「中古以上・旧車未満な車図鑑」とは……


vol.16:「ラシーン」
日産、1994年~

「Be-1」、「パオ」、「フィガロ」と続いた日産の大人気を誇ったパイクカーシリーズの、夢の続きか!? と思わせたのが「ラシーン」だ。

登場したのは1994年、フィガロ生産終了から2年後のことだ。

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しかし、パイクカー三部作が「マーチ」をベースに開発され、いずれも台数や期間限定で販売されたのとは異なり、「ラシーン」は「サニー」がベースであり、しかも限定車ではなく量産車として開発されたモデルだった。

当時は「SUV」という言葉がなく、トヨタ「ランドクルーザー」など本格的な4WD車は「クロカン4WD(クロスカントリー4WD)」と呼ばれ、クロカン4WDとミニバンを含めて「RV(レクリエーショナル・ビークル)」とカテゴライズされていた時代。

その中で「アウトドアだけでなく、街乗りにも使いやすい4WD車」という、新しい市場にいち早く参入したのがスズキ「エスクード」で、続いてトヨタ「RAV4」、そして日産が「ラシーン」で追従する格好になった。


最注目される独自のスタイル

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ただし「RAV4」や「エスクード」が、いかにもクロカン4WD風デザインであったのに対し、「ラシーン」は全高を1450~1515mmに抑え、ボクシーでコンパクトなワゴン風スタイルが採用され、新カテゴリーの中でもさらに異彩を放った。

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クロカン4WDでも、ステーションワゴンでもないこの個性的なフォルムに惹かれた人は多かったのだが、同じく1994年にホンダが初代「オデッセイ」を、1996年にやはりホンダが初代「ステップワゴン」を開発すると、一時は王者トヨタを慌てさせるほど売れた。ミニバン全盛期が到来したのだ。

そのため「クロカン4WDでも、ステーションワゴンでもない」当時としてはカテゴライズしにくい「ラシーン」に光が当たりにくくなっていった。

追い打ちをかけるように日産は経営危機に陥り、「ラシーン」の登場から5年後の1999年にルノーと資本提携を結ぶ。売れ筋の「広々室内」のないラシーンは車種整理の対象となり、残念ながら姿を消すことになった。

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ところが、登場から四半世紀、生産終了から約20年が経った今、ラシーン専門店までできるほど中古車市場では「ラシーン」は人気車種として復活している。

その理由は、やはり「ほかにないボクシーなスタイル」「街乗りにちょうどいいサイズ感」「スキー場や砂浜でスタックの心配がない」こと。つまり開発当時のコンセプトが20年以上経った今の時代にもピッタリはまったのだ。

搭載されていたエンジンは当初1.5Lで、5速MTか4速ATが組み合わされた。

フルタイム4WDが標準装備され、本格派SUVの悪路走破性には劣るものの、ちょっとした雪道や砂地なら安心して走れる。また最低地上高も170mmと、ベースの「サニー」をはじめ普通のセダンやワゴンよりも高いので、ダートの林道なども走破しやすい。

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上下分割式のリアゲートも使い勝手がいい。「タイプII」と「タイプIII」のグレードはリアゲートにスペアタイヤを備えるが、上部はスペアタイアに干渉されずに開閉ができる。

しかもルーフ部分までガバッと大きく開くので、荷物を載せやすく、取りやすい。このように普通にアウトドアを楽しむには十分な機能を備えていた。

エクステリアだけでなく、インテリアデザインも直線的&平面的で、かなりシンプル。これもまた時代を超えて支持を得られた理由のひとつだろう。しかも、中古車として考えれば高値だが、それでも100万円前後で買える。

時代の波に翻弄されたが、波が収まってみれば光り輝く1台として、再発見された「ラシーン」。程度の良い中古車をじっくりと探してみる価値ある車だろう。

「中古以上・旧車未満な車図鑑」とは……
“今”を手軽に楽しむのが中古。

“昔”を慈しむのが旧車だとしたら、これらの車はちょうどその間。好景気に沸き、グローバル化もまだ先の1980~’90年代、自動車メーカーは今よりもそれぞれの信念に邁進していた。その頃に作られた車は、今でも立派に使えて、しかも慈しみを覚える名車が数多くあるのだ。上に戻る

籠島康弘=文