「看板娘という名の愉悦」とは……

「いつか自分のお店を出したい」。心のどこかでそんな思いを持っている人もいるだろう。

ネックは開業資金だが、これを手軽に実現できる方法がある。“間借り営業”というスタイルだ。

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駅から歩くこと2、3分で目指すお店に着いた。

東高円寺の音楽バーで、看板娘が“間借り”という形態でカレー愛を追求していた
「ミュージックバー 音海(おんかい)」。

店内を覗くと看板娘の姿。

東高円寺の音楽バーで、看板娘が“間借り”という形態でカレー愛を追求していた
さて、彼女は何の“間借り営業”なのだろうか。

正解はカレー。カレー好きが高じて、半年ほど前から月に1回、この店で間借りカレー「TOMCAT spicelab」を営んでいるのだ。

東高円寺の音楽バーで、看板娘が“間借り”という形態でカレー愛を追求していた
ドリンクやデザートはすべてスパイス入りで、メニューは毎月変わるという。

ドリンクは「パインビネガーソーダ」(550円)、フードは「2種のカレープレート」(1200円)にしましょう。トッピングで「スパイスからあげ」(150円)も付けてください。


看板娘、登場

東高円寺の音楽バーで、看板娘が“間借り”という形態でカレー愛を追求していた
「お待たせしました〜」。

こちらは優紀さん(35歳)。店では「ゆきにゃん」という愛称で親しまれている。すべてのドリンクにスパイスが入っているそうだ。

東高円寺の音楽バーで、看板娘が“間借り”という形態でカレー愛を追求していた
左からぶどう、パイン、プラムのスパイスビネガー。

「牛乳で割ってヨーグルト風にするのもオススメです。

本当はアルコールで割ってサワーで飲みたいんですが……(笑)」。

そして、カレーは想像をはるかに上回るクオリティだった。

東高円寺の音楽バーで、看板娘が“間借り”という形態でカレー愛を追求していた
スパイス尽くしのセット。

優紀さんに解説してもらおう。

「左がラムカレーで右が冬瓜と豆のカレーです。使っているスパイスはクミン、レッドペッパー、パプリカパウダー、ターメリック、ベイリーフ、フェヌグリークなど」。

上に乗っているのはナスのアチャール、アボカドのなめろう、オレンジピールのキャロットラペ、ズッキーニのスパイスフリット、うずらのスパイス味玉だ。

東高円寺の音楽バーで、看板娘が“間借り”という形態でカレー愛を追求していた
すぐにでも店を出せるのではないだろうか……。

なお、ライスのお米は友人のケータリングユニット「出張ほぐれおにぎりスタンド」を通じて仕入れたほぐれブランドの佐賀県産「さがびより」を使用。

東高円寺の音楽バーで、看板娘が“間借り”という形態でカレー愛を追求していた
全国のお米を使ったイベント企画やケータリングを行なっている。

さて、優紀さんは横浜市出身。子供の頃からマーチングバンドに所属していた。

「マーチングバンドというのは、楽器を演奏しながら陣形を作って動く競技。入ったきっかけのひとつは衣装がかわいかったから。8分間やりきるとすごい達成感なんですよ」。

東高円寺の音楽バーで、看板娘が“間借り”という形態でカレー愛を追求していた
けっこう強いチームにいたそうです。

そして、カレーである。

「もともとは普通の欧風カレーしか知らなかったんですが、銀座で働いていた時代にいろんな種類のカレーを食べ歩いて、その奥深さにハマりました」。

東高円寺の音楽バーで、看板娘が“間借り”という形態でカレー愛を追求していた
カレー活動はインスタで発表、その名も「#ランチカレー部」。

先日は「@tomcatspicelab」というインスタページを新たに立ち上げた。

「2、3年ぐらい前にスパイスをもらったのを機に、家でたまに作っていたんですが、コロナ禍でおうち時間が増えて。ちゃんとスパイスを揃えてレシピ本を読み漁り本格的に研究を始めました。作るのが上手な友人やお気に入りのお店の人に相談すると『分からないことあったら何でも聞いて』って快く教えてくれてカレー仲間はみんな優しいです」。

そんな優紀さんにとっての癒やしは文鳥の「しらこ」ちゃん。

東高円寺の音楽バーで、看板娘が“間借り”という形態でカレー愛を追求していた
あくび姿さえかわいい。

というわけで、間借りとはいえ念願のお店を出せた優紀さんについて、オーナーの片野匡博さん(40歳)はこう評する。

「人柄もいいし、元気で明るくて、誰からも好かれるし、お料理も美味しい。最高ですよ。別におべっかでも何でもなく、そう思います」。

東高円寺の音楽バーで、看板娘が“間借り”という形態でカレー愛を追求していた
以前のオーナーが引退するということで、店を引き継いだ片野さん。

この店の特徴は、何といってもグランドピアノがあること。

しかし、片野さんは「僕は弾けないんですよ」と笑う。

弾くフリをしてもらいました。

壁には2本のギター、1本のベースが架かっているが、やはりこれも弾けないそうだ。

左が友人から買ったもの、中央のベースがお客さんの置き楽器、右がお客さんから貰ったもの。

「楽器弾けないのに、なんで音楽バーやってんのと言われます(笑)。でも、聴くのは昔から大好きなんですよ。たまに店内でライブも行いますよ」。

トイレにはボブ・ディランのポスター。

カウンターには常連の男性がいた。優紀さん、どうですか?

「昼の顔と夜の顔が違うところが面白い。そう、お酒です」。

「やめてくださいよ(笑)」と優紀さん。

「あとは、料理のことをかなり熱心に勉強してますよね。以前食べたカレー、美味しかったな。何だっけ? ニシンのフィッシュカレー? 完全に専門店の味でした」。

ここで、小さい子供を連れたご夫婦が来店。カレーをテイクアウトするようだ。よくよく聞けば、奥さんのほうが優紀さんと大学時代の同級生とのこと。

昔の縁が繋がっているのは嬉しいですね。

ところで、表の看板に「ホッピー」の文字があることに気付いていた。グランドピアノの演奏を聴きながらホッピーを飲める店はそうそうないだろう。

コロナが終息したら再訪しよう。

では、優紀さん。最後に読者へのメッセージをお願いします。

次回の間借りカレーは9月12日(日)。

【取材協力】
ミュージックバー 音海
東京都杉並区高円寺南1-23-7 堤ビル1F
電話:090-6138-6176
https://twitter.com/musicbar_onkai
www.instagram.com/musicbar_onkai/

 

「看板娘という名の愉悦」Vol.165
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。雰囲気が良くて落ち着く。行きつけの飲み屋を決める理由はさまざま。しかし、なかには店で働く「看板娘」目当てに通い詰めるパターンもある。もともと、当連載は酒を通して人を探求するドキュメンタリー。店主のセンスも色濃く反映される「看板娘」は、探求対象としてピッタリかもしれない。
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石原たきび=取材・文

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