスを活用することで、介護度が軽度から重度へと移行した後も、区分限度額を超過しない形でのサービス利用が可能になるわけです。

課題は現場の介護職員における負担感と報酬体系

一方で新サービスには課題もあります。介護人材の「有効活用」とは、介護人材に効率的にさらにたくさん働いてもらうことを意味します。

そして最も重要なことは、たくさん働いた分の報酬が確保されるのかという点です。

公益財団法人介護労働安定センターが発表した「令和3年度介護労働実態調査」によれば、「労働条件等の悩み、不安、不備等」を介護職に尋ねたところ(n=19,925、複数回答)、「人手が足りない」(52.3%)、「仕事のわりに賃金が低い」が(38.3%)などの回答が目立っていました。

通所介護と訪問介護の複合型の新たな介護サービスが登場⁉2024年度にも創設予定
介護職が感じる労働条件等の悩み、不安、不満等(複数回答)
出典:『令和3年度介護労働実態調査』(公益財団法人 介護労働安定センター)を基に作成 2022年12月22日更新

この調査結果からは、現状でもすでに介護現場の負担感が大きいことが読み取れます。

特に中小の事業所の場合、有効活用すべき「手の空いた職員」がそもそもいないことも考えられ、今回の新サービスは大規模事業所が特に恩恵を受けられる制度改正と言えるでしょう。

中小事業所が無理に導入すると、職員の負担増に直結する恐れがあります。また、ケアマネも新サービスに対応する必要があるので、業務負担増になると予想されます。

さらに新サービス導入により業務負担が増えた場合、それに応じた報酬アップが約束されなければ、介護離職増に直結します。報酬体系の見直しも合わせて必要となるでしょう。

今回は、次期保険制度改正に向けて決定された新サービスについて考えてきました。

現状で考えられる新サービスのメリット、デメリットを踏まえ、具体的に新サービスの内容、報酬体系はどうなるのか、引き続き注目を集めそうです。

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