コロナ禍以降のニューライフスタイルにおける現実的な洋服として「BLK」を復活させたホワイトマウンテニアリング デザイナーの相澤陽介さん。
都会での“大人の事情”が増えた一方で、フィールドという観点でいえば、今年完成する軽井沢のアトリエも服作りに大きく関係しているそうだ。

相澤陽介さん
1977年生まれ。2006年より自身のブランドを開始、ʼ16年よりパリコレクションに参加する。本文に挙げた活動のほか、ブランドのディレクションやヤマト運輸の制服デザインなど、活躍するフィールドは多岐にわたる。
「自分のブランドを設立した頃から、いつかは、という思いがありました。結果、3年くらいかかりましたが。
『服を着るフィールドはすべてアウトドア』。これは東京でも山を感じられる都会のアウトドアという意味合いで掲げたコンセプトですが、やっぱり自分でそれを実践していかないといけないなと感じたんです。
薪を割ったり、焚き火をしたり、山で過ごすことで、いろいろ見えてくるものも変わり始めていますね」。

例えば、往来の高速道路。約2時間半運転するとなると、快適な姿勢でいられることや、シワができにくいこと、細かくいえば、ポケットから物が落ちないなど、服が備えるべき機能的条件はおのずと見えてくる。
そこに「ゴアテックス」や「ポーラテック」などの機能素材、あるいはゆるやかなパターンなどをミックス。自身が都会と自然をボーダーレスに往復するなかで、大人の男にとっての現実的な洋服を探し続けているのだ。

「アウトドアウェアを、そのまま着ることをしない自分らしい服作りとなっています。 “ホワイト”のコレクションが、ファッションのカレンダーのなかでシーズンに合わせて進めていくものだとすると、BLKは、自身の生活からフィードバックさせて徐々にアップデートするイメージです。
アトリエの話をしましたが、実は完成しているのは、9割ほど。過ごしてみると、いろいろ直したいところが見えてくる。サグラダファミリア状態です(笑)。
BLKも、アトリエと同じように、調整しながらゆっくりと育てていきたい。だから、これが完成形!というのはないのかもしれません」。

そして、相澤さんの今季注目を集める取り組みのひとつといえば、ユニクロ アンド ホワイトマウンテニアリングのローンチだろう。
メンズ・ウィメンズ・キッズの全9型が登場。都市とアウトドアの境界を越えるだけでなく、ユニセックスで着用可能なアイテムも入り、ジェンダーの境界さえも越えている。
ユニクロとの共業で踏み出した次なる一歩

「レディスも手掛けていますが、僕自身は、男性服を構わず着るようなニュートラルな女性のファッションが素敵だと思っています。
ファッション一辺倒ではない、バックグラウンドが滲み出るように感じるんです。

子供服に関してもデザイナーであり、父でもある相澤さんの思いが反映されている。
「以前から、子供服を作りたいと思っていました。オーシャンズ読者ならわかっていただけると思いますが、子供服って、実際あまりお金がかけられないじゃないですか。でも、ユニクロは子供服でも今どきのシルエットで素材も価格も優秀なんですよ。
また、僕ら世代ならファッションから少し遠ざかっていた男性もいると思います。ユニクロが掲げるライフウェアというコンセプトのなかに、僕のホワイトマウンテニアリングが入っていたら、女性服や子供服を通じて、もう一度ファッションに興味を持ってもらえるかなという思いもあります。自分のブランドだけで裾野を広げることはできませんから」。

多様なプロジェクトの中で、実践を通じて服作りに還元する。ボーダーレスな行動力もまた相澤さんの服が支持される理由といえそうだ。
芹澤信次=写真(人物) Taichi=写真(取材) 菊池陽之介=スタイリング 竹井 温(&’s management)=ヘアメイク 髙村将司=文