児童虐待の疑いがあるとして沖縄県警が2023年1~10月に児童相談所に通告したのは2045人(速報値)で、過去最多だった前年同期より107人多いことが、県警少年課のまとめで分かった。内訳では心理的虐待が全体の約8割を占めた。
担当者は社会的な関心の高まりを要因に挙げ、「『子どもの泣き声がする』『怒鳴り声が聞こえる』などの通報が以前より増えた」と分析する。(社会部・比嘉海人) 少年課によると通告人数のうち身体的虐待は207人、ネグレクトは192人、性的虐待は5人。心理的虐待は1641人と突出し、そのうち家庭内で起きたDVの現場に児童がいる面前DVは1292人で、約8割に上った。 DV件数も増加している。県警人身安全対策課によると、23年1~10月に配偶者に対する暴行や傷害などで摘発した件数は165件(速報値)で、過去10年間で最多だった22年の年間160件をすでに上回っている。 面前DVは、04年の改正児童虐待防止法で心理的虐待の一つと認められた。
学習障がいや不登校などの影響が懸念されている。 那覇市の児童精神科の医師は「幼少期に面前DVを受けると『自分が悪い子だからけんかしているんだ』と誤認し、自尊心が傷ついてしまう」と説明。「自己像をつくれず、思春期に問題行動として表れる子が多い」と話した。 児童虐待が少年の非行や犯罪につながる面も。少年犯罪を扱ってきた県警関係者の1人は「摘発した少年の9割の家庭環境に問題があると感じる。虐待を受けている子も少なくない」と指摘。
親が食事を与えないネグレクトのため、帰宅せず非行に走った少年の事案も扱ったとし「児童虐待の対策に力を入れることが、非行少年を減らすことにもつながる」と強調した。■田中寛二・琉球大学准教授(臨床心理学)の話 児童虐待は統計上4分類されるが、児童への影響は複合的に絡む。特に心理的虐待は、他三つの虐待場面でも絡んでいることが圧倒的に多い。 虐待を受けた子は(1)心の病気になる(2)別の行動でストレスを発散する(心理学用語の「アクティングアウト」)-の2パターンに分かれる。非行に走る子がいるのも事実だ。 一概には言えないが、非行の背景にはネグレクトがあることが多い。
県内で最たる例が未成年飲酒で、家庭に軸足がついていない「家庭離反」の児童らとみられる。 面前DVが、ネグレクトの入り口になり得る。夫からのDVでうつ病になった母親が子育てがままならなくなるなどの例がある。 児童虐待を減らすには、虐待をしてしまう親のケアが重要な要素だ。精神的な病を持つ親には子育て支援員を付けるなど人的支援が求められる。 一方、過去に虐待を受けた親が子に繰り返すといわれることがあるが、研究上はその関係性は薄い。
大切なのは「親になる覚悟と準備」(親準備性)。現代社会ではこの教育が欠如しており、拡充も課題だ。(臨床心理学)
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