多くの企業では、在宅でのリモートワークを取り入れている。だが、プライベートな空間である自宅での勤務は、当然、会社で仕事をするのと勝手が違う。

同じ感覚で部下と接すると、その気はなくともハラスメントと言われてしまうかもしれない。

そこで、リモートワークで注意すべきハラスメントについて、企業法務や労働事件を手掛ける弁護士の寺田正主さんに話を聞いた。

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弁護士・寺田正主さん
石川・寺田綜合法律事務所所属。大手アパレル会社勤務を経て明治学院大学法科大学院に進学し、平成20年に司法試験に合格。現在は第一東京弁護士会に所属し、企業法務全般および使用者側労働事件、家事事件を多く手掛ける。ズバッと言い切る語り口のおかげか、『実録!犯罪列島』シリーズ(TBS系)を中心にテレビ出演も多数。

――仕事する環境が自宅に変わり、まだ慣れないことも多くて……。ハラスメント関係で注意するべきことってありますか?

寺田 今回のようなコロナ対策としての在宅勤務は、労働者の安全を守るための措置であると同時に、感染拡大を防ぐという公益のために実施しているものでもあります。在宅勤務というのは、文字どおり勤務地が自宅というだけですから、勤務時間中はこれまでと同じく会社の指揮命令下にあることになります。ですが、自宅は本来プライベートな空間。それを仕事場にするので環境的には明らかに異なりますね。

――そうなんですよね。

うっかりプライバシーに踏み込んで、部下に“リモハラ”と言われないか心配です……。

寺田 リモハラとは初めて聞きました(笑)。そうですね。リモートワークにまつわるハラスメントについては、通常の勤務との環境的な差異を念頭に置きつつ、柔軟に考えていくことが大事です。

Web会議で顔出し必須はNG? 在宅ワークに潜むハラスメント、弁護士の見解

――では、具体的な質問に入ります。まずはリモートワークで一気に増えたオンライン会議について!


①オンライン会議で顔出しを必須にしても問題ない?

寺田 顔出しを求めること自体は、ハラスメントには当たらないですね。会議においては、表情やジェスチャーも要素のひとつですから、顔を映す必要性は肯定できると思います。

――確かに会議ってお互いの顔を見ながらするのが普通ですもんね。そういえば、部下に自宅の様子を映したくないから背景変えても良いですかって聞かれたんですけど……。

寺田 背景を変えることを禁止するのはやめた方がいいでしょう。会議で自宅の様子まで映す必要はありませんから、万一映すことを強制したら、何かしらのハラスメントになる可能性はあります。オンライン会議の場合、顔出し自体が重要でなく、あくまで通常の会議と同様に開催することが大事と考えてください。通常の会議に不要な要求はしないというスタンスでいた方がいいでしょう。


②在宅勤務でスーツ着用を義務化しても大丈夫?

寺田 業務上スーツ着用を義務化する必要があれば、ハラスメントにはなりません。ただ、そこを過剰に要求すると合理性を疑われてしまうので、あくまでケースバイケースで考えるべきだと思います。事務作業をしているときや、同僚同士でオンライン会議をする場合などであれば多少ラフな服装でもいいでしょう。ただ、取引先との会議では、服装にはそれなりの配慮が必要です。在宅勤務の服装については、ある程度社内で規律を設けておくといいかもしれません。

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――在宅勤務では、部下とスケジュールをオンラインで共有することも多いと思います。そこで、


③部下に詳細な予定の共有を求めてもいいもの?

寺田 最初にお話ししたように、勤務時間中は会社の指揮命令下にいます。

部下がどんな仕事をしているか把握することも上司の大事な務め。スケジュールの共有を求めることは、当然ハラスメントには当たりません。ただ、これも程度問題で、ランチの時間やコンビニへの買い出しの予定まで共有しろと強制したら、ハラスメントになる可能性がありますけどね。

――やりすぎず常識的な範囲で、ということですね。

寺田 そうです、監視になってはいけません。もちろん勤務時間外はプライベートですから、予定を共有する必要もないでしょう。

とはいえ、コロナが原因での在宅勤務は、人との接触を避ける感染予防を目的としたものですから、リスクの高い行動については会社が一定の制約を設けることも必要です。そういう意味では、上司が部下のプライベートを把握することも、すべて否定はできないと思います。会社が合理的な禁止事項や注意事項を定めた上で、申告を要する事柄を設けるのが良いですね。基本的には自治体等と同レベルの要請に留めるべきですが、その“要請”を上司が行うと、実質的に“強制”と捉えられる場合もあります。

――「自粛要請」の程度も物議を醸しています。

寺田 外出の頻度や方法まで指図するのは部下の生活への干渉となり、会社が関与する範囲を超えてしまいます。部下の安全を守るのも上司の務めではありますが、くれぐれも行き過ぎないように注意してください。

――気を付けます!

寺田 もちろん何もかも干渉してはいけないというわけではありません。部下の家族の健康状態など、会社のリスク管理として必要な範囲なら問題はないでしょう。ただ、在宅勤務では電話やメール、オンライン会議などどうしてもコミュニケーションの手段が限定されてしまうものです。直接会って話していないから、自分の意図がきちんと伝わらない可能性もありますので、普段以上に言動に気を付けた方がいいでしょうね。

――離れているからこそコミュニケーションは丁寧に、ですね。この状況が早く終息することを願いつつ、参考にします。ありがとうございました!

 

岡本卓大=写真 小山田滝音=文