連載「20代から好かれる上司・嫌われる上司」 Vol.4
組織と人事の専門家である曽和利光さんが、アラフォー世代の仕事の悩みについて、同世代だからこその“寄り添った指南”をしていく連載シリーズ。好評だった「職場の20代がわからない」の続編となる今回は、20代の等身大の意識を重視しつつ、職場で求められる成果を出させるために何が大切か、「好かれる上司=成果がでる上司」のマネジメントの極意をお伝えいたします。

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「上司は部下の私生活を知れ」は真理だが

よく「上司は部下のプライベートに関してまである程度は理解をしておかねばならない」と言われます。例えば、会社員がメンタルヘルスの問題を起こす原因は、主に職場や仕事上のストレスにあると思われがちです。

しかし、私が関わった会社では、職場や仕事などよりもプライベート上の理由のほうが多いケースが多くありました。部下が何か悶々としているとき、家族の問題や失恋、身体的な病気など、オフィス外のことが理由であるときも多いのです。

そう考えると、部下が気持ち良く働けるためには、彼らの私生活についても認識しておくべきだというのはある程度真理でしょう。


上司がいたら、そこは「職場」

そういう考えを背景としてか、善良な上司たちの中には「部下のプライベートを知らねば」と、休日にBBQや釣りやゴルフなどに誘う人も多い。休日を一緒に過ごすことで、いろいろとオフィス外の部下の姿が見られるのではないか、ということです。

しかし、それはたいていの場合見当違いです。

というのも、オフィスの中であろうが、キャンプ場であろうが、上司がいたら、そこは実質的に「職場」なのです。よく上司は「ここからは無礼講だ」「今日はオフだから」と言いますが、そう言えば本当にオフになるわけではありません。オフになれば上司はそこで部下がしたことを忘れる。そんなわけがないからです。


オフのことを安易に話題にするな

まれに、本当にオンとオフを厳密に分けられる上司もいます。オフでは会社での役職も忘れ、ひとりの人として部下の前で振る舞う。釣りバカ日誌の社長のスーさんのような人です。

そういう人はオンのときにはオフの場であったことを一切口にしません。別人格になっていると言ってもよいでしょう。

「あの人は、オフのときにあったことを仕事に持ち込まない」「プライベートの秘密をしっかりと守ってくれる」と部下に思われるなら、初めて部下とオフを過ごす資格ができます。しかし、ほとんどの上司はオンの場で「おー、昨日のBBQは楽しかったなあ。あの彼女とは結婚するのか」とかデリカシーのないことを言ってしまいます。

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上司がいなくなれば「オフ」になる

むしろ、部下の大事なオフの場に踏み込まないほうが重要です。上述のように踏み込んだところでそこはもうオフの場ではないのですから。

オフのはずの場に上司がやってきたら、「あーあ、せっかくリラックスできると思っていたのに台無しだ」とすら思うかもしれません。

休みの日だけでなく、上司は「できるだけ早く立ち去る」のが良いでしょう。会社のカラオケの二次会にもなるべく行ってはいけません。

上司がいなくなれば、その集団のフォーマル度合いが減って、インフォーマルな「オフ感」が出てきます。そうすると、公的な場では言いにくい話を同じような目線の同僚たちと話し合う機会が増えるわけです。


プライベートは部下が話すまで待つ

では、どうやって上司は部下のプライベートを知れば良いのでしょうか。それは単純な結論ですが、直接部下から聞けばいいだけです。

ただ、こちらから質問してはいけません。物理的にも心理的にも、通常時には部下は別に上司にプライベートの領域に入ってきてほしくはないのです。ですから、相手が自分のプライベートを話したくなるまで根気強く待つのです。

むしろ、知るべきプライベートとは「相手が話したいプライベート」だけと言っても良いでしょう。私的なことだが仕事に影響があるので考慮してほしいもの「だけ」を知ってほしいというのが本音でしょう。だから、相手が話すのを待てばよいのです。


上司から「身の上話」をする

しかし、若い部下であっても世間で「公私混同はいけない」と言われ続けているため、プライベートなことを公の上司に言うのは憚られることも多いと思われます。

そこで上司は部下がプライベートを言いたいときに言える雰囲気づくりをしなければなりません。

ひとつの方法は上司の自分の身の上話をオープンに話すことでしょう。自分の生い立ち、体調、家庭の状況、趣味、休みの日の過ごし方、などなど。自慢話にならないように、煙たがられない程度の量で、小出しに日々自分のプライベートをさらすのです。

人は相手にペースを合わせる特性があります。相手が裸になっていれば、自分も裸になりやすいということです。

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「秘密厳守」の上司に情報が集まる

そうして部下が自分から身の上話をしてくれるようになればしめたものです。マネジメント上で考慮すべきプライベート情報を知ることができ、適切なメンバーマネジメントが可能となります。

しかし、落とし穴があります。人はなかなか秘密を守れません。

「あいつ実はプライベートでこういう大変なことがあるんだよな」と、ほかの部下や上司や人事、経営者などに言ってしまってはせっかく得た信頼も丸つぶれです。

たとえ「これは共有しておいてあげたほうがいいと思って」と動機が善だとしてもNGです。人に口に戸は立てられず、秘密だったはずのプライベートが同僚から本人の耳に届いてしまえば最悪です。


「理由」がなくても動いてもらえる信頼を得よ

部下の私的な事情を考慮してマネジメントを行うのに、そのプライベート情報自体を共有することは必要ありません。単に、部下がしてもらえるとうれしいサポートをただ行えば良いのです。

子供の病気の介護で残業ができない部下がいたら、「すまんが、いろいろあって直近あいつにはこれ以上仕事を振らないでやってくれ」と周囲に配慮してもらえばいい。

ただ、そこで必要なのが上司自身の周囲からの信頼です。その上司の指示なら、理由も聞かずに粛々とやってくれる人がどれだけいるかということです。

信頼があればこそ、部下の秘密を明かすことなく部下をサポートできる。そんな上司を目指したいものです。

曽和利光=文
株式会社 人材研究所(Talented People Laboratory Inc.)代表取締役社長
1995年 京都大学教育学部心理学科卒業後、株式会社リクルートに入社し人事部に配属。以後人事コンサルタント、人事部採用グループゼネラルマネジャーなどを経験。その後ライフネット生命保険株式会社、株式会社オープンハウスの人事部門責任者を経て、2011年に同社を設立。組織人事コンサルティング、採用アウトソーシング、人材紹介・ヘッドハンティング、組織開発など、採用を中核に企業全体の組織運営におけるコンサルティング業務を行っている。

石井あかね=イラスト