ケアマネージャーが処遇に不満を抱える理由

ケアマネージャーの77%は賃金が見合ってないと回答

2024年度の介護報酬改定に向けて、厚労省内で議論が交わされるなか、介護関連団体からの要望も高まっています。

特に人材不足が深刻なケアマネージャーについては、かねてより待遇改善を訴える声が多く挙がっていました。

日本介護支援専門員協会の調査によると、ケアマネージャーの77%が「賃金が業務に見合っていない」と回答していることが明らかになっています。

ケアマネージャーの賃金は、さまざまな団体によって調査されていますが、おおむね年収350~400万円程度。一方、常勤専従※のケアマネージャーに見合う年収額を尋ねたところ、450万円以上が45.7%で最多。つまり、ケアマネージャーの実感として、最低でも50万円以上は賃金が足りていないことになります。

※一つの職種に従事、事業所が定める所定労働時間に達している状態

採用も困難になっている

同協会の調査によれば、ケアマネージャーの採用が困難になっていることも明らかになっています。

その特徴は、新人ケアマネージャーを統括するなどのまとめ役として期待される主任ケアマネージャーで顕著となっています。

主任ケアマネージャーを採用するのが困難になっているかどうかを尋ねたところ、68.1%が採用が困難になっていると回答。さらに過去の採用状況と比較すると、78.3%にまで増加します。

困難になっている理由として挙げられているのは「主任ケアマネージャーは困難な業務だと見なされ敬遠されている」「介護業界での人材獲得競争が激しい」などが挙げられています。

なお、主任ケアマネージャーが退職後にまったく異なる職種に転職するのは5.9%。多くは他の事業所や資格を活かした業種に転職しています。

ケアマネージャーの賃上げ問題とは

処遇改善加算がない

こうした現状を受けて、ケアマネージャーについても処遇改善加算を認めるべきではないかという議論が巻き起こっています。

現在、介護職員には3つの処遇改善加算が設けられていますが、ケアマネージャーはその対象に含まれていません。

報酬アップのためには、特定事業所加算やターミナルケア加算などを算定する必要がありますが、これらはあくまで事業所に対する報酬です。介護職員に対する処遇改善加算のように、必ずしも給与面に反映されるわけではありません。

そのうえ、こうした加算は厳しい要件が設けられているため、算定率は決して高くはありません。

例えば、特定事業所加算には加算Ⅰ~Ⅲのほか、よりハードルの低い加算Aが設けられていますが、最も算定率が高い加算Ⅱでも25.6%。要件が厳しい加算Ⅰはわずか1.3%にとどまっています。(三菱総合研究所『居宅介護支援および介護予防支援における令和3年度介護報酬改定の影響に関する調査研究事業』より)

これらの理由から、多くのケアマネージャーは加算の恩恵を受けられていないと考えられます。

そのため、ケアマネージャーの賃金は制度の壁に阻まれ、据え置かれてきたとも言えるでしょう。

ケアマネージャーの賃金が上がらない理由

ケアマネージャーの賃金が見合っていないと考えられていますが、国としてはまず介護職員の増加が念頭にあるため、ケアマネージャーの処遇改善は後回しにされている印象があります。

というのも、ケアマネージャーは介護福祉士の上位資格という意味合いが強く、まずは介護職員から介護福祉士、そしてケアマネージャーという順序でキャリアアップしていくことを考えると、裾野である介護職員を優先すべきだと考えたほうが合理的です。

一方で、ケアマネージャーの賃金は、一般的に介護職員よりも高い傾向にあります。『令和4年度介護従事者処遇状況等調査』によると、常勤のケアマネージャーの平均月収は37万6,240円、介護職員は31万8,230円で、約6万円の開きがあります。

そのため、政府や自治体としては、限られた予算からまず介護職員から手厚くして業界全体の人員を増やしたい狙いがあると考えられます。

ケアマネージャーは優遇されるべきか

ケアマネージャーの業務負担は増加傾向

ケアマネージャーの業務はケアプランを作成するだけではありません。ほかにも月1回の利用者モニタリング、介護報酬にかかわる事務作業といった基本業務に加え、近年はケアマネジメントの質の向上や医療機関との橋渡し役としての業務も求められるようになっています。

厚生労働省の報告によると、居宅介護支援事業所において1事業所当たりのケアマネの人数は常勤で2.8人、非常勤で0.2人となっています。また、各事業所にその配置状況(実人員)を尋ねると、「1人」と回答した割合は22.6%で最も多く、次いで「2人」が21.9%となっています。

4割以上の事業所で1~2人のケアマネしかいないことになります。

一方、居宅介護支援事業所の1事業所当たり利用者数は95.0人(要介護80.8人、要支援14.2人)。厚生労働省の概算では、ケアマネ1人当たりの担当者数は31.8人(要介護26.9人、要支援4.9人)にも上ります。

また、近年はヤングケアラー支援など、制度横断的な包括ケアの実施が求められるようになっており、今後ますますケアマネージャーの負担は増加すると考えられます。

そのため、ケアマネージャーに関する議論の多くは「いかに業務負担を減らすか」「どの分野で活躍してもらうか」というものに偏る傾向があります。

年齢に見合った報酬が必要か

確かに介護職員を優先的に確保しようとする国の方針は大きく間違ってはいません。

しかし、処遇改善が介護職員だけに偏ることによる不公平感はぬぐえません。

また、ケアマネージャーの平均年齢は約51歳にまで上昇しており、年収400万程度は年齢に見合っているとは言えません。

日本介護支援専門員協会の推計によれば、全産業における50~54歳の収入は約462万4,700円。これは主任ケアマネージャーなどが求めている金額とほぼ合致しています。

こうした問題をクリアするためには、せめてキャリア形成や負担する業務に応じて賃金がアップするような仕組みを設けて、適切に給与に反映されるような制度が必要ではないでしょうか。