37.5歳、”性”と向き合う(セックスレス編)Vol.1
「どうにかしなければ……」「いや、もう諦めよう」と考え方はそれぞれあるだろうが、“レス”への心的プレッシャーがかかるのは、みな同じ。だが、本当にセックスレスは“悪”なのか? 次のステージに足を踏み入れた、夫婦の性生活を見つめる短期連載1回目。

「妻と最後にしたのは、いつだったろうか」。結婚生活の長い夫婦なら、妻との性生活が“途絶えている”状況も珍しくない。体の衰え、精力減退はもちろん、「妻に対して興奮しなくなった」という本音もあるだろう。

セックスレスは、一般的に夫婦の危機や課題など、“ネガティブ”な意味合いで伝えられる。時には夫婦の軋轢を生む一因とさえされる。もし、その状況を生んでいる原因が夫である自分なら、やはり責任を感じるべきなのだろうか。


半数以上の夫婦は、セックスレス。年齢を重ねるほど夫婦生活は失われる

そもそも、どれだけ性生活が途絶えれば「セックスレス」というのだろうか。その定義について、臨床心理士の山名裕子氏は「日本性科学会では、出張や病気といった特別な理由を除いて、『1カ月に一度もセクシャルコンタクトがない状態』をセックスレスと定義しています」と説明する。

セックスレスは“悪”なのか。40代夫婦のリアルな性生活を考え...の画像はこちら >>

セクシャルコンタクトとは、セックスそのものだけでなく、オーラルセックスやキス、お互いが裸でベッドに入ることなども含まれる。定義としては、イメージより幅広い。

ただ、どちらにせよ日本の夫婦のセックスレスは深刻だ。

日本家族計画協会の「男女の生活と意識に関する調査(2016年)」によると、婚姻関係にあるカップルのセックスレスの割合は、47.2%。およそ半数に達している。

これは16~49歳の男女を対象とした調査だが、当然、年齢が上がるほどセックスレスの割合も高まることは想像がつく。山名氏は、「セックスレスに関する統計は多数ありますが、おおむね30代で50%弱、40代になると60%弱ほどに上がります」という。

数値で見ると、改めてわかるセックスレスの多さ。ただし、「その状況がすべて“悪”ではない」と山名氏は話す。

「セクシャルコンタクトが全くない状況でも、夫婦ともにそれで満足していれば問題はありません。『セックスレス=すべて悪』ではなく、性生活がないことで、どちらかが不安や不満を感じている場合のみ、夫婦間の課題になるといえます」(山名氏、以下同)。


同じ女性に対して興奮しなくなるのは、自然の摂理

セックスレスは“悪”なのか。40代夫婦のリアルな性生活を考える

お互いがその状況に満足していれば、セックスレスは問題にならない。一方、男性が苦悩するシーンとして考えられるのは、「妻が望んでいる」ケースだ。男性は年齢を重ねるなかで精力が減退するが、女性はよく「30代後半~40代で性欲が増す」といわれる。もし本当なら、30代後半の今は夫婦とも落ち着いていても、次第に妻が求めてくる可能性もある。

「生物学的に、女性は年齢を重ねるごとに性欲が増すものです。

結婚して子供が生まれた時は、出産によるホルモンバランスの変化や子育ての忙しさで性生活に気が向かない女性も多いですが、それがひと段落した頃にスイッチが入る方は多いですね」。

実際、セックスレスに悩んで山名氏のもとを訪れるのは、子育てが落ち着いた女性に多いという。

対する男性はどうか。体力・精力の減退は予想できるし、正直に言えば「もう妻に興奮しなくなった」という人もいるはずだ。

「男性は、40代あたりから体力と性欲が顕著に減退します。女性とは対称的な曲線ですね。

それ以上に、おっしゃる通り『妻に興奮しない』という人が増えてきます。これは心理的に見ても仕方のない現象で、同じ女性に対して次第に性的な興奮が低下するのは自然なことです」。


“レス”に責任を感じなくていい。しかしセックスにはメリットも

セックスレスは“悪”なのか。40代夫婦のリアルな性生活を考える

30代後半の男性にとって、妻とのセックスのハードルが高くなるのは、むしろ避けられないことだろう。であれば今後、40代以降における夫婦間でのセックスをどう考えるべきなのか。

「大切な認識として、一般的にセックスは年齢とともに無くなっていくものです。

それは生物学的にも心理学的にも説明がつきますし、むしろ当然のこと。基本的に『好き』という感情は『愛情』になり、次第に『情』へと変化しますから。セックスレスであることを『悪』だと考えたり、変にプレッシャーを感じたりする必要はありません」。

世の中には「夫婦間のセックスがなければいけない」と考える人は多い。だが、「そこにあまり執着する必要はない」と山名氏。むしろ罪悪感からくるプレッシャーで、男性が過度に「しなければいけない」と思うと、「いざという時に勃起不全になるなど、より悪い結果につながります」と付け加える。

統計から考えても、40代のセックスレスは半数を超えるのだから、むしろセックスレスになるのは一般的ともいえる。男性たちは、肩の荷を下ろして良いのかもしれない。

「ただし、夫婦間でのセックスがさまざまなメリットを生むことも事実です。夫婦関係の良化だけでなく、子育てへの影響も無視できないでしょう。さらに、良好な夫婦関係を築くことができれば、飲み会やお金の使い方などにおいて、『妻の許す範囲』が広くなる可能性もありますよ」。

40代からの性生活。頭ごなしに、夫婦のセックスレスを「悪」と捉える必要はない。無理はしなくて良いのだ。ただ、セックスがもたらす“効果”もある。むしろそれを知れば、義務ではない、お互いが望むセックスが生まれるかもしれない。

次回、セックスが夫婦にもたらすメリットを聞きながら、「セックスレスとの向き合い方」を考える。

有井太郎=取材・文

【Profile】
山名裕子
1986年5月7日、静岡県生まれ。臨床心理士。「やまな mental care office」を東京青山に開設。心の専門家としてストレスケアからビジネス、恋愛などあらゆる悩みへのカウンセリングを行っている。まだカウンセリングに対する偏見の多い日本で、その大切さを伝えるためにメディア出演や講演会活動を行う。日本テレビ「ナカイの窓」では心理分析集団「ココロジスト」を務める。新書に『読むと心がラクになる めんどくさい女子の説明書』(サンマーク出版)がある。